第四十三幕【ぶっ放せ!光伝力放射砲!】
ドガーーーン!!!
バゴーーーン!!!
…と、爆発音が平原に鳴り響く。あちこちに砂煙が舞上がり、その下の地面は大きく抉れている。
魔王軍・チャリオット隊が操縦する新兵器【センチャリオット】が一機、また一機と集まってきて、宝箱配置人一行に目掛けて容赦なく砲弾を浴びせている為だ。
リューセイ達は纏まって、ただひたすらその砲撃からジグザグに逃げ回っていた。
「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!どうするんですかダルさん!!!生身で勝てないですよあんなの!!」
バゴーーーン!!!
「知らねぇよ!俺に聞くな!なんとかしろ勇者!」
ドガーーーン!!!
「だから俺は勇者じゃないって…!!っていうかダルさん、よくそんなデッカイ荷車引いて逃げてられますね!?置いていきましょうよ!!そんなの引きながら逃げられませんって!!良い的ですよ!!」
ズバゴーーーン!!!
「バッカ!これを破壊されたら大変だろうが!!命に替えても守らねぇと…」
「いつまで逃げる気だっぺ!正々堂々戦え勇者!!」
センチャリオット一番機からゲルトニーの声が響く。
「こっちのセリフだ!正々堂々と勝負しろよ!そんな兵器で追い掛け回してさぁ!?」
リューセイは後ろを振り返りながら叫ぶ。
後ろからは3台の戦車が追い掛けてきていた。
「今度こそ絶対死んじゃうぅぅぅぅぅ!!!」
リーサは泣きながら必死に走っている。
「これじゃ埒が明きませんね…!皆さん、散り散りに逃げましょう!狙いを分散するんです!隙を見て、私も攻撃をしかけます!」
イズミルはそう言って【飛翔の章】でバビューンと別方向に放物線を描いて飛んで行き、着地した後そのまま駆け出していった。一番機のセンチャリオットがそれを追いかけていく。
「おい!?気を付けろよイズミル!?」
リューセイが叫ぶと、ダルクスも口を開く。
「チッ…しょうがねぇ!俺達も散らばるぞ!」
「ひぇぇぇぇ!!?一人は怖いですよぉぉぉぉぉ!!!」
リューセイはリーサの手を引く。
「リーサは俺と一緒に来るんだ!」
「は、はいぃぃぃぃぃ!!!」
こうしてリューセイ達は3方向に散らばったのだった。
〜〜〜〜〜
「姫様の言った通りだ。奴らはまだ低レベル。逃げる事しか出来ねぇみたいだ」
宝箱配置人一行を追いかけながら操縦席のスパイロズが呟く。
「ゲルトニー!【センチメンタル】で追撃しろ!主砲は【レティクロー】に任せるんだ!」
「了解っぺ!」
ゲルトニーは肩にかけた半自動小銃【センチメンタル】を構えて戦車の小窓から銃身を出して狙う。
主砲は戦車全体に絡み付いた赤色の寄生触手生物【レティクロー】が砲弾を装填・砲撃と、引き続きやってくれている。
「よっしゃあ!撃つっぺ〜!!」
ーーーーー
パーーーンパーーーン!!
砲撃と混じって聞こえてくるメンチメンタルの銃声!
チュン!チュン!とイズミルの横を鉛玉が通り過ぎていく。
「女の子に容赦なく発砲するなんて、なんて下品極まりないんですかね!!許せません!!」
イズミルは走りながら、ここぞとばかりに頭の中でディアゴのページを思い浮かべる。
ディアゴはバララ!とイズミルの思い浮かべた章にめくれた。
すると、イズミルの後方の地面が一畳分ボワンと四角く縁取りに光り出す。そこをイズミルを追い掛けるセンチャリオットが踏んだ瞬間!
「掛かった!!」
メキメキィ!!
その縁取られた部分の地面が綺麗に"畳"の様にめくれ上がった!
