第四十六幕【女神定例報告会議】
【女神界】
【定例報告会議】
まるで雲の上のような明るい世界に大きな長方形の長机が置かれている。その机の前にはズラッと、ユーリルに風貌が似た女神達が座っている。
そんな女神達に"上の声"が響く。
『皆さん集まりましたね?それでは…定例報告会議を始めますが…まだ一つ席が空いているようですね…』
女神達が並んで座る間に歯抜けになった席がある。
『ハァ…またユーリルですか…』
「どうせまた忘れてるんっしょ?
放っといて始めちゃいましょ〜よ」
抜けた席の隣、ギャルっぽい風貌の【普遍世界管轄の女神・フォーゲル】が爪にマニキュアを塗りながら言った。
『…そうですね…では本題に…』
「スミマセ〜ン!!遅れましたぁ!!」
そんな声が聞こえ、席についた女神達は声がする方に一斉に目を向ける。
ユーリルが光の中から出てきた。
『ユーリル!!貴女今までどこに行ってたのですか!!何度も定例報告会議をすっぽかして…!!』
「そ、それは…身体が粒子化して筒の中に閉じ込められてたからで…!!」
『はい???何を言ってるのか分かりません』
クスクス…
女神達から笑い声が漏れる。
『いいから早く席につきなさい!会議を始めますよ!』
「ふわぁ〜い…」
ユーリルは恥ずかしそうに顔を赤くして席につく。
「プププ…ユーリル〜あんたホント怒られてばっかだね〜?うちの世界から引っ張った勇者くんは上手く立ち回ってるかね?」
フォーゲルがニヤニヤと嫌味たらしく言ってくる。
「…うるさいなぁ…。貴女に関係ないでしょ!それに、貴女の世界から引っ張った訳じゃないから!貴女に無理矢理譲らされた普遍世界の一つに協力して貰ってるだけで…!だから別に、貴女の協力って訳じゃ…!」
「プププ…!ファンタジー世界管轄の女神にはちょっと扱いが難しいわよね〜?だってうちの世界って結構人間の偏差値高いからぁ〜!ファンタジー世界と違ってぇ〜!」
「ぐぬぬ…」
『フォーゲル!貴女、人の事を言ってる場合ですか!?また貴女の世界で人間同士の戦争が勃発したそうですね?』
「えっ…」
『『えっ…』じゃないですよ!貴女の世界は戦争回数が多過ぎです!!ずば抜けてですよ!?ちゃんと管理しているのですか!?』
「だ、だって、うちの世界の人間血気盛んなんだもん!!目離したらすぐ国同士が争い始めてて…」
『言い訳無用です!』
"上"から一蹴され、フォーゲルは黙ってしまった。
「あらあら…プークスクス」
ユーリルはこれ見よがしにニヤける。
「ムカつく!!」
フォーゲルは顔を真っ赤にしている。
『全く…フォーゲルの世界だけではありません。SF世界管轄の【ケンシル】…どうですか?』
「え、あ、あの〜…先日…とある世界で惑星間での宇宙戦争が始まってしまい…」
『ディストピア世界管轄の【コッドネル】は?』
「AIで管理された世界に民衆が徒党を組んで反旗を翻しまして…無益な血が…」
『メルヘン世界管轄の【ペチュール】』
「お姫様を取り合ってお国同士で喧嘩してまーす☆」
『終末世界管轄の【デコイル】…』
「また一つの世界で人間が全滅しました…」
『皆さん!!?ちゃんとしてますか!!?何処の世界も全く管理が行き届いてないじゃないですか!!!女神としての使命…忘れている訳ではないですよね!?』
女神達は俯いている。
『人間…"上の者"を模して造られた種族をどのような世界、環境に置けば争いをせず助け合わせていけるのか…その理想的な世界を見つけるのが女神達の使命…それが"上"からの指示である事を忘れたのですか!?』
女神達は腕を組んで首を傾げる者、下を俯く者、頭を抱える者ばかり。
そこにフォーゲルが手を挙げる。
「うちらのせいと言うか…そもそも人間自体が欠陥のある種族なんじゃ…」
『いいえ、人間はあれで完成…だと"上"は判断しています。後は彼らを置く世界観を試行錯誤するだけだと…少なくとも普遍世界はそれには見合わないと決議案が出されてますけど』
「ガーーーン!!!」
その後も定例報告会議は続いたが…
特に何の進展もなくお開きとなってしまった。
『ユーリル、貴女は残りなさい』
解散していく女神達の中で、ユーリルだけ引き止められた。
「は…はい…?」
ビクッと肩を震わせるユーリル。
『少し話があるのです…』
〜〜〜〜〜
"上"に呼び止められた私は誰も居ない会議室にポツンと取り残されました。
絶対に怒られるヤツだ…
そう思って居ましたが…
『ユーリル…ビックリさせてすみません。ファンタジー世界の貴女に…少しお話が』
「な、なんでしょう?」
『先程はああ言いましたが…ファンタジー世界は上手く立ち回れていると思います。"上"も『ファンタジー世界が人間にとって一番最適な環境』だと、目にかけているようです』
「…え?そ、そうなんですか?そんな事は無いと思いますけど…ほら、この前だって魔王軍に襲われて…」
『それです。魔王…その存在が大きいですね。意思を持った強大な敵が居ると…人間は国を越えて協力をし合う…人間が結束を高めるには必要なのかもしれません…』
「それで良いのですか?人間にとって理想の世界とは言えなさそうですが…」
『問題は"人同士が争わない"事です。その点はファンタジー世界のみがクリアしていると言えます。人同士が争う世界なんて…魔王に襲われた世界よりも悲惨で醜いモノですから。ユーリル、その調子で監視の方、頼みますよ。貴女にファンタジー世界を任せた事を…後悔させないで下さいね』
「…そう言えば…ファンタジー世界は元々貴女様が管轄していたのでしたっけ?」
『昔の話です…魔王という存在が現れる前は、ファンタジーの世界も酷いものでした…。魔法戦争と言って、国同士が魔術で多くの犠牲を支払ったものです』
「そうだったんですね…」
『とにかく…そのまま行けば人間の世界はファンタジー世界で統一される時が来るかもしれません。ユーリル、気を引き締めて監視お願いしますよ』
「は、はい!!」
怒られると思っていたら、まさかの労いのお言葉だったみたいです。
『話はそれだけです。私はコレで…』
「あ、待って下さい!」
『どうしました?』
「ファンタジー世界で統一って…既存の世界もですか?」
『……………どうですかね?そこは…"上"の話し合いに寄りますね…』
「そうですか…」
『ユーリル』
「はい?」
『女神が…人間に余計な感情を持たないように…良いですね?』
「な、なんですか急に!」
『忠告です。必ず…良い結果にはならないので…』
「何か…経験した事があるような口ぶりですね?」
『喋り過ぎました。さぁ、もう戻りなさい。私も仕事がありますので!』
そう言って"上"からの声は唐突に聴こえなくなってしまいました。
最後の言葉…一体どういう意味でしょうか。
暫く考えても結論を出せず…
私はスッ…と、元の世界に戻るのでした。
続く…




