第五十幕【船出の時】
「起きろぉぉぉぉぉ!!!!!」
そんな大声とともに宿屋で睡眠していたところを布団を引っ剥がされ頭を叩かれるリューセイ。
ゆっくり身体を起こすと、そこにはダルクスが立っていた。
てっきり明るくなってるのかと思ったが、窓の外を見るとほんのり空が青みがかってきた程度でまだ暗い。
「え…まだ外暗いじゃないですか…もう少し寝かせて下さいよ…」
「いや、もう出るぞ。サッサと支度しろ!」
「えぇ!?流石に早過ぎますって!」
「良いから!グズグズするな!」
そう言ってダルクスは部屋を後にした。
リューセイは頭を掻きながら…
寝惚け眼でその後をふらふらと付いていった。
〜〜〜〜〜
そうして宝箱配置人一行はアカシータ貿易港の桟橋に集められた。
その時間はもう港は開かれており、朝早くから漁に出るであろう海の男達がちらほらと船の準備をしている。
「ちょっとちょっと!!こんな時間に一体なんですかダルクスおじ様!!」
イズミルはご立腹だ。
ユーリルはみんなが寝ている時間は"上"に帰ってしまう。こんな時間にみんなが集められているとは知らずに呑気に"上"で寝ている事だろう。
リーサはうつらうつらとした表情で頭がユラユラ揺れている。
ダルクスはそんな3人を並べて前に立つ。タバコに火を着け咥えて話し始めた。
「悪いな。少し早いが、この時間をもって、このアカシータ貿易港を出港する事にした」
ダルクスはそう言って辺りをキョロキョロと見渡しながら続けた。
「誰にもつけられて無いよな?」
「一体何を警戒してるんですか?」
リューセイは不審がる顔でダルクスに問い掛ける。
「いや…ベンゾの幹部が来ててな…何かやらかされる前にサッサと出たほうが良さそうだ…と言う訳でだ。俺達の次の目的地だが…ガキンちょ」
ダルクスはその後はイズミルに任せると合図を出す。イズミルは頷き、懐のポーチから地図を開いてみせ教鞭を伸ばす。【光輪の章】で辺りを照らしながら教鞭でピシッと地図を指しながら説明を始めた。
「そうですね…まずは向かいの【ダイダラ大陸】にある【サンシタ入江港】に着港しましょう。黄金のハープを持ってきた勇者にも【サンシタ入江港】に行くようガフマン様に誘導して貰うようお願いしています。距離的にはそんなに遠くないです。半日もあれば着く距離ですね」
イズミルは一拍置いて、地図上の【ダイダラ大陸】の上を教鞭でクルクルと指しながら続ける。
「そしてぇ…ココの大陸には【ヤオヤラグーン】って言う凄く大きい王都があるんです。そこには宝箱配置人協会の本部があって…」
「王都か…うへぇ〜…宝箱配置が大変そうだな…」
リューセイがボソッと呟くと、イズミルがリューセイを見る。
「流石にココの宝箱配置は他の宝箱配置人にも手伝って貰います。本当に広い都ですからね。だから安心して下さい!」
ダルクスがタバコの煙を吐きながらイズミルに一つ問いかけた。
「…んで、ガキンちょ。俺達の新しい船ってのはどれだ?」
「あぁ、それはですね…コチラです!」
イズミルは指差しながらその船の方へ駆け出して行った。
「コレが私達の新しい船です!!」
バーン!!と音が鳴りそうなポーズで船の前に立ち止まるイズミル。
その側にあった船を見てダルクスは咥えていたタバコをポロッ…と落とした。
「なんだこの…下品な船は…」
そこに停めてあったのは、金ピカの塗装が施され、赤色や青色、エメラルドの石が至る所に埋め込まれた朝日に照らされキラキラと光る…それはそれは豪勢な船だった。
「あの…ハイ。この船をその…工面して頂きまして…私も、船を工面して貰ってるのに文句も言えずですね…ガフマンさんが船員さんも雇ってくれてますので…」
イズミルはたどたどしく弁解するように話す。
「う、ウフフ…!これは…かなり目立っちゃいますね…!大丈夫ですよ!すぐに慣れますよ…!……………ウッ…!す、ストレスが胸に…!!」
リーサは胸を抑えてうずくまる。
「ガフマンさんのプライベート船をわざわざ貸して貰ったんです!!ほら、有り難く乗船しましょう!!」
イズミルはそう言って、苦笑いの顔で先人を切って船に乗り込んだ。
