第1話「最弱と呼ばれる最強」
森の奥を歩く集団。
昼だというのに木々が鬱蒼と茂り、視界は悪い。
その日、彼らはギルドからの依頼を受け、
ゴブリン討伐に向かっていた。
「ただのゴブリン討伐だろ?楽勝じゃね?」
そう笑ったのは、パーティのリーダーだった。
「おい、シン。ちゃんとついてこいよ」
軽く振り返る声。
シンと呼ばれた男は、気だるそうに片手を上げた。
シン「へいへい」
やる気のない返事。
足取りも重く、明らかに乗り気ではない。
「ったく……なんでこんなの入れたんだよ」
「Fランクとか足手まといだろ」
聞こえるように言われる陰口。
「しょうがねえだろ、人数が足りなかったんだから」
「それにしても、もう少しまともな奴いなかったのかよ」
「あいつ、ほんとついてくるだけで一切働かないって、
ギルドでも有名じゃん。」
周りの声は聞こえてはいるが、シンは全く気にしない。
(早く終わらせて帰りたい。家でゴロゴロしたい。)
それだけだった。
森の奥へ進むにつれ、空気が変わる。
静かすぎる。
「……おい、変じゃね?」
誰かが呟いた瞬間だった。
——来た。
シンだけが、気づく。
次の瞬間、影が落ちた。
「なっ——!?」
現れたのは、巨大な魔物。
ゴブリンなどではない。
「嘘だろ……!?」
「こんなの聞いてねぇぞ!!」
巨大な爪が振り下ろされる。
パーティは一瞬で崩れる。
逃げる者。
腰を抜かす者。
「だ、大丈夫だ。今日はリナさんが来てくれている。」
「そ、そうだリナさんだ。」
Sランク魔法使い、リナ。
壮絶な冒険の末、重症を負っていたため、
復帰後の軽いリハビリのつもりでパーティーに
参加していた。
リナ「みんな、安心して!私が倒すわ。」
リナは魔物に攻撃魔法を放った。
しかし、あまり効かない。
リナ(この魔物、見た目よりも硬い。私の魔法が効かない?)
リナはあきらめずに攻撃魔法を打ち続ける。
シン(あーあ)
シンは、小さくため息をついた。
誰にも聞こえないほどの声で。
シン「めんどくさいな」
その瞬間。
——消えた。
シンの姿が、そこから消える。
いや、正確には。
“誰も認識できなかっただけ”だ。
地面を蹴る。
音はしない。
一歩で間合いに入る。
魔物の視界にすら、映らない速度。
拳を振る。
ただ、それだけ。
——終わり。
巨大な魔物の身体が、不自然な衝撃と共に硬直する。
リナ「!!!」
次の瞬間。
崩れた。
リナ「……え?」
巨大な魔物は、そのまま地面に倒れ込む。
動かない。
静寂。
「た、倒した!」
リーダーが呟く。
「うおー!リナさんが巨大な魔物を倒したー!」
リナは呆然としている。
リナ(違う、私じゃない。
私の攻撃ではあまりダメージを与えられていなかった。
一体なにが起きたの。)
シンは何事もなかったかのように立っていた。
「終わった?」
眠そうな声。
「あー、終わったよ。
リナさんがやってくれた。
今回はゴブリン討伐よりもいい報酬がもらえそうだぜ。」
「俺たち、今回は本当に何もできなかったな。
まあ、シンにとってはいつものことか。」
シン「もちろんだ。早く帰ろうぜ。」
即答。
すでにシンの頭の中はベッド、ジュース、お菓子でいっぱいだった。
だが——
一人だけ、違う顔をしている者がいた。
リナ「……今の」
リナはなにかをずっと考えている表情をしていた。
シン「何かあった?」
気づいたシンが声をかける。
リナ「……別に」
リナはなんとなくシンを見た。
シンの拳がわずかに赤くなっていることに気づく。
リナの視線が、わずかに鋭くなる。
リナ「ねぇ」
シン「なに?」
リナ「さっき、何かした?」
一歩、距離を詰める。
シンは、少しだけ間を置いてから答えた。
シン「いや、何もしてないけど。
うしろでみんなを見守ってた。」
やる気のない声。
だが——
不自然に拳の部分だけ赤くなっている。
沈黙。
周囲はすでに盛り上がっている。
「さすがリナさんだ」と笑い合っている。
その中で、二人だけが別の空気にいた。
リナ「……ふーん」
リナは小さく息を吐く。
そして——
リナ「じゃあ、いいや」
そう言って、背を向けた。
だがその表情は。
まったく納得していなかった。
リナ(見えなかっただけで、何もなかったわけじゃない)
確信に近い違和感。
そして——
リナ(この人、絶対おかしい)
その視線の先で。
シンは小さくあくびをした。
この瞬間から。
最強であることを隠し続ける男と、
その男に違和感を感じた女の関係が始まる。




