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第81話:断絶のカウンター(咆哮する無知と、49歳の盾)

午後八時。静まり返った店内に、逃げ場のない怒号が叩きつけられた。

1. 終わらない言いがかり

「あんた、さっきから何やその顔は! 客を馬鹿にしとんのか! 責任者出せ言うとんのや!」

カウンター越しに、顔を真っ赤にした男が若い女性店員を指差し、身を乗り出している。

店員は顔をこわばらせ、震える手でレジを打とうとしているが、男の罵声がそれを許さない。男が求めているのは解決ではなく、ただ自分の苛立ちをぶつけるための「サンドバッグ」だった。

2. 司令室の重い空気

モニターでその光景を無言で見つめていたケニーの奥歯が、ギリリと鳴った。

(……またか)

数値やデータでは決して予測できない、人間の悪意の「バグ」。ケニーは迷うことなく椅子を引き、現場へと向かった。ソラリスが何かを言おうとしたが、その前にケニーは扉を開けていた。

3. 「現実」の壁

ケニーがレジの横に入ると、男はさらに勢いづいて怒鳴り散らした。

「おい、あんたが店長か! この女の態度をどうにかしろ! 俺を馬鹿にしやがって、あいつは何も分かっとらん!」

ケニーは男の支離滅裂な叫びを、ただ静かに受け止めた。反論もせず、かといって卑屈に謝罪もせず、ただ一定の距離を保ったまま口を開く。

「申し訳ないのですが、そのようなことはできません。説明させていただいてますけど、私たちができることは限られています」

男は一瞬、言葉に詰まった。謝罪を勝ち取って優位に立とうとした目論見が、その「淡々とした事実の提示」によって跳ね返されたからだ。

4. 49歳の「境界線」

「何が『限られとる』や! 客に向かってその言い方は何や!」

「これ以上の対応はいたしかねます。他のお客様のご迷惑にもなりますので、お引き取りください」

ケニーの声は、最後まで平坦だった。怒鳴る相手に対して、同じ熱量で返せば事態は悪化する。ただ事務的に、ルールと限界を伝えること。それが、震える店員を守るためにケニーが選んだ、49歳の「壁」だった。

男はその後も何かを喚き散らしながら店を出ていったが、ケニーは深追いせず、すぐに女性店員の方を向いた。

「……災難だったな。少し裏で休んでこい」

ケニーは自らレジの前に立ち、次の客を迎えるためにネクタイを整え直した。外野が何を言おうと、この店を回しているのは、この理不尽を飲み込んで立ち続ける現場の人間たちなのだ。

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