第四十七幕【偶然と成り行き】
【アカシータ貿易港・ガフマンの屋敷】
「そんな事か。よしよし、新しい船はコッチが用意しといてやる」
町長のガフマンは快諾してくれた。イズミルは深くお辞儀をする。
「あ、ありがとうございます!!ほ、ほんとに良いのですか?勇者の船まで工面して貰ってるのに…」
「なぁに、アンタらには世話になったからな。これぐらいお安いご用だ。一回死んだ兄ちゃんにもよろしく言っといてくれ」
「は、はい!」
イズミルはもう一度深くお辞儀をした。
〜〜〜〜〜
ダルクスの船が沈没したその日、勿論出港が出来るハズもなく、日も落ちて空が暗くなり始めてもなおダルクスは酒場でやけ酒に浸っていた。
そんなダルクスを見かねてイズミルが新しい船を工面してくれたのだが、そんな事は露知らず、本人はテーブルに突っ伏して項垂れている。
「ダルさ〜ん。僕達宿屋に戻りますからね!」
そう言ってリューセイが話かけるも返事はない…
「よっぽど大切な船だったんだな」
「リューセイさん…ここは素直に謝っていた方が…」
「リーサ!罪は相手が気付いていなければ罪ではないのだよ!」
リューセイはそう言いリーサの手を引いて酒場を出て行った。
一人残されたダルクスは項垂れながらブツブツと言葉を漏らす。
「うぅ…スーパーシガレット号ぉ…俺が大金を叩いて買って…まだ指で数える程しか乗れてないのに…畜生…」
そんなダルクスの突っ伏しているテーブル席に誰かがスッ…と相席してくる。
「いかがしましたか?何か困った事でも?」
落ち着いた男の声がする。
ダルクスは突っ伏したまま目線だけをその男に向けた。
白く長い髪を伸ばし、牧師風の服の上から黒いローブを羽織った端正な顔立ちの若い男…
「て…テメェは…」
「さては、大切な船でも失いましたか?」
男はニコニコと人当たりが良さそうに話す。
…が、ダルクスはバン!と机を叩いて立ち上がる。
「やっぱりテメェらの仕業か…!!"エクス・ベンゾラム"!!」
「落ち着いて下さい。周りのお客さんがビックリしてしまいます。さぁ、とにかく座って下さい。僕は逃げません」
そう言われ、ダルクスは辺りを見渡す。周りがなんだなんだと困惑している。
「チッ…」
舌打ちをついて大人しく席に座るダルクス。
目の前の男…エクス・ベンゾラムの幹部の一人【クルブシ】という男だった。
「さて、船の件ですが…生憎僕達は関係ありません。それはご理解頂きたい」
「あ?だったら誰がやったってんだ」
「強いて言うなら…この世を有るべき姿に戻そうとする…"自然の力"…とでも言いますか」
「何言ってるんだ…」
「先日はうちの団員が失礼をしたようで申し訳ない。この度はそのお詫びをしに参りまして」
「先日…って…あぁ、ここでの殺人事件の一件か。その為にわざわざ俺達が来るのを待ってたのか?」
「いえ?ここであったのはたまたま…"偶然"出会っただけです。不思議ですよね…?わざわざコチラが探さなくても貴方達は目の前に現れる…」
「…そうだな、こっちもお前らに話があったんだ。最近暗躍してるみたいじゃねぇか。シュヴァルツの密輸をしたり…何を考えてる?」
「…さて?何の事でしょうか?」
クルブシは知らないと両手でポーズをする。
「とぼけんな!シュヴァルツの製造・密輸は世界法で禁止されてるハズだろ!それを破ればどうなるかは知ってるよな?」
「全く…何を根拠にそんな事を…そう仰るなら証拠を提示して下さい」
そんなものがある訳ないと知っていて、クルブシは余裕の表情を見せながら続ける。
「さて、僕は別に貴方と争いたい訳じゃない。出来れば穏便に話し合いで済ませたいのです」
「穏便にねぇ…」
「単刀直入に言いますが、宝箱配置人の業務を放棄して下さいませんか?」
「…そうくると思ったよ…」
「貴方達の行為は自然の摂理に反します。この世は"偶然"や"成り行き"で成り立っている。それなのに貴方達はそんな世界に勝手に"台本"を造っている。神でもない貴方達が」
「それが世界を救う為だ」
「世の理に逆行する行為だとは思いませんか?…【タニシ様】は仰っていました。この世界は本当はとっくの昔に滅んでいたと。しかし、宝箱配置人がそれを許して居ない」
「良い事じゃないか」
「果たしてそうでしょうか?貴方達が現れてからと言うもの…この世界に災厄が訪れる回数は激的に増えている。大昔はそんなことは無かったと言います…十数年の周期で厄災だの魔王だの…コレがどういう意味か分かりますか?」
「……………」
「貴方達が無理矢理捻じ曲げている運命をこの世界は正そうとしているんですよ。貴方達がやっている事は余計な事だとね」
「オカルトだそんなの」
「この世界は"成り行き"と"偶然"に任せるべきだ。貴方達によって操作される"作られた勇者"などは必要ないのです。もしこの世界が救われるべき運命なら宝箱配置人が出る幕もなくこの世界は"自然"に救われる」
「救われなかったら?」
「…それが運命です。滅びる運命だったと思う他ない。しかしそれを捻じ曲げるからより酷い惨劇を生む事になる」
「…なんの根拠があってそんな事…!!」
「根拠…ですか…。世界が捻じ曲がった運命を正そうとしている…。それを手助けする私達に天は味方をしているでしょう?だからこそ貴方の船は"偶然"潰された。私は"偶然"貴方と出会う事が出来た」
「何もかも偶然だと?ふざけんな。トリックがあるんだろ」
「残念ですがありません。少なくとも私は今まで"偶然"と"成り行き"に身を任せた事しかありません…」
「話にならねぇな」
ダルクスは立ち上がる。
「交渉は決裂…ですかね」
「そこまで言うならもう一度偶然に委ねてみろ。お前なら俺達にまた会えるんだろ?」
「フフフ…そうですね。では、次また会えたら考えを改めてくれますか?」
「さぁ?どうだろうな」
ダルクスは酒場を後にしようとする。
その後ろからクルブシの声がする。
「会えますよ。どれだけ遠くに行こうと。この世界が貴方達を許さない限り…私達は導かれます」
クルブシは微笑む。
その声を背にダルクスは酒場を出たのだった。
続く…




