第31話:覚悟
「ここって…」
あまりに突然のことだったため半ば混乱しつつ辺りの状況を再確認する。右を見て左を見て後ろを見て正面に向き直る。視界に映るのはやはり見慣れた光景に見慣れた人物達。
「俺は帰ってきたのか?でもどうして?」
「おにいちゃん!」
「おわっ!」
床に尻餅をついていた和哉の元へアリアが飛び込んできた。そこへ続いてメルも飛び込んでくる。
「すごいねおにいちゃん!いきなりおへやのなかにおにいちゃんがでてきてアリアびっくりしたっ!」
「お兄ちゃんはあんなことも出来るんだねっ!私にも教えてっ」
「ちょ、ちょっとアリアもメルも待ってくれないかっ」
矢継ぎ早に言葉が飛んでくるために応対も一苦労である。だが二人も興奮しているようでなかなか話を聞いてくれないでいた。
「こらっ二人とも。カズヤさんが困っているでしょ?とりあえず離してあげなさい。それに二人とも他に言うことがあるでしょ?」
「「んー……はーい」」
しかしティアの言葉は届いたようであり二人とも渋々ながら和哉の元から離れた。そしてティアの元まで歩いていく。ランドもそこへ歩いていき三人揃ったところでカズヤへと向き直った。
「偉いね二人とも、それじゃあさんはいっ」
「「おかえりなさい!」」
「おかえり兄ちゃん」
期間で言えば凡そ二十日ほど孤児院から離れていたのだが、久しぶりに聞いたその言葉はとても懐かしく心が温まるのを感じた。ふっと先程までの嫌な空気が消えていくのを感じ自然と笑みがこぼれる。
「あぁ、ただいまみんな」
和哉は笑顔で迎え入れてくれる人達がいるということを思い出していた。
「それで…どうして俺はここにいるんだよ、なぁルティス?」
孤児院の面々との再会を果たし、一段落着いたところで和哉は自分の部屋へと戻った。そして孤児院に着く前に聞いた声の主、和哉の使役する精霊であるルティスへと話しかけていた。一方のルティスはその言葉に溜息をつきながら返答していた。
「あまりにも長い時間、主がぐだぐだぐだぐだしていたからな。いい加減手を貸してやろうかと思ったのだ」
「手を貸す?どういうことだ」
「それは主が一番分かっているのではないのか?あのままあの部屋で唸っていたところで結果は出ないのだろう。それならば主の答えがまとまりそうな場所へと転移させてやろうと思ってな」
「うっ…まぁ確かにルティスの言うとおりだろうな……それにしてもやっぱりさっきのも魔法なんだな?」
「もちろんだ。あれはシフトムーブという転移魔法の一種だ。少し特殊な魔法なので会得は難しいやも知れぬが、主も訓練さえすればいつかは使用できるようになるだろう。もっとも使用できるのは自分が一度見たことのある場所への移動の時のみだがな。」
「なるほど……ありがとうなルティス。お前のおかげで少し気持ちが楽になったよ」
「礼には及ばぬ、我が勝手にやっただけだ」
「…そっか、それじゃあ俺の独り言だって言うことにして聞いておいてくれよ」
「ふむ、それならば良いだろう」
和哉からはルティスの表情の変化は見えない。だからルティスが少し照れているように見えたのは和哉の気のせいかもしれない。だがいつかはそんな表情も見せて欲しいと感じていた。
「カズヤさーん、ルティスさーん。ご飯ですよー」
「はーい今行くよー。よしそれじゃあ行くとするかルティス?」
「ああ」
一階からティアの呼ぶ声が聞こえた。こちらについたのが夕方だったためこれから夕食の時間というところである。和哉はルティスに呼びかけると二人でゆっくりと階段を降りていった。
「すーすー……」
「んん……」
「良く寝てるみたいだな…悪いなランド。一緒に連れて来てもらって」
「気にしないでよ兄ちゃん、ふぁああぁ。ごめん兄ちゃん、俺もそろそろ寝るよ。あっ、あと明日の稽古忘れないでよね?」
「わかってるよ、ランドもちゃんと早起きしろよ?それじゃあおやすみ。また明日な」
