第110話:信用の果実(スコアリングが繋ぐ夢と、一歩の勇気)
ケニーバンクの融資基準は、担保の有無ではない。800店舗のどこかで、その人間が積み上げてきた「誠実な日常」のデータだ。
1. 夢を諦めかけた青年
王都の第12支店。閉店間際の店内で、一人の青年が立ち尽くしていた。名はエリック。かつては腕の良い細工職人を目指していたが、親方の急死と工房の借金により、今はその日暮らしの肉体労働で食いつなぐ日々。
「……あと少し、あと少しで材料が買える。そうすれば、あのコンテストに出せるのに」
だが、日々の食費と家賃で消えていく小銭。既存の銀行は「住所不定の若造」には目もくれない。
2. コンビニが見ていた「真面目さ」
エリックは震える手で、店内のATM(魔導預金機)にカードを差し込んだ。
ダメ元で申し込んだ「ケニーバンク・ドリーム融資」。
画面に表示されたのは、予想外の「承認」の二文字だった。
「なっ……なんでだ? 俺には家も、保証人もいないのに」
そこには、ケニーが設定した独自のスコアリング評価が付記されていた。
『過去一年間、公共料金の遅延ゼロ。深夜のアルバイトへの精勤。店内で常に丁寧な挨拶を欠かさない誠実な購買行動を確認。信用ランク:A』
コンビニのレジは、彼が誰にも見られていないと思っていた「日々の積み重ね」を、誰よりも正当に評価していたのだ。
3. 一歩を踏み出すための「安定」
融資されたのは、決して大金ではない。だが、材料を買い、三ヶ月間は食うに困らず創作に没頭できる、彼にとっては「命の金」だった。
「ありがとうございます……オーナー、ありがとうございます!」
監視モニター越しに、レジの前で男泣きするエリックを見たケニーは、静かにコーヒーを啜った。
「……礼なら、毎日真面目に通った自分に言いな」
49歳の経営者は、データが示す「誠実さ」に投資したに過ぎない。だが、その投資は確実に一人の青年の絶望を打ち消していた。
4. 咲き始めた「信用の花」
数ヶ月後。エリックはコンテストで入賞し、再び職人としての第一歩を踏み出した。
彼は最初にもらった給料を手に、真っ先に第12支店を訪れた。
「オーナー! 返済に来ました。……それと、これ。店のみんなに」
差し出されたのは、細工職人らしい精巧な「コンビニの看板」を模したお守りだった。
ケニーは、108話で救えなかったミアのことを思い出した。
(……間に合う人間もいる。このシステムを広げれば、二度とあんな思いをさせなくて済むかもしれない)
5. 800店舗が「夢のインフラ」へ
ケニーバンクの融資で、学費を払い終えた学生、病の母を救った娘、そして小さな商売を始めた若者。
800の灯火の下には、救われた人々の「ありがとう」が積み重なり、それがさらにケニーバンクの「信用」という名の資産を大きくしていく。
「……さあ、ソラリス。次は、この信用スコアを『世界共通の身分証』にまで引き上げるぞ」
49歳の男は、レジから生まれる「人の可能性」に、次なる巨大な希望を見出していた。