「ガフマンさん…あの人、自分が金持ちなのをひけらかすタイプだったんだな…」
リューセイはポソリと呟いて…仕方なくとリーサに肩を貸しながら乗船する。
「お、俺は絶対嫌だぞ!!!こんな船で海に出るなんて!!!センスを疑われるわ宝箱配置人として!!!」
桟橋で文句を言って乗らずにいるダルクスにイズミルが船を降りて駆け寄り【亀甲呪縛の章】を発動!縛られたダルクスはズルズルと船に連れ込まれる。
「お、おい、ふ、ふざけんな!!だ、誰かぁ!!!下品な船に拉致られてます!!!助け…!!!」
「往生際が悪いですよダルクスおじ様!!背に腹は代えられないのです!!受け入れろッ!!現実をッ!!」
「嫌だぁぁぁぁぁ!!!スーパーシガレット号ぉぉぉぉぉ!!!!!」
「この船の名前は【ラグジュアリー号】みたいですよ!」
「なお嫌だぁぁぁぁぁ!!!」
「船員さん出港して下さい!!」
ガフマンが船と一緒に派遣してくれた乗組員にイズミルが指示を出した。
手慣れた乗組員はビシッと敬礼して直ぐさま船出港の準備を始めた。
イカリが上げられ、金色の帆が広げられた。
「では新大陸を目指して、出港〜!!」
嫌がるダルクスの叫びも虚しく、イズミルの掛け声とともに船は大海原へと出た。
新大陸【ダイダラ大陸】を目指して…
〜〜〜〜〜
「思い出すなぁ…。前回の冒険でも、自分の船で大海原に出た時はワクワクしたもんだよ」
リューセイは昇る朝日を眺めながら物思いにふけりながら隣のリーサに語る。
「そうなんですね。他に海での思い出はありますか?」
リーサの問い掛けに少し考えて答える。
「そうだな…。デッカイ海獣と闘ったり…そうだ!海賊王の秘宝を追い求めたり…それが実は魔王の元へ行く為のキーアイテムだった…り……………」
ハッと何かに気付いてリューセイは後ろを振り向く。
そこにはイズミルがニヤニヤと笑いながら立っていた。
「なぁ…まさか…いや、そこまでしないよな?宝箱配置人…」
「そのまさかなんですけど…多分それも宝箱配置人が用意したイベントでしょうね。私達もいずれ、伝説の海賊王の剣を何処かの島に隠して…それを勇者に取ってきて貰う…というイベントを用意する予定です」
「それはもう"伝説の海賊王の剣"じゃなくて"伝説の海賊王の剣として設置された宝箱配置人の剣"じゃねぇか!!」
リューセイは頭を抱えて溜息をつく。
「一体何処までが宝箱配置人の根回しなんだよ…」
「世界を救う為…必要な事なのです!」
ーーーーー
いつしか、ユーリルが言っていた。
ファンタジーの世界をゲームにたとえると、宝箱配置人が居ない世界は"クソゲー"。
最初のフィールドから高レベルの敵に遭遇して全く先に進めない。
次に何処に行ったら良いのか分からない。アイテムの場所もヒントも無い。
全く調整が出来てない難易度のクソゲーになると。
宝箱配置人がいる事によってどんなプレイヤーでも頑張ればクリア出来るゲームになっている…なんて。
じゃあ果たして…俺が強くなって世界を救ったのは自分の実力と言えるのだろうか…?ふとそんな事を思ってしまう。ユーリルは『世界を救うポテンシャルを持った勇者を導いた』なんて言ってたけど。実は誰でも良かったんじゃ…
ーーーーー
「でも不思議ですよね。リューセイさんが前冒険してた世界とこの世界は全く別の世界…なんですよね?」
リーサがふと質問をしてくる。
「あぁ。そのはずだぞ?」
「その世界にも宝箱配置人が居たんですか?別の世界なのに?」
「……………ん?」
宝箱配置人になって分かったが、前回の冒険にも明らかに宝箱配置人の手が回っていたのは明らかだ。
ファンタジー世界には必ず宝箱配置人が居る…?
世界によって人も種族も情勢も、その世界のルールや考えも大きく変わるものだ。しかし宝箱配置人というシステムだけは…どの世界にも存在する…それは言われてみれば不思議な話だ。
「ユーリルに…聞いてみた方が良いかもな…」
そう言ってリューセイはまた水平線に目をやる。
空はすっかり青く染まり、頭上には海鳥が並走して羽ばたいていた。
続く…