「うん、おやすみ」
夕食を済ました後は和哉にとってあわただしい時間となった。アリアとメルが和哉にべったりだったからだ。一緒に遊ぼう、何かお話してなどその他にも様々なことを要求されて、困りつつも何とか相手をしていたのだった。
だがあわただしい時間だったからといって別に嫌だというわけではなかった。二人ともまだまだ小さな子供で、本当なら甘えたい盛りのはずである。和哉は自分が二人にとって甘えられるような存在になっているのであれば、それは喜ばしいことだと考えていたからだ。
そしてそんなふうに二人を相手していると暫くして眠たい目をし始め、電池が切れたおもちゃのように疲れて眠ってしまったのだった。そこを和哉とランドで運んできたのだった。
二人が和哉にべったりとくっついていた時ランドはというと、流石に年齢も二人よりは上であるし兄としての立場もあるため、そこまで和哉へと話しかけてくることはなかったのだが、二人が寝てしまった後にはちゃっかりと稽古の予約を申し込んでいたのだった。やはりランドも和哉が帰ってきて嬉しかったのだろう。
和哉はランドが部屋に帰っていくのを見送ると一階へと降りていった。そこには片付けも済ませお茶の準備をしているティアがいた。
「お疲れ様です、カズヤさん。お茶でもどうですか?」
「あぁ、貰うよティア」
和哉はティアからお茶を受け取るとゆっくりと啜った。今は土の月の半ば。元の世界の気候で言うならば秋といったところであり、暑くもなくかといって肌寒くもないという過ごしやすい季節である。程よく温められたお茶は喉を通って身体の中心からじんわりと熱を伝えていた。
「三人の相手をしてくださってありがとうございました。カズヤさん引っ張りだこでしたね」
ティアはくすくすとその時のことを思い出しながら笑っていた。和哉もお茶を飲みながら返事をする。
「あぁ、それにしてもまさかあれほどとは…」
「三人ともやっぱり寂しかったんですね。カズヤさんがいないときは大変だったんですよ?何時になったらカズヤさんは帰ってくるのとかあと何回寝たら帰ってくるのなんて言ってたくらいですから」
「それは悪いことをしたな…連絡くらい出来たらよかったんだけど」
「それは仕方ないですよ、遠くにいらしたんですから。あっ、でもルティスさんからカズヤさんからの伝言を聞いたときには嬉しかったですね」
「ルティス、ちゃんと伝言伝えてくれてたんだな」
「はい。無事でいらっしゃるんだと知ることが出来てほっとしました。カズヤさんがこの孤児院に来てから、ここの皆にとってカズヤさんがいるのが日常になってましたから。離れていると少しだけ不安になってしまって」
「ティア」
「あっ、なっ何を言ってるんでしょうね。あはは…カズヤさんが帰ってきてくださって私も少し舞い上がっているのかもしれません」
顔を真っ赤にしながら誤魔化そうとしているティアの姿にカズヤも照れてしまっていた。指先で頬を掻きながら次の言葉を捜していた。
「そっ、そういえばルティスは孤児院ではどんな暮らしをしていたんだ?警護は任せてたはずなんだけど?」
「ルティスさんですか?とても良くして下さいましたよ。家事の手伝いやアリアとメルの遊び相手、他にもランドの稽古の相手役もなさってましたね」
「あいつそんなことも出来るのか?」
「えぇ。特に料理はとても上手でした!流石に今よりもずっと昔の世界で旅してらしたので料理方法は随分異なってましたけどね。あっという間に虜にされてしまいました」
「まさかそんなに万能だったとは…」
料理上手のティアをしてあんなことまで言わしめるルティスの実力とはいかに?と妙なところで和哉は自分の精霊の意外な実力を目の当たりにしていた。
「でも…」
少し伏し目がちにティアが話し始めた。和哉も言葉のトーンが先程よりも少し落ちていることを感じていた。
