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第154話:不器用な感謝祭(空白のシフトと、男の居場所)

聖教国の危機を救った直後。ケニーは相変わらず、何かに憑かれたように第801支店のバックルームで働き続けていた。

「社会に必要とされるためには、経営者として完璧でなければならない」。その悲壮なまでの思い込みが、彼から睡眠と休息を奪っていた。

1. 奪われた「仕事」

深夜零時。ケニーが明日の発注データをまとめようと魔導端末に向かった時、突然、画面が真っ暗に落ちた。

「……なんだ? システムエラーか?」

舌打ちをして再起動を試みるが、パスワードが弾かれる。そこへ、制服姿のショウが静かに入ってきた。

「オーナー、端末のロックは僕がかけました」

「ショウ、何の冗談だ。明日の発注が遅れれば、欠品が出るぞ」

「いいえ、出ません。明日と明後日のシフト、そして全店舗の物流手配は、ロイさんや僕、各店長たちで完璧に終わらせました。……オーナーの仕事は、今日と明日はありません」

ケニーは言葉を失った。仕事がないということは、彼にとって「存在価値の喪失」に等しい。

「ふざけるな……! 俺から店を取り上げたら、何が残るっていうんだ!」

声を荒げた49歳の男の腕を、ショウは真っ直ぐな目で見つめて強く引いた。

「残るものが何か、見に来てください」

2. 完璧ではない、温かな食卓

ショウに連れられて出た店舗の裏庭。そこには、信じられない光景が広がっていた。

深夜だというのに、温かな魔導灯が灯され、大きなテーブルが置かれている。そこには、王都のロイ、契約漁師のバルガス、聖教国の第一聖女までもが私服姿で集まっていた。

そして何より、ケニーの胸を強く打ったのは、彼を誰よりも心配そうに、けれど優しく見つめる妻・ソラリスの姿だった。

テーブルの上に並べられていたのは、コンビニの「完璧に規格化された定価の商品」ではない。少し形が崩れたパン、焦げ目のついた焼き魚、不揃いに切られた野菜のスープ。どれも、彼らがケニーのために「手作り」した、不器用で温かい料理だった。

3. 肩書きのない乾杯

「……何だ、これは」

立ち尽くすケニーに、ソラリスがそっと寄り添い、温かいスープの杯を両手で包み込むようにして渡してくれた。

「ケニー、あなたはいつもこの国のために、誰かのためにって、身を粉にして働いてばかりだから……。たまには、私たちがあなたのためだけに何かをしたかったの」

第一聖女も微笑みながら口を開く。

「その通りです。私たちは、便利な『オーナー』だからあなたを慕っているわけではありません」

バルガスが豪快に笑う。

「そうだぜ大将。俺たちは、あんたっていう『人間』に惚れてんだ。店がなくても、ただの中年のおっさんでも、俺たちの恩人には変わりねえんだよ」

ショウも深く頷いた。

「オーナーは、経営者じゃなくても、この世界の誰より必要とされています。だから……今日だけは、僕たちに恩返しをさせてください」

4. 49歳の男が流した、声なき涙

自分は、経営者でなければ誰にも愛されない。社会に必要とされない独りぼっちの男だ。

そう固く信じ込んでいた心の鎧が、不揃いな手料理の湯気と、ソラリスの温かい手のひら、そして仲間の不器用な笑顔の前で、音を立てて崩れ落ちていく。

「……お前ら、明日の朝のピーク、誰が回すと思ってるんだ……」

憎まれ口を叩こうとしたケニーの声は、ひどく震えていた。

視界がぼやけ、ソラリスから渡されたスープの杯に、大粒の雫がポツリと落ちた。

49歳。孤独だと思っていた男は、異世界で「コンビニ」というインフラを作り続けた結果、自分を無条件で受け入れてくれるソラリスという伴侶を得て、確かな「家族(居場所)」を作り上げていたのだ。

星空の下、経営者の顔を捨てたただの一人の男として、ケニーは不格好な手料理を頬張った。その味は、どんな最高級の弁当よりも、深く心に染み渡った。

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