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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
プロローグ
4/66

大干支街道捕物帳4

マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)↓

https://tw6.jp/gallery/?id=4955

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 僕は腰を下ろして屈むと、ゆっくりと腕を伸ばした。

 すぐに手は届き、床へ座って首をうなだれている転生者の女の肩を軽く揺する。


「ほら、そろそろ起きるんだ」


「あわわ……コーちゃん、アタシやり過ぎちゃった? 大丈夫だよね?」


 心配そうな表情で真多子(マダコ)が僕に尋ねて来る。


 犯人の身体をタコ腕で縛り付けている彼女は、任務での肉体労働が役割。

 頭脳担当の僕とコンビを組んでいる頼もしい相棒だが、たまに……というかよくやらかすのだ。


「大丈夫、あれはちゃんと正当防衛だからな。 後から何を騒がれようと平気だよ」


 今回はよくやったと、彼女を褒めて頭を撫でていると、艶っぽい呻き声が鳴る。


「んん……」


 真多子にこっぴどくぶちのめされてノビていた転生者が、ようやく目を覚ましたようだ。


 生きているのはχ眼(カイガン)で確認済みだったから、もとより心配はしていないが。

 それよりも、真多子を襲おうとしたことが問題だ。


「さて、寝起きの所で悪いけど犯罪者さん。 君は窃盗の罪だけじゃなく、逃亡、殺人未遂の罪も追加されるみたいだね」


 裏路地での意趣返しとばかりに、開いた指をゆっくり3つ折る。


「な、なんでここにいるのよ! 撒いたはず……っていうか、なんでわたしの居場所が!? ここ、地上から相当高いはずなのに!!」


 目覚めたばかりなのに、色々と腑に落ちないと転生者の女は騒ぎ立てる。

 しかしいくら暴れたところで、身動(みじろ)ぎ一つ取れなかった。


 全身筋肉で出来たタコの特性を色濃く持つ真多子、彼女のパワーにただの転生者が勝てるはずもない。


「ふっふーん! 今度は身体を掴んでるから失敗しないもんね!」


 それどうだと自慢げに、真多子が鼻をフスフス鳴らす。


 頭まで柔らかいが、その分、教えたことの吸収も早いのがこの娘の取り柄だろう。

 もう先程のように騙されることはないはずだ。


「あぁ、居場所を探すのは簡単だったよ。 ()()のおかげでね」


 僕の指を折った方と逆の手を開いて見せる。

 その人差し指の腹は、黒い煤けた色に染まっていた。


「はぁ? 何よそれ、いいから(ほど)きなっての!!」


「これは……」

「アタシのタコスミ!!」


 もったいぶって僕が答えを言おうとすると、真多子が遮って得意気な顔をする。

 美味しい所を持っていかれてしまった。


 じとりと真多子を恨めしく睨むと、指に付いたタコスミを舐めとる。

 美味しい。


「もうその目で見たと思うけど、真多子は姿を周囲に溶け込ます才能に長けていてね。 裏路地での僕と君のやりとりも全部見張らせていたんだ」


「あ~!! そういえばコーちゃん、偽乳(おっぱい)揉む時に(いや)らしい顔してなかった?」


 今度は真多子からじっとりとした視線を受ける。

 心当たりがないでもない、冷や汗が額を伝うが、ゴホンと咳をして誤魔化し話を進めることにした。


「そ、それでだ、棲み処へ帰るところを追跡させながら、マーキングしていったというわけだ」


「あっそ、助平(スケベ)一人だと思って油断した、わたしが甘かったってわけね」


(助平は余計だろう、真多子の前なんだから止めてくれ……)


