第四十九幕【それってどんな顔?】
ムジナ村のドラゴンの死体のあと始末を終えた勇者一行。
魔物と戦いながらクエストを消化しつつ、ゆっくりとアカシータ貿易港に街道に沿って向かっていた。
「こんなノンビリ先に進んでて良いんですか?」
クサカベはガウラベルに問い掛ける。
「良いんだよ。勇者は時間をかければかける程強くなれるんだから」
「でも…そんな悠長にしてたら魔王のせいで世界が…」
「そうならないように【宝箱配置人・諜報担当】が居るんだよ。勇者の嘘情報を流して居場所を惑わせたり…勇者のニセ故郷を襲わせたり…魔王の仲間の中に入り込んで諜報活動をしたりな?とにかく魔王やその仲間を時間稼ぎするのが仕事だ」
「宝箱配置人って一体何種類居るんですか…」
「まぁでも、そんな事しなくても魔王が自ら人間界に来る事ってほぼ無いな。ヤツらって勇者が来るまで玉座に座って呑気に待ってるヤツが多いから…」
「アレって何でですかね?直接来ればサッサと世界征服だって出来るだろうに…」
「フフ…それも諜報担当の賜物らしい。大昔、魔王城まで乗り込んだ諜報担当が居て『魔王が人間界に赴くのはダサい』『自分の強さは少しずつひけらかしていくもんだ』って吹き込んだらしい。それからずっと魔王は代々それを守り続けてるみたいだな」
「へぇ〜…」
「ま、とにかくアタイらは時間を気にせずマイペースで行けば良いって事…そんな事より…」
ガウラベルがハァ…と溜息をつき、後ろを振り返る。
「アンタいつまで付いて来る気…!?」
クサカベ達の後ろには黒いフードを深く被って顔が見えない…【ユリィササミ山】で出会ったストーカー…もとい【宝箱配置人・魔物ならし担当】の【アンカーベルト】が付いて来ていた。
「これ以上付き纏うってんなら、アタイの足蹴りをアンタの顔面にお見舞いするぞ?」
ガウラベルは言って片足を上げる。
「まぁ待って下さいよ。どうしても気になる事があって…貴方達を観察させて頂いてまして…」
「やっぱり変態ストーカーじゃないか」
ガウラベルはギロッと目つきを鋭くする。
「気になるんですよ…。貴方達…いえ、正確にはそちらのお姉さんから微かに僕が大好きなドラゴンの匂いがする…」
それを聞いて、ガウラベルはハッとする。
「アンタ…分かるの?確かにアタイのココにはドラゴンの心臓が入ってて…」
そう言って自分の胸をトントンと指差すガウラベル。
「な、なにっ!?それは本当か!?」
アンカーベルトは酷く驚くとズカズカとガウラベルに近付き、徐ろに耳をガウラベルの胸に付けた。
「テメェ!!この変態野郎がっ!!」
ガウラベルはアンカーベルトの胸ぐらを掴んで背負い投げをする。
「グバァ!!!!!」
ドスーーーン!!!と地面に叩きつけられるアンカーベルト。
「ま、待て違う!!僕は本当にドラゴンの心臓があるかどうかを…!!」
「行くぞクサカベ!!この変態野郎は無視だ無視!!」
そう言ってガウラベルは倒れるアンカーベルトの横を素通りして歩き始めた。しかし、すかさずアンカーベルトがガウラベルの足にしがみつく!
「ま、待って!!どうして、どうして人間の君がドラゴンの心臓を!?どうやって!?ねぇ!?」
「アンタ…本当に死にたいみたいだねぇ〜???」
「頼むよ!!聞かせて!!どうやったんだ!!それを聞いたら離れるから!!」
足に掴まるアンカーベルトを引き剥がそうと暴れるガウラベル。
しかし、中々離れないアンカーベルト。
(…あんなに抵抗するガウラ姐さんに掴まっていられるなんて…中々タフな人だな…)
「いい加減に…!!」
業を煮やしたガウラベルが片足を上げてアンカーベルトを踏み付けようとする!
