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1019A:不正はいつだって、恐怖によってやってくる。だからボクらは、それに打ち勝つんだ。

「今回事故が起きた樺太・豊真線。数年前、陸軍からこの路線に新型機関車を導入してほしいという要請が届いた」


 笹井は、とうとつと語り始めた。


「陸軍は自らの予算を国鉄に回したうえで、樺太での使用に耐えうる機関車を新規に設計し、導入してほしいと願った」


「待ってくれ。新型機関車導入要請だと?」


 井関は晴天の霹靂とばかりに目を丸くする。


「ああそうだ。樺太の極寒豪雪環境に耐えられる、特別な機関車を要請された。そして、その新規設計・製造に必要な資金はすべて、陸軍から前払いでも拠出されていた」


「なんだその話は。ボクはそんな話一切聞いていない!」


「そのはずさ。これはワシと一部の人間しか知らない。なぜなら、経理副局長と車輛局長、そして運転副局長に全て握りつぶされているからだ」


「なんだって!?」


 小林はついつい大きな声を出してしまった。


「彼らはこの予算を使って、別のことをしようとしていた。だから、樺太に向けた機関車は、専用の新型ではなく、本土で使っていたものの使いまわしだったんだ」


「そういえば、陸軍人がしきりに、”新型の機関車をありがとう”と言っていた。それはこのことだったのか」


「だからところどころ、彼らと現実の間に矛盾があったんだ。このEF16は、本土で余っていた車両に適当な改造を施しただけのものだ」


「井関、改造をするときに樺太に向けた特別な変更などはしなかったのか」


「しなかった。むしろ、経費の都合でするなと言われていた」


 小林は、笹井に目を向けた。


「つまり、こういうことだったんだな」


「ああ、そうだ」


 だから、樺太で使うにはあまりにも欠陥がある機関車が樺太へ送られてしまった。彼は、そう語った。


「オイ! そうやって浮いたお金はどこへやった!」


 小林は笹井の胸倉をつかんだ。


「……米国との講和交渉のための工作に使った!」


「なんだとう!?」


「こうするしかなかったんだ! 当時の国鉄には、あまりにも金が無かったんだ!」


 彼はそう言ってうなだれてしまった。


「そのことを、総裁は知っているのか」


「知らないはずだ。ワシは総裁連絡室付きとして最初にこの情報を得た。それを経理副局長に伝えたところ、口止めされたんだ」


「それじゃあ君は、この事故がその不正に真の原因があるかもしれないと思って、ここまできたのか」


 笹井は、その瞬間わっと泣き出した。


「君が調査員に選ばれた時、これしかないと思ったんだ。結局ワシは、君たちまで裏切ってしまった!」


 彼の慟哭は、それから止まることが無かった。


「立花機関士を殺したのはワシだ。だから、ワシが腹を切る」


 彼は、それだけを言った。


 井関は、そんな彼の辞表に、自分のソレを重ねた。


「時間不足や資金不足は弁明にならない。車輛を設計したのはボクで、あの機関車に責任を持つのはボクだ。だから、ボクも責任を取る」


「井関、お前……!」


「最初から、こんなことになるんじゃないかと薄々気が付いてはいたんだ。だから、ボクは国鉄を辞めるつもりでここへ来た。それだけさ」


 そこへ、水野も重ねた。


「機関士たちは、この地獄のような環境に耐えるため、創意工夫をしていました。軍用の高性能コートの確保、人材不足の解消……。本来なら、全て、私たちの責任です」


「水野、君は」


「いいんです。最も彼らに寄り添わなければならない我々が、彼らの声を無視していた。それは覆しようのない事実です。だから、私も責任を」


「なら、俺もだ」


 小林も、重ねる。


「本件は少なくとも、予備人員などを確保できていれば最悪防止できたはずだ。彼らが一人で乗務しなければならないほどの深刻な人材不足を見過ごした責任は、人事を司る職員局にある」


「お前ら、まて!」


「待たん! 俺たちはお前の親友だ!」


 井関はそう言って笑った。


「明日、本庁からの連絡員がくる。そいつに真実と共に辞表を全て叩きつけよう。それで、全ての責任を」


「お前ら……」


「忘れてくれるなよ。ぼくら東京高校四人組は、常に一蓮托生の親友だ。我々は親友と共に生き、親友と共に殉ずる」


 乾杯をしよう。そういって、井関はそのあたりにあった適当な盃を持ちより、そこへ水を注いだ。そして、空高くそれを掲げる。


「一度死んだようなものだ。二度も三度も大差ない」


「その通りだ」


「官僚の地位を手放すのも」


「国鉄から離れるのもですね」


 水杯を、全員が掲げた。


『我ら東京高校4人組に、乾杯!』

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