「カズヤさんがいないとやっぱりどこか物足りないんです…おかしいですよね?ルティスさんのおかげでカズヤさんがいらっしゃるときと同じ人数で暮らしているのに」
寂しそうな表情を見せるティアの笑顔を見て胸が痛んだ。そして決断の時が迫られていることを感じた。
「ティア…」
「何ですか?」
「俺は…王都に行こうと思う」
「っ!?…」
和哉はそこまで語ると自分にかけている魔法を解いた。髪の先端からだんだんと黒く染まっていき、完全に黒く変わると瞳の色も変化した。
「黒い髪に黒い瞳…この姿をした人物のやるべきことは王都にあるのかもしれない…」
「そっ……それじゃあ…お別れ…ということですね……」
ティアは顔を俯かせて肩を震わせていた。和哉も自分の言葉がティアを俯かせていることが嫌だった。だが和哉の言いたいこと、本当に伝えたいことはその言葉ではなかった。だからこそ和哉は声を発した。
「だけどっ!」
和哉は自分に再度魔法をかける。黒髪と黒い瞳は姿を隠し別の色へと変わっていく。
「俺は…柊和哉は…ここにいる皆を…ティアを護りたい。だから俺と一緒に王都に来てくれないか?」
「えっ?」
「俺が勝手なことを言っているのは分かっている。この場所はメルやアリアやランドにとっても、もちろんティアにとっても大事な場所だ。そこを出て王都に来て欲しいだなんて虫が良すぎるのも分かってる。だけど俺は自分が思っていたよりも欲張りだったらしい。ティア達が暮らしてきたこの国が傷つくのも黙って見てられない。だからと言ってティア達を放ってそちらだけを優先するなんてことはもっと出来ない。だから…俺の傍にいて欲しい。傍で護らせて欲しいんだ」
「……………」
辺りを沈黙が支配した。和哉は自分の嘘偽りのない気持ちをティアへと伝えた。自分の傲慢とも取れる願いを。
そしてその沈黙は数分間にも及んだ。長い長い沈黙。俯いたままのティアは何も話そうとしない。
(駄目…なのか…?)
「……王都は…」
「っ!」
やはり無理だったかと思ったその時、ティアの声が聞こえてきた。か細く少し弱弱しい声が。だがきちんと意思を持った声が聞こえてきた。
「王都は…物価が高いでしょうか?……」
「………高くても心配しなくていいよ。ちゃんと稼いで見せるから」
「……やりくりくらいはさせて下さい…することがなくなるじゃないですか」
「…それなら落ち着いたら向こうでも孤児院を開こう。きっとまた家族が増えるよ」
「…はいっ」
「………ありがとう、ティア」
ティアからの返事を聞き、和哉はゆっくりとティアの元へと歩いていきティアを抱きしめた。ティアもそっと手を回してくれた。
あの後和哉達はそれぞれ部屋に戻り、朝を迎えた。翌朝ランドとの稽古を済ませた後、朝の食卓では昨日のことについてティアから皆へと説明があった。皆思っていたよりもあっさりと了承したことに和哉としては驚いたのだが、そうなってくれて嬉しいと思う気持ちの方が強かった。
そして王との約束を守るために和哉は、ルティスへ王都への転移を頼んでいた。
「お兄ちゃん、今度は早く帰ってくるよね?」
「アリアもまってるからー」
「今まで兄ちゃんに稽古してもらわなかった分、しっかり稽古してもらう予定だから早く戻ってきてくれよなっ」
「あぁ、今度帰ってくるときはアルトも連れて帰るから」
子供達にそれぞれ別れを告げて頭を撫でてやる。この仕草も久しぶりだったため皆嬉しそうにしていた。皆にやっていると横からティアの声が聞こえてきた。
「カズヤさん、お気をつけて」
「うん、すぐ帰ってくるから待っててくれ。それじゃ」
「はい……あ、あの」
ティアの心なしか不満そうな声を聞いて和哉は先へ進もうとしていた足を止めた。そしてティアのところまで戻ってくると、ティアの頭を撫でてやった。
「それじゃあまた。ルティス頼む」
「心得た……主よ」
「どうしたんだ?」
「戻ってくる前より面構えがマシになったな。男児ならば確りとしてもらわねば」
