第4話「届いた想い」
朝。
リナ「シン、依頼行くわよ」
シン「……」
布団の中で、シンは完全に沈黙していた。
シン(今日はもう少しいける気がする)
シーン
シン(よし!まだいける)
リナ「起ーきーなーさーい!」
シン「ギャー!!」
飛び起きた。
シン「だから近所迷惑なんでやめてもらっていいですか!?」
窓を開ける。
そこには満面の笑み。
リナ「おはよ♡」
シン「最近多くない?」
リナ「そんなことないでしょ。
1日置きにお休みあげてるじゃない。」
シン「今までは週6休みだった。」
リナ「...あなたそれで今までよく生活できてたわね...」
シン「すごいだろ。」
シン、ちょっと誇らしげ。
リナ「全然すごくない。」
*
ギルドは、妙に静かだった。
その中心で。
一人の女性が、椅子に座ったまま俯いている。
リナ「……依頼?」
リナが女性に声をかける。
女性はゆっくり顔を上げた。
目が赤い。
「恋人が……帰ってこないの」
かすれた声。
「森の奥の遺跡に行ったまま……数日」
周囲の空気が重くなる。
冒険者たちは、誰も口を開かない。
それが意味することを、全員知っているからだ。
「……お願い...
あの人を連れてきてほしい。
私にはあの人しかいないの!」
女性は震える声でリナに懇願した。
リナ「...わかったわ!
必ず連れてくる...」
リナは、迷わなかった。
女性の目から、涙が溢れる。
「ありがとう……」
何度も、何度も頭を下げる。
リナは決意に満ちた目でシンを見た。
リナ「決まりね」
シン「へいへい」
*
森の奥。
空気が重い。
踏み荒らされた地面。
血の跡。
リナは女性から借りた写真をしっかり見た。
リナ「……急ぐわよ」
リナの足が速くなる。
シンは後ろからついていく。
何も言わない。
*
遺跡の奥。
崩れた壁にもたれて。
一人の男が、そこにいた。
リナ「……いた……!」
リナが駆け寄る。
全身が血に濡れている。
呼吸は、浅い。
だが——
まだ、生きている。
リナ「しっかりして!」
男の目が、わずかに開く。
「……あ……」
かすれた声。
「……来たのか」
リナ「うん。彼女、待ってるよ」
その言葉に。
男は、泣いた。
リナ「ね。彼女のためにも帰ろう。」
「……頼みがある」
リナ「なに?」
男は息を整えながら、続ける。
「彼女に...伝えてくれ」
リナは、強く頷く。
シンは何も言わない。
ただ、聞いている。
男は、ゆっくりと語り始めた。
「ケンカした後さ」
かすれた声。
「いつも謝るのは俺の方からだった。」
小さく笑う。
「その後、あいつ一瞬だけニヤけるんだ...」
「全部気づいてたって。」
息が乱れる。
それでも続ける。
リナ「それはあなたから直接伝えればいい。」
リナの目に、涙が浮かぶ。
「あと……」
少し間。
「どうでもいい話、よくしてたよな」
「今日、空が綺麗だったとか」
「変な鳥見たとか」
息を吐く。
「正直、何の話してるのかよくわからなかったし、
興味もなかったけど...」
「……楽しそうに話すお前の顔が大好きだったって。」
目には涙。
弱々しい、しかし一片の曇りもない純粋な笑顔。
そして——
最後の力で。
「……愛してる」
「誰よりも」
「ずっと」
声が消える。
静かに。
息が止まった。
リナは、動けなかった。
何も言えない。
ただ、その場に立ち尽くす。
リナ「……助けられないの?」
震える声。
シンは一瞬だけ見る。
シン「……無理だな」
淡々と。
嘘はない。
その時。
奥から、魔物の気配。
男の血に引かれて集まってきた。
だが——
シンが一歩前に出た。
「失せろ」
睨みを一発。
「キーーーーッ!!!」
魔物たちは奇声を発して逃げていった。
シンは男の死体をおぶり、街へと歩き出した。
*
街。
無言の帰還。
「ローレン!ローレン!」
女性が泣き崩れて男の名を叫んでいる。
シン「……ローレンからの伝言がある。
リナ。」
淡々と。
リナ「うん。」
リナは男からの伝言を女性に伝えた。
女性の表情が揺れる。
「ニヤけちゃうの...バレてたんだね...」
涙が溢れる。
女性が崩れる。
そして。
リナ「……誰よりもずっと、愛してるってさ...」
沈黙。
涙が落ちる。
でも。
「……そっか」
笑った。
泣きながら。
「ちゃんと……言ってくれたんだ」
深く頭を下げる。
「この人を連れてきてくれて、ありがとう……」
リナは手で顔を隠しながら号泣。
シンの胸に額を当てる。
シンは無言でリナを抱きしめた。
*
帰り道。
夕焼け。
リナ「……いいな」
呟く。
シン「何が」
リナ「ちゃんと、言葉にできて」
少し間。
リナ「……あんたは?」
シン「何が?」
リナ「好きな人に素直に気持ち伝えられる?」
シン「無理」
即答。
リナは小さく笑う。
そして。
ほんの少しだけ、距離が近づく。
シン「なんか近くない?」
リナ「気のせい」
シン「いや近い」
リナ「気のせいって言ってるでしょ」
リナの中で。
確実に何かが変わっていた。
届かなかった未来。
それでも、届いた言葉。
そして——
誰かの“愛”を見て生まれた、名前のない感情。
それはまだ小さく。
だが確かに——
二人の距離を、変え始めていた。