「ええい、こうなったら…!!」
そう言ってアンカーベルトがいきなり立ち上がり、片手でガウラベルを抱き寄せ、もう片方の手で深く被っていたフードを取り顔をグイッと見せつけるように近づける!!
「イィ…!!?」
コチラからはアンカーベルトの顔が見えないが、その顔を見てガウラベルは驚き、バン!とアンカーベルトを押して後ずさる。
「ど、どうしたんですかガウラ姐さん!!」
クサカベは二人に駆け寄る。
アンカーベルトはすかさずフードを被って顔を隠した。
「どうだい…?僕の顔を傷付ける事が出来るかい?」
ガウラベルはブルブル震えながら首を振る。
「む…無理だ…!!」
ガウラベルが怯えながら言った。
「ガウラ姐さん!!どうしたんですか…!?そ、そんなに怖い顔だったんですか?」
「い、いや…」
「…じゃあ、そんなに綺麗で端正な顔だったとか…?」
「ち、違う…!そんな簡単な言葉では片付けられない…!どのジャンルにも属さない顔だった…!!」
「……………ハ???」
アンカーベルトはフフフ…と不敵に笑みを溢しながら口を開く。
「例えるなら…美術館で厳重に保管された貴重な絵画のような顔…かな?」
「あぁ…重要文化財に指定されてそうな唯一無二の貴重過ぎる顔だ…」
「いや、分からん!!!どんな顔だよソレ!!!」
クサカベは思わず声を荒らげた。
「さぁ、話してくれますか?この顔に免じて」
「チッ…分かったよ…」
「ガウラ姐さんが折れた!?」
ガウラベルは渋々と言った感じで自分の心臓について語り出した…。
「いや、それよりも!!顔!!ガウラ姐さんを黙らせる程の顔ってどんな顔なのか気になるんですが!!!」
〜〜〜〜〜
「う〜〜〜ん………そんな事が………」
アンカーベルトは自分の顎に手を当てて考え込み、少し間を空けて再び口を開いた。
「長い事ドラゴンに関わって来ましたが…そんな蘇生術があるなんて聞いた事ないですけど…」
「さぁ?アタイもそれに関しては詳しくない。知ってるのはその手術を担当したシムラの爺さんかそれに立ち会ったダルクスだろうな…」
「あの、是非その方に会いたいんですが」
「さぁねぇ…?シムラの爺さんは今は何処に居んのか…死んでんのか生きてんのかさえ………あ、ダルクスなら…」
「そ、そのダルクスって人はどこに!!」
「う〜〜〜ん…冒険の途中で一度すれ違ったけど…今は何処に居るのか…。基本アイツらには追いついちゃいけないし…」
「じゃあ、君達に付いて行けばまた出会う可能性があるって事かい!?」
アンカーベルトはガウラベルの手を握る。
「その可能性も…って、アンタまさか…!!」
「僕を仲間に入れてくれ!!」
「ハァーーー!!?」
急な申し出にガウラベルは握られた手を振り解く。
「なんでアンタを仲間に…!!」
「ハァ…そうか…だったら僕はもう…この事が気になって気になってやつれ衰え…頬がこけてしまうかもしれない…」
「ぐ…!!ぬぬぬ…」
ガウラベルは歯を食いしばって少し間を置き…静かに口を開いた…
「チッ…分かったよ…勝手にしろ…」
(ガウラ姐さんがまたまた折れた!?
それ程までのアンカーベルトさんの顔って…!?)
「ね、ねぇ!!僕にも顔見せて下さいよアンカーベルトさん!!」
「ハハハ!ダメダメ!そんな簡単には見せられないよ」
アンカーベルトはヘラヘラと笑った。
「そ、そうだ!見るなクサカベ!どれだけ歴史的な顔かお前は分かってない!おいそれとは見せられない貴重的な顔なんだぞ!!」
「気になって僕がやつれ衰えそうなんですけどぉ!!!」
そんなこんなで勇者一行の冒険に…宝箱配置人・魔物ならし担当のアンカーベルトが新たに仲間となったのだ。
続く…