「そうだな、うん。わかったよ」
「うむ。それでは主よ、行って来るがいい」
ルティスの言葉が聞こえると前回のように、視界が光に包まれた。そして次の瞬間
-スタッ
視界は元いた王城の一室へと移り変わった。今度は前回のように尻餅をつくことはなかったが、その代わりにその場にいたアルトを踏んづけてしまっていた。
「いってー!なにしやがんだよ、カズヤ!……ってカズヤかよっ!お前今までどこ行ってたんだよ?城ん中軽くパニック状態だぞ?…あいつも滅茶苦茶気にしてたしよ」
身体の痛みを訴えると同時に現状まで教えてくれている親友に、少しだけ悪いことをしたなと思いつつもやはりそこまで気にすることもないかと軽く返事をした。
「いやー、ちょっとそこまでな」
「ちょっとそこまでって……軽いなおい…」
「そういえばアルト?あいつって誰のことだ?」
「あいつ?…俺あいつなんて言ったっけ?」
「言ってたよ、滅茶苦茶気にしてたって」
「まぁまぁ細かいことは気にすんなよ、なっ?」
あからさまにはぐらかされたように感じたがアルトが言いたくないのであれば言及する必要もないかと考え、和哉は自分のやらなければいけないことを最優先することにした。
「とりあえず昨日の事について陛下に返事をすることにするよ。どうすれば会えるかな?」
「うーん。まぁ兵士もそこらを駆けてるだろうし、適当に見つけた奴に声かければ大丈夫じゃねえか?」
「オッケー、それじゃあちょっと行って来るよ」
「おう、行って来い」
和哉はアルトにそう告げると部屋を出て行った。
「あいつも腹を括ったのか?……まっ、あの様子ならとりあえずは俺の心配するようなことはなさそうかな?」
残されたアルトは一人部屋の中でそう呟いていた。
和哉は部屋を出るとすぐに近くを走っていた兵士に話しかけた。少しだけ驚かれたものの用件を話すとすぐさま王へと連絡が届き王の執務室へと呼ばれることとなった。どうやら王は和哉がいなくなったことを聞き、見つけ次第丁重に連れてくるようにと伝達していたようでありそこまでの問題ごとにはならなかったようである。ちなみに兵士の間で和哉の顔が割れていたのは、先日行った騎士団員との戦闘を多くの兵士が観戦していたからのようだ。
-コンコン
「陛下、カズヤ・ヒイラギ殿をお連れしました」
「カズヤ殿に入っていいと伝えてくれ、そしてこれから私はカズヤ殿とある話をする。速やかにこの場から下がるのだ」
「かしこまりました。それではヒイラギ殿、中へどうぞお入りください」
兵士は王へと和哉が来たことを伝えると、すぐさま部屋から離れていった。和哉はゆっくりと扉を開けて中へと入った。室内には執務用の机に腕を置いて腰掛ける王とその傍にカーツが控えていた。
「カズヤ殿、部屋からいなくなったと聞き心配していたのだが」
「申し訳ありません陛下。私のことを気にかけてくれている者の助けを借りて、ある場所へと赴いていました」
王の言葉に対し和哉は深々と頭を下げた。だが王は以前のように振る舞い、その行動を嗜めた。
「頭など下げる必要は無い。それにしてもある場所とは?」
「はい、私にとって大切な場所です」
「ふむ、その場所はあえて聞くまい……それでその場所から戻ってきてくれたということは、私の言葉の返事を考えてきたということかね?」
「はい、陛下…ただしある条件を飲んでいただければですが」
和哉は王に対して条件を提示するなどということを臆面もなくそう言ってのけた。王は隣にいたカーツと目を合わせる。厳しい表情を構えたまま王は和哉へと尋ねていた。自分の予想ではそれほどまでに野心を携えたものには見えなかったが、それは勘違いだったのだろうか?王の心境は渦巻いていた。だが王の考えとは予想外の答えが和哉から返ってきた。
「この王都に住まいをいただけないでしょうか?出来ればそれなりの大人数で暮らせてあまり華美ではない住まいがいいのですが」
