閑話 忌子の
今までスマホから投稿していたので、段落始めに空白を打てませんでしたが、それを直しました。内容は変はっていません。
「そうやって飲むの?」
まさか手からとは。
「体中どこからでも出来る。飲むというより、吸収だな。」
「ねっ、ねえ、もしかしてだけど、あれだけあっても水は足りないの?」
少なくない量の水がなくなった。いつでも川とか水辺が近くにあるとは限らないし。
「これは一度吸収した水だ、また吸収しても足しにはならん。半日で、、、水なら半日で、大人が一日で飲む量の10倍以上。血なら、そうだなウサギ2,3羽だな。」
なるほど。それぐらいならなんとかなるかな。それに、血の方が燃費がいいなら、いざとなればこっそり混ぜちゃおう。
「言っておくが、私は血ではなく、水が飲めると聞いてお前についていくのだからな。」
む、なかなか鋭いわね。
「心配しないでいいよ。この近くに小川があるから、そこに行けば好きなだけ飲めるよ。」
今はね。
「ならば早く行こう。水が私を呼んでいる。ああ、これ服と武器だ。さあ準備は整った、いざ行かん。」
まったく、慌てん坊なんだから。
「その前にいくつか確認しない?お互いの能力とか、何が出来るのかとか。」
自分の力を把握しないと、出来ることも出来ない。
「ならん。先ずは水だ。水を飲まないとおちおち考え事もできん。」
「はいはい。じゃあ付いてきて、こっちだよ。」
もー、仕方のない子。
泉に来る時に見つけた小川に案内する。ユニエは私の周りを、漂うようにフヨフヨ浮かんでついてくる。森の中だから、木が生い茂っているのに、枝葉を器用に避けている。
時々聞こえる鳥の囀り、木のざわめきが心地よく、木漏れ日がさし、程よい気温で過ごしやすい。今までは森に入る時は、一人で狩りに行くだけだったから楽しむ余裕もなかったけど、大切な人と時間を共有出来るだけで、こんなにもちがうんだ。
川に着いた。その途端
「水だー!!」
無邪気に歓声を上げて、ユニエが川へ飛び出した。そして川の中ではしゃぎまわっている。普段は面倒見が良くて、大人っぽい所があるけど、こういう所はまるっきり子供ね。
ユニエを眺めていたら、急に顔を引き締めて一言。
「、、、なんだ。」
「別に〜。可愛いなって思っていただけだから。」
はしゃいでる所を見られて、恥ずかしかったのね。
「水が美味かっただけだ。」
「ふふ、わかってるよ。」
必死にごまかしてる感じが、とても微笑ましい。
ニコニコしながら見ていたら、ユニエが何か思いついたような顔で聞いてきた。
「リーシャ、今年で幾つになる。」
「?10歳だけど。」
いきなり何かな?
「リーシャ、よく聞け。私の方が年上だ。お前よりお姉さんなんだぞ。」
すごいどや顔。本当にそうなの?怪しいわね。と言うか、そんなことで勝ち誇ってるようじゃ、まだまだ子供じゃないの。
「クスッ、そういう事にしといてあげる。」
大人の余裕で答える。本当に可愛いなあ。
にこやかに微笑みかける。そしたらユニエは、川に顔を突っ込んで静かになった。
あらら、拗ねちゃったみたい。子供っぽい人。
しばらくじっとしていたら、
「よし満足だ。」
「もういいの?まだそんなに飲んでないんじゃない。」
大人の10倍って聞いてたけど?
「いいんだ。もう、いいんだ。」
なんだかやけにほろ苦い表情で、しみじみと言うね。
「ふーん。私も喉が渇いてきたし、飲もうかな。」
「待て!早まるな!」
はい?
「これを飲め。」
ユニエが水球を差し出してきた。
「なんで?」
「悪い事は言わない。こっちを飲んだ方がいいぞ。」
「ん?わかったよ。」
彼女は水の精霊。私にわからない事がわかるんだろうな。
「あっ、雨だ。」
水を飲み終わった途端、ポツリと来た。幸いにも、川の上まで木々が覆っているから、傘がわりになってあまり濡れないけど。
その時、ユニエが叫んだ。
「雨だ、、、雨を降らせればいいんだ!」
えっ?えっ?
「リーシャ、私は決めたぞ。天気を、私は天気を操れるようになってみせる!」
「えっ、そう。頑張ってね。」
なんなの急に?
「お前に夢はあるか!!」
本当になんなだろう。
夢?
「今は、、、ユニエと一緒に居られれば、それでいいかな。」
それで充分幸せで、楽しい。
「もっと大きな夢はないのか!」
ユニエを守れるくらい強くなるとか?いや、彼女が求めている答えは、もっと明確で大きな夢の事だよね。例えば、、、例えばなんだろう。今まで集落では一人ぼっちだったし、生きるのに精一杯だったから、考えたこともなかったな。夢、なんだろう。
「、、、ないよ。そんなのないよ。」
わからない。私は何を目標に生きていけばいいんだろう。ユニエ以外に、私には何もないのかな。
「ならば私がお前の夢を探す事を手伝ってやる。だからお前も私に協力しろ、リーシャ!!」
そのセリフは、【リーシャ】が言ったセリフと似ていた。
「握手だ。これから共に歩んでいこうではないか。」
共に歩んでいこう。共に生きていこう。まさにそれは、私が望んでいた言葉だった。
愛おしさと喜びが溢れてきて、思わず彼女を抱きしめた。
「わふ。」
「ありがとうユニエ、ありがとう。
ずっと、ずっと一緒に居ようね。私から、離れないでね。」
私はユニエより年上で、しっかりしてると思っていたけど、案外彼女のお姉さん発言は、嘘じゃないかもしれないな。彼女は私の前に出て、導いてくれた。
私はリーシャで、この子は守るべきユニエ。そう考えていたけど、違った。「白竜と少女」の彼らの関係は対等だった。
お互いに足りない所を補って、歩んでいく。寄り添いあって、支え合って生きていく。母娘でも、姉妹でも、友人でもない。夫婦。女の子同士だとか、まだ子供だなんて、関係ない。私とユニエの関係は、夫婦と呼ぶのがふさわしいんだ
「ああ、ずっと一緒だ。」
死が二人を分かつまで。
抱きしめ返されて、体に回された腕から温もりを感じながら、心の中で誓いの言葉を呟いた。
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「先ずは街に行ってみよう。情報収集だ。」
ユニエが目標を決めた。
「そうだね、じゃあ、お互いに出来る事とか確認しようよ。今度こそ。」
今の私には、この子を支えることしか出来ない。でもいつか、いつかきっと、私も夢を見つけて、ユニエに支えてもらうんだ。
夫婦って、そう言うものでしょ?
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〈エルフの集落〉
「族長、よろしかったのですか。」
「忌子のことか?」
「はい。あれは代償魔法を使えます。いくら子供とはいえ、逃亡に成功する可能性もあります。」
「問題なし。忘れたか?この森は主様の眠る地。だがその御力の届かぬ外周部には、豊富な森の動物を喰らおうと、魔獣がウロウロおるは。さらにはそれを捕食しに来た悪魔までいるとなっては、もはや誰にも、少なくとも単独では不可能。」
「そうでありましたな。いや、これはうっかり。申し訳ございません。」