第130話:八百の灯火、一つの願い(世界平和祭と、未来への基金)
王都本店の執務室。ケニーの前には、全800店舗の店長たちが魔導通信機を通じて並んでいた。49歳の経営者が発した言葉は、これまでの利益追求とは一線を画すものだった。
1. 「世界平和祭」の号令
「……いいか、今日から一週間。全店で『平和の輪弁当』を一斉に発売する。おかずは、各地の特産品を詰め込んだ、贅沢で温かい家庭の味だ」
ケニーは、ケニーバンクの決済データを基に、最も多くの人が「故郷」を思い出す味を再現させた。
「この弁当の売上は、経費を除いた全額を『戦災孤児教育基金』へ回す。……親を亡くし、読み書きもできない子供たちに、学びの場を、そして未来を作るんだ」
2. 八百の店舗、一斉の起動
祭りが始まると、異世界中の街道沿いに建つコンビニの風景が一変した。
「いらっしゃいませ! 今日は平和祭です。このお弁当で、子供たちの教科書が一冊買えます!」
スタッフたちが誇りを持って声を張り上げる。王都の貴族も、仕事帰りの職人も、そしてあの「中年の勇者」も、レジに並んでその弁当を手に取った。
「……ほう、故郷の煮物の味か。悪くないな、店主」
勇者は少し照れくさそうに、いつもの募金箱へ、普段より少し重い金貨を投げ入れた。
3. ビッグデータが繋ぐ「善意の連鎖」
ケニーバンクのモニターには、一分ごとに積み上がっていく寄付金の総額が、目まぐるしく表示されていた。
「オーナー、予測を遥かに超えるスピードです。民衆が、これほどまでに『誰かのため』に動くとは……」
驚くロイに、ケニーは静かに答えた。
「人は、自分の腹が満たされれば、隣の人の空腹を心配できるようになる。……俺たちが130話かけて積み上げてきた『24時間の安心』が、今、民衆の善意を呼び覚ましているんだ」
4. 未来への一歩
一週間の祭りが終わる頃、集まった資金は、王都に巨大な学校を建て、各地の村々に巡回教師を派遣するのに十分すぎる額に達していた。
ケニーは、深夜の誰もいない店内で、売れ残った最後の一つの弁当を自分で食べた。
「……少しは、徳を積めたかな」
ふと窓の外を見ると、遠くの丘で、あのお母さんの墓前に「恋絵巻」を供えていた子供が、新しい教科書を胸に抱いて歩いているのが見えた。
コンビニの灯りは、今や商品を売る場所を超え、この世界の「明日」を照らす、消えない希望の火となっていた。




