第五十一幕【思い出はスマホの中】
【ダイダラ大陸】に向けて大海原を進む金ピカの船【ラグジュアリー号】。
太陽は真上まで昇り、宝箱配置人一行は目的地に着くまで各々時間を潰していた。
俺 (リューセイ)はなんとなく船尾から頭を出して、船が通った跡をボーっと眺めていた。
「リューセイさ〜〜〜ん…」
後ろからやるせないリーサの声が聞こえて振り返る。
「うわ!!どうしたんだよソレ!!」
そこには、海鳥のフンを落とされまくって白く汚れたリーサが立っていた。
「びえ〜ん!ただ潮風に当たってただけですよぉ〜…そしたら大量に落とされて…」
「ほんとツイてないよなリーサって…ちょっと待ってな」
俺は甲板に置いてあった荷車から自分の学生鞄を引っ張り出す。
「確かタオルが入ってたハズ…」
「リューセイさん、そう言えばその鞄って何が入ってるんですか?」
「大した物は…教科書とかノートとか…学校行く途中でこの世界に送り込まれたから…あと充電の切れたスマ…ホ!?」
鞄に入っていたスマートフォンを取り出す。
充電が切れて使えなくなっていたハズのスマホの充電がMAXになっていた。
「え!?な、なんで!?つ、使える!!!!!」
「なんですかソレ?」
リーサは始めてみる物体に首を傾げている。
「ヤッベ!!どうしよう、メッチャテンション上がる!!スマホが使えるのはメッチャ熱いぞ!!」
一人興奮して盛り上がっていると、瞬間的な光と共にユーリルが"上"から戻ってきた。
「おはようございま〜す…って、え!?船の上!?もう出港して…ダサッ何この船!!!」
「ユーリル!!そんな事より!!ほら、スマホが使えるぞ!!」
俺はユーリルにスマホを見せつける。
「え!?ここに来た時点では充電切れてましたよね!?」
「そのハズだったけど…ん?」
スマホの画面に充電中のマークが付いている。何も接続してないのに…勝手に充電してる…?
「ちょ、ちょっと待て…」
俺はスマホをユーリルから離してみる。すると、充電中のマークが切れる。再びユーリルに近づけると充電中のマークが付いた。
「お前かよっ!!どういう原理だよ!!」
「え、私のせいなんですか!!へぇ〜あれですかね、光属性が充電されてるんですかね!」
「と、とにかく、ユーリルが居ればスマホが使い放題って訳だ!ちょ、ちょっと、ダルさんは!?イズミルはどこだ!?」
俺は早る興奮を抑えて二人を探し始める。
「あ、あのぅ〜…タオルは…」
リーサ (フンまみれ)の声は最早俺の耳には届いていなかった。
ダルさんとイズミルは船内の会議室の大きな机に世界地図を開いて何やら話し合っていた。次の目的地の事について話し合っていたのだろう。
俺はその会議室のドアをバン!と開け放ち、不適な笑みを浮かべる…
「フッフッフッ…」
「な、なんだリューセイ…その気持ち悪ぃ笑顔は…」
ダルさんが訝しげな顔を向けてくる。
「ダルさん…イズミル…俺の世界での文明の利器を見せてやろう…」
そう言って俺はドヤ顔でスマートフォンをかざした。
「なんですかソレ?手鏡?」
イズミルは首を傾げて言う。
「違う違う。これはな"スマートフォン"と言って俺の元いた世界で誰もが携帯していたものだ。これ一台があれば色んな事が出来るんだぞ!」
「へぇ〜…で、何が出来るんですか?」
イズミルは余り期待してなさそうな表情だ。そんなイズミルを脅かしてやろうと、俺はまず母親に電話をかけてみた。
プルルルル…
「良いか?まずこれは電話と言って、遠くの人と話が出来るんだ。今から俺の母さんに繫げてみるよ」
『おかけになった電話番号は現在使われていないか電波の届かない場所に…』
「……………」
さっきまでの自信に満ち溢れた俺の顔はドンドン曇っていった。
他にかけ直しても同じ反応で…
「勇者様…」
俺の背後からユーリルの憐れみを含んだ声がする。
「いや待て、インターネットは…」
『現在オフラインです』
「……………ち、地図アプリは…!」
『現在の位置情報を取得出来ません』
俺のスマホを持つ手がプルプルと震える。
「…で、何が出来るんですか?」
イズミルがダメ押しにもう一度言った。
「勇者様…ここは異世界ですから…電波もないし、衛星も飛んでなくてですね…」
「分かってるよ!!!分かってるけど期待するじゃん!!?使えるかもって思うじゃん!!?」
俺は思わず涙を流す。
「なんでぇ。肩透かしだな」
ダルさんはそう言って世界地図を再び眺めて考え始めた。
「チクショー…充電があっても使えなきゃなんの意味も無いじゃんかよ!ユーリル!!Wi-Fi飛ばせWi-Fi!!」
「む、無理ですよ!!そんなもん飛ばせるかい!!」
俺はその場にへたり込んでスマホを床に落とした。そう上手くはイカのなんとか…て事ね…
俺が落としたスマホをイズミルが拾い上げる。
「へぇ〜…こんなものが…あ、凄い、コレはなんですか?望遠機能?」
イズミルが言って画面を向けてくる。
そこにはイズミルの顔が写っている。
「それは…カメラ機能だな。写真が写せる…」
「カメラ…?写真…?なんですか?」
「…そうか!カメラは問題なく使えるのか!…イズミル、ちょっと貸してみな!」
俺はスマホを受け取り、イズミルに向ける。
「はいチーズ」
「発酵食品」
パシャ
ピースはせず、そう呟いた棒立ちのイズミルが写し出される。
「ハハッ!良く撮れてるぞ!ホラ」
俺はイズミルに撮ったものを見せる。
「うわぁ!!凄い!!小さい私が閉じ込められてます!!」
「ハハハ!そう、カメラってのはな、その時の瞬間を収める事が出来るんだ」
俺は調子に乗って、カメラでパシャパシャと色々撮り始めた。
地図を眺めるダルさん。
フンまみれのリーサ。
ユーリル…は何故か写真には写らないかった。
船の帆や水平線…空…荷車…航跡…
俺は写真にこの世界の姿を納めていった。
写真に留まらず、動画も撮った。動いて喋るみんなを惜しみなく…
「元の世界に戻ったらもう会えなくなるもんな…こうやって思い出を納めとくと良いな…」
「私だけ全然撮れてない…」
ユーリルが頬を膨らませている。
「仕方ないだろ写らないんだから…。お前ほんとに幽霊みたいな存在だな?」
「もう!」
不貞腐れるユーリルをなだめる。
俺の仕事が一つ増えたな。
"宝箱配置人・写真担当"と言ったところだろうか。
いっぱいこの世界を撮影して…思い出に残しておこう。
冒険が終わった時、これをみんなで見返して思い出を振り返ったりして…
そんな事を思いながら俺は再び皆の写真を撮り始めた。
続く…