【219ページ・畳返しの章】
「ギョワアアアアア!!?」
センチャリオットはめくれ上がった地面ごとドゴシャアァアアアア!!!とひっくり返ってしまう。中から魔王軍の叫び声が聞こえる。
「ニシシシ!!どーですか!!ひっくり返ってしまったら、どうする事も出来ないでしょう!!」
「チ、チクショぉぉぉぉぉー!!?」
〜〜〜〜〜
リューセイはリーサの手を引きながら飛び交う砲弾と銃弾の中、必死に逃げ回っていた。
「リーサ!このままじゃ二人共やられる!どっかで隙を見て反撃しなけりゃいけない!」
「そ、それはそうですけどぉ!」
そんな事を言っている最中、追い掛けてきている一台のセンチャリオットとは別に、遅れてやってきたのか他のセンチャリオットが二台追加で追い掛けて来た。
「クソっ!?まだ居たのかよ!?」
合流するや否や、コチラに向けて砲撃を開始する。
ドゴーーーーーン!!!
バゴーーーーーン!!!
「生身の人間に随分と本気じゃないか!!それが今回の魔王の方針か!?」
「勇者様!!もうここは…切り札を使うしかないですよ!!」
背中のユーリルが声を荒らげる。
「分かってる!!けど、立ち止まれないんだよ!!立ち止まったら砲撃の的だ!!」
「………リューセイさん!ここはお任せ下さい!」
ザザッ!とリーサは足を滑らせ急停止しセンチャリオットに向き合う。
「プロテード!!!」
リーサは杖をかざし呪文を唱えた。
足元に大きな魔法陣が出現する!
センチャリオット3台は思わず停車したが、お構い無しに砲撃を開始。しかし、砲弾は魔法陣を避ける様にクイッと方向を替えて地面に着弾する!
ドゴーーーーーン!!!
バゴーーーーーン!!!
「この中に居る間は攻撃を弾きます!今のうちに反撃を!!」
「リーサ、いつの間にそんな呪文を!?」
「分かりません!いつの間にか経験値を積んでレベルアップしてたんです!魔物と戦った事なんてないのに…どこで経験なんか積んだんですかね?…って、それより、さぁ!早く!低レベルで無理して唱えてるんで…身が持ちません…!!」
(経験値を積んだ…って、まさか『限界メンヘラ突破』した時の経験か!?)
リーサは力強く杖を構えている。
鼻からツーと、鼻血が垂れている。
無理して呪文をかけているのは見ただけでも分かる。
「リーサ、ありがとう!直ぐに終わらせる!!」
リューセイは光伝力放射砲を構えた!
「つ、ついに使うんですねっ!?ちょ、ちょっと待って下さい心の準備が…!」
ユーリルは焦り気味に話す。
無理もなかった。射出したら自分がどうなるか分からないのだ。
「耐えろよユーリル!!どうにかなったらごめん!!」
「うっわ他人事!!!」
「光伝力放射砲!!!発射ぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」
リューセイは躊躇なく引き金を引いた!!
直後、凝縮された光属性の帯がレーザーの様に前方に射出された!!
ビギャァアアアアアン!!!
そのレーザーに当たった一機の戦車は、まるでチンチンに熱したフライパンの上に落とした水滴のようにバチバチィ!!!と勢い良く弾かれ、物凄い大回転をしながら空の彼方へと吹っ飛んでいった。
「どわぁぁぁぁぁ!!!!?」
その反動に思わず、砲口を前方に向けたまま引っ転げてしまった。
しかし、高出力のレーザーは依然と出続けている。
その拍子に2機目、3機目の戦車にもレーザーが当たる。
同じく、バチバチバチィ!!!と弾き飛ばしてしまった!!
「どわわわわぁぁぁぁぁ!!?止まれ、止まれぇぇぇぇぇ!!!」
もう既に引き金は引いてないが、レーザーは出続ける。一度射出すると、エネルギーを失うまで吐き続けるようだ。
威力は想像以上、そして、余りにも危険過ぎる。射程はおよそ50メートルは及んでいただろうか。目の前に敵が居なくなったのにも関わらずレーザーを出し続ける光伝力放射砲…
しかし、次第にレーザーは短くなっていき、プシュ~…と白い煙を立てながらようやっと落ち着きを取り戻した。
「そ…そ…それ…どんな兵器よりも危険だと思いますよ…リューセイさん…」
リューセイと同じく、腰を抜かし尻もちをついているリーサが声を震わせながら言う。
「お、俺もそう思うよ……………って、ユーリル!ユーリルは無事か!?」
しかし、ユーリルの返事がない。
「まさか………一緒に消し飛んだ………?」
続く…




