第9話「魔王城」
ライラの案内で、シンとリナは魔族領へ向かっていた。
ライラ「そろそろ魔族領に入るわ」
リナ「ええ。
そこら中から強い魔力を感じるわ」
シンは相変わらず欠伸をしながら付いてくる。
リナ(あいかわらすね。
でも、今日はあの余裕が頼もしく感じるわ。)
シン「リナ!」
リナ「どうしたの?シン」
シン「大変なことに気づいてしまった」
リナ「なによ。どうしたのよ」
シン「今日のドラマ、録画するの忘れてた...」
リナ「はぁ?」
シン「夕方には帰れるかな?」
リナ「たぶん無理ね。」
シン「あのさ、魔族領行くの明日にしない。」
リナ無視。
シン「やっぱだめか...
はぁ...今季ドラマの中で一番面白かったのに。
今日で真犯人がわかるはずだったのに...」
リナ「私も観てる。
録画してるから大丈夫よ」
シン「ほんとか!リナやるな。
よーし。今日も頑張ろう!」
リナ(なにこの緊張感の無さ...)
その時
前から来る強大な魔力。
恐ろしい怪物が現れた。
鋭い牙。
巨大な体躯。
明らかな殺意。
「グゴォアー!」
リナ(なんという魔力なの...
魔族領にはこんな怪物がたくさんいるっていうの?)
リナ「やるしかないわね」
ライラ「待って!」
ライラが前に出た。
リナ「何してるの!?
危ないわ。」
ライラ「大丈夫だから」
ゆっくりと。
魔物へ近づいていく。
リナの顔が強張る。
リナ「バカ、やめなさい!」
だがライラは止まらない。
魔物の目の前で立ち止まり——
ライラ「……お願い」
静かに言った。
ライラ「通して」
魔物が唸る。
今にも襲いかかりそうな距離。
それでも。
ライラは、目を逸らさない。
ライラ「戦いたくないの」
数秒。
だが、もっと長く感じる沈黙。
やがて——
魔物が、ゆっくりと道を開けた。
リナ「うそ...」
リナが息を呑む。
ありえない光景。
ライラ「行こ」
ライラが振り返る。
まるで、当たり前のように。
リナは言葉を失ったまま、歩き出す。
*
数分後
リナ「……信じられない。」
しばらく歩いた後、リナが口を開く。
リナ「あんな強そうな魔物が、
ライラの言うことを聞くなんて...」
ライラ「魔物はみんな友達」
リナ「え?」
ライラ「子供のころによく遊んでた」
リナ「遊んでた。あの怪物と...」
リナの表情が青ざめる。
ライラ「優しくていい子なんだよ。
...見た目はちょっと怖いけど。」
シン「ちょっと...か」
シンが無表情で言った。
リナ「...」
*
その後もライラの説得で、
魔物たちは道を開けた。
シン「お前、すげーな。」
ライラ「...私も魔族だからね。
みんな家族みたいなものだから。」
シン「家族ねー...」
シンは、自分が巨大な魔物や魔族たちと
一緒に住んでいるシーンを想像した。
シン(俺には無理だな...)
やがて
見えてきた。
巨大な城。
黒く、重く、圧倒的な存在感。
リナ「……あれが」
ライラ「魔王城」
シン「ほえー。迫力あるなー。」
リナ「ここからはさらに気を抜けないわね。」
シンは欠伸をした。
相変わらずである。
門の前に立つ、魔族の門番。
門番「ラ、ライラ様」
ライラ「門を開けて」
門番「し、しかし彼らは人間では...」
ライラ「大丈夫。彼らは信用できる。」
門番「わ、わかりました。」
ゆっくりと門が開く。
無言のまま。
リナは、息を呑む。
(...ついにここまで来た)
*
城の奥。
広い間。
玉座。
そして——
「...来たか」
低い声。
そこにいたのは。
魔王。
圧倒的な魔力。
空気そのものが重い。
リナの体が、わずかに震える。
シンは、変わらない。
いつも通りの無表情。
ライラが、一歩前へ。
ライラ「魔王様」
その声には、迷いがなかった。
ライラ「お願いがあります」
魔王の目が、細くなる。
魔王「ライラ、どういうことだ?
なぜ人間を連れてきた?」
一瞬、言葉を飲み込む。
それでも。
ライラ「彼らは敵ではありません。
信頼できる者たちなんです。
信じてください。」
静寂。
空気が張り詰める。
そして。
魔王の視線が、ゆっくりとシンたちに向けられる。
魔王「...人間を?」
低く、冷たい声。
魔王「信じられるわけがないだろう。
人間は一人残らず皆殺しだ。」
憎悪に満ち溢れた声。
魔王が椅子から立ち上がる。
リナが息を呑む。
ライラは、目を逸らさない。
ライラ「で、でも...」
言おうとした、その瞬間。
魔王の魔力が、わずかに膨れ上がる。
魔王「人間どもよ、
抵抗できるものならばしてみろ。
無駄なことだがな。」
圧が増す。
空気が、震える。
戦いの気配。
リナが構える。
ライラが息を呑む。
そして。
シンが、前に出た。
シン「...はぁ」
面倒そうに。
シン「やっぱりこうなるのか」
肩を鳴らす。
視線を上げる。
魔王「私と戦う気か?
面白い。」
避けられない戦い。
人間と魔族
二つの頂点が
今
ぶつかる。