「……どういうことだね?」
「今一緒に暮らしている者達とこちらへ越したいのですが、住まいがない状況でして。言葉の通りなのですがご考慮いただけないでしょうか?」
王は再びカーツと目を合わせた。ただし今回は虚を突かれた表情をしており、その状態から立ち直ると暫くして王は笑い始めた。
「はっはっはっはっ!わかった、カズヤ殿の要望通りに住まいを提供しよう。細部についてはカズヤ殿が実際に建築現場へと赴き、担当の者と相談して決めてほしい。本格的に住まいができるまでは仮住まいを手配することにしよう。しばらくはそこで皆と暮らすとよい。仮住まいの場所の連絡はこの町のギルドへと送っておくのでそこで確認してくれ」
「ありがとうございます、陛下」
「礼を言う必要などないよ、寧ろこれから力を貸してもらうのはこちらなのだから」
「わかりました。ではこれから私は私の護りたいもののためにこの国の力となりましょう」
「うむ、よろしく頼む」
王は立ち上がると和哉へと近づいていき、右手を差し伸べた。和哉も差し伸べられた手を握り締めた。
そして挨拶をすると和哉は部屋から立ち去って行った。
「不思議なものだな、カーツよ」
「はい、昨日の戸惑いが嘘のようでした。たった一日であそこまで立ち直らせることの出来る人物が、カズヤ殿の傍にはいるということですね」
「影で彼の力となる存在…か。我等はその者達にも感謝しないといけないな」
「えぇ……さあ心配事はなくなりましたし政務に励んでいただきましょうか」
「カーツよこんな空気に水を差すものではないぞ?」
「そうでもしないと国はなりたたんのですよ、さぁ働いてください」
「やれやれ、気苦労が絶えんよ全く…」
王はカーツの言葉を聞き文句を言いながら、和哉が去っていった扉を見ていた。
「よっし、お土産も買ったしそろそろ帰るとするか」
「そうだな。向こうに帰るのも久しぶりだしな」
アルトと和哉は街中でお土産を買い、馬車の止まっている厩舎へと向かっていた。
「俺は昨日帰ったんだけどな」
「ん?今なんか言ったかカズヤ?」
「いや、なんでもないよ。それにしても今度からはこの近くが住まいになるのか…賑やかで人も多いから皆が心配だなぁ…特にメルやアリア辺りが…」
和哉は闘神祭の出店ではしゃいでいた二人のことを思い出していた。流石に祭りが開かれているときほど賑わっているわけではないが、王都だけあって賑わいはカーサの町とは比較にならない。最初は冗談で言ってみたのだが、考えてみれば考えてみるほど心配になってしまっていた。一方アルトは和哉の言葉を聞いて何か引っかかることがあったらしく、頭を悩ませていた。
「今何かおかしな言葉が耳を通り過ぎていったような……カズヤ今なんて言った?」
「特にメルやアリア辺りが?」
「いやその前」
「いや、なんでもないよ?」
「その後だ」
「今度からはこの近くが住まいになるの」
「それだよっ!!何だその話俺全く聞いてないぞ!」
アルトの反応を聞いて、和哉はアルトにあの件について全く話していなかったことを思い出した。目の前で怒っているアルトに苦笑しながら和哉は返答した。
「あっ、ごめん。アルトに話すのをすっかり忘れてた」
「何だそのぞんざいな扱い!酷いじゃねぇか!お前は親友を何だと思ってやがる」
「悪かった悪かった。それでアルトもついてくるんだろう?」
「もちろんだよ、まだお前に勝ってないしなっ!」
「はいはい、勝てるといいな」
「お前…絶対いつか泣かす…」
「ははははっ」
「笑ってんじゃねぇよ!」
アルトと口喧嘩しながら和哉はゆっくりと歩みを進めた。
秋晴れの空、雲も二人の歩みに合わせるように流れていた。
ひとまずこれで魔物討伐編から続いていた話は終了となります。
これまでの三十一話で一章が終わりといったところです。
次回は幕間もとい番外編を入れて次々回から新章となるのでこれからもよろしくお願いします!