 もはやぶりっ子喋りも止めて、機嫌の悪さを微塵も隠さない女転生者。

 僕と顔を合わせようともしないのだから、女の豹変ぶりとは恐ろしいものだ。


「それに、君のように空を飛べなくたって、僕達『軟体魔忍(なんたいまにん)』には吸盤がある。 だから、どんな高い所だろうが登るのは朝飯前なんだ」


 僕が夏でも外さない指抜きの長手甲を脱ぐと、掌に丸い吸盤が見えてくる。

 そして試しに床へと押し付け、手を挙げようとすると、床板がミシミシ割れるような悲鳴をあげた。


 真多子の白刃取りも、これがなければとても成功しなかっただろう。

 普通の掌では勢いの付いた刃など、滑って斬られてしまうのがオチだ。


 ひとしきりタネを明かすと、僕は再び長手甲に指を通す。


 右眼と両の掌、僕の特性が出ているのはここだけだ。

 真多子と違って怪力があるわけでもないので、平素はなるべく能力を悟られぬよう隠している。


「さて、御託はこのくらいで済ませて本題に入ろう。 どうせ用心深い君のことだ、盗品の隠し場所はこの屋根裏だけじゃないんだろう? 全て洗いざらい吐くんだ」


「知るかバーカ! さっさとわたしを国へ突き出せばばいいでしょ」


 一向に顔を合わせようとせず、転生者の女はつっけんどんに言葉を吐き捨てた。

 素直に吐く気が無いのは、一連の態度で分かっていたので別に構わない。


「ふん! だいたい、わたしにこんな傷負わせて不味かったんじゃない? 絶対に問題になるから!」


 この状況でもまったく懲りる様子は無く、またも転生者としての立場を持ち出してくる。

 世間を分かったようなフリをしているが、素直な真多子に比べて学習能力の全然無い女だ。


「傷、ねぇ。 そんなものあると思うか、真多子?」


「ん~……無い!! すっごく健康だと思うよ!!」


 真多子は嘘をつけるような性格じゃない。

 本当にそう見えるのだろう。


「はぁ? まだこんなに痛むじゃない! そんなわけ……あれ?」


 屈託のない真多子の声に眼を剥いた転生者は、かち揚げられた自身の顎先を見下ろす。

 しかし、赤く腫れるどころか血の一滴も見当たらないのだ。


「ご覧の通りだ。 そんな健康体じゃ、何を訴えても聞き耳持たれないだろうさ」


「な、なんで……? だって意識まで飛んだのよ!? こんなはず……!!」


 夢でも見てるか、狐に化かされたかと混乱する彼女に、もう一つ最後のタネ明かしを披露する必要があるらしい。


「むっふふー。 何でだと思う~?」


 自分のことじゃないというのに、何故か真多子まで偉そうな天狗になっている。


 このままでは、この説明まで真多子に持っていかれそうだ。

 僕は急いで右の前髪をかき上げて、χ眼(カイガン)を晒す。


偽乳(パッド)を見破るだけがこの眼の真価じゃない。 相手の急所、痛みを感じる部分も見通せるんだ」


 偽乳と口にする際、転生者の胸元を指差して強調すると、耳まで真っ赤に染まっていた。

 一応気にしているらしい。


「本来は暗殺用だけど、上手く使えば炎症を抑えて、内傷を誤魔化すことが出来るってわけだ」


 タコの特性と何の関係も無いこの力、それが何故身に付いたのかは僕にも分からない。

 先代頭目(とうもく)の親父殿も急所を狙っていたらしいが、あちらは歴戦の中で身に着けた純粋な『技術』、遺伝では無いはずだ。


 しかし、使えるものは何だって使わせてもらう。

 こと、こういう任務では特に便利なのだから。


「コーちゃんの眼、カッコイよねー! アタシも欲しいな~」


「真多子は僕より特性が色濃いんだからもう充分だろ……いやそうじゃなくて」


 褒めてくれるのは嬉しいが、横槍で逸れた話を修正する。

 素直なんだが、たまに素直過ぎる、今格好つけてるところなんだから空気を読んでくれ。


「つまりだ、このまま黙秘を続けるつもりなら、少々痛い目をみてもらうことになる。 ()()ってやつだな」


 拷問という単語をハッキリと言葉にしてやると、転生者の女の顔がみるみるうちに青ざめていく。


 外傷や痣が見える拷問は、引き渡しの時に隠せないし騒がれる。

 しかし、苦痛だけを与えるツボを押してやるのは、後からでは確認のしようがないのだ。


 いくら中央から精査が入ろうと、僕達の行いがバレることもない。


「そ、そんなのデタラメよ! あんた達はわたしに乱暴出来ないって! 今までだって……」


 他国では確かにそうだったかもしれない。

 だがこの巳の国には()()()()がいるのだ。


「口で言っても理解できないなら、身体へ直接聞くしかないようだな。 真多子、ちょっと暴れるだろうからしっかりと押さえててくれよ」


「オッケー! どんとこい、だよ!」


 転生者に巻き付けていたタコ腕を絞め直すのを見届けると、χ眼(カイガン)で犯人の脚を見定めた。


 足裏はどんな種族であっても、体内の様々な器官へ繋がるポイントが見えて来る。

 相手の弱っている器官に繋がる部分などは、押してやると特に痛みが響くのだ。


 試しにその一つをギュッと、親指を折った背の部分で押してやる。


「ちょ、ふざけんな! なに勝手に触って……ンギィィィィィィ!!!?」


 急激に登りつめた痛みを押し殺すように歯を食いしばり、なお漏れ出す悲痛な声が屋根裏へと響き渡る。

 裏返ったその声量は、僕が唐辛子を喰らった時に匹敵するものだろう。


「うわぁ痛そー……」


 全身筋肉の真多子は、よく無茶をするのでこの痛みのお世話になっている。

 それを思い出したくないのだろう、余った腕で耳を塞ぎ、目一杯に目を瞑って顔を背けている。


「お前も追跡の時、派手に屋根を跳び移ってたんだ、他人ごとじゃないからな。 あとで施術するから覚悟しておくように」


「うぇぇぇ!!? そんなぁ!!」


 そんな会話を挟む間も、絶えず痛みに苦しむ絶叫が鼓膜を刺激する。

 自由奔放なのはいいが、よほど自堕落な生活をしていたのだろう、揉んでやるポイントは尽きない。


 ある程度反抗的な態度が無くなるまで続け、様子を見るために僕は手を止めた。

 転生者の方はといえば、慣れない痛みでぐったりと脱力しうなだれていた。


「さて、手の準備運動はこのくらいでいいだろう。 ここから本番だけど、まだ黙秘を続ける根気は残ってるか?」


 答えは聞くまでもないが、一応形式上の質問をしておく。

 涎も涙も垂れ流し、掠れた声で彼女は口を微かに動かした。


「い、言いまひゅ……だから、もう、許して……」


「だ、そうだ。 確認のために隠し場所まで案内させるから、運搬頼んだ真多子」


「りょうかーい! これで一件落着だね! イェイ!」


 ぐったりと床に倒れ込む転生者を放すと、真多子は6本の腕を使ったトリプルダブルピースで眩しい笑顔を見せるのであった。

初めての作品のため、色々と間違っている所があると思いますので、ご指摘・アドバイスなどをいただけると助かります!


よろしければ、評価・コメント・ダジャレなどもいただけるとも~っと嬉しいです!!

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