表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

隠された醜聞あるいは真実の愛

 そうそう。先ずは何故私が冒険者を雇ってまで、真相を調べさせたのかの説明をさせて下さいませ。


 第一に、殿下は魔法はともかく剣技には秀でておいででした。それが不意を突かれたとは言え、たかが盗賊風情に一撃で殺されるとは思えなかったからです。

 次に、婚約破棄からの退位宣言に国外逃亡未遂……確かに醜聞続きの果ての怪死とは言え、王室による幕引きが早すぎた様に思われたからでした。仮にも王太子が殺害されたと言うのに、ろくに殿下を殺害したとされる盗賊の捜索も行われた様子も無い。それに御葬儀も実に簡素で早急な物でしたわね。あれは(ほとん)ど密葬でしたわ。


 まるで王室そのものが、この事件を一刻も早く忘れたがっているかの様に……そう私は感じましたの。


 私は確かに殿下に恋慕の情は持っていませんでした。でも、魔法学校の学友として、何よりも御幼少の頃から親しくさせて戴いた、幼馴染みとしての友情は在りました。

 ですから、私はこの事件の早すぎる幕引きに納得いかない物を感じ、同時にこの事件には隠された真相が有るのでは無いかと……そう思うと矢も盾も(たま)らず、表向きはゴブリン退治の名目で冒険者を雇って、件の事件を調べさせていたのですわ。


 ええ。真相は解りましたわ。思ったよりも呆気(あっけ)なく。


 ……殿下は、御自身の言う所の真実の愛を貫こうとした為に、その愛を捧げた相手に殺された。……これが全てですわ。


 あらあら。まだ私をお疑いですの? いいえ、私は殿下の真実の愛のお相手ではありませんし、あの事件が起きた時には私は病の床に居て、その事は何人もの御見舞い客が証明して下さいますわ。


 今言いました様に、殿下を殺害した犯人は殿下が真実の愛を捧げたお相手。そう。そのお相手は、あの夜、同じ旅籠に居ましたの。


 ……意味が判らないって御顔をされてますわね。では、もう一つ、新聞記者も掴んでいない事実を付け加えさせて下さいな。


 私の雇った冒険者達は、例の村から程近い街の闇市で、殿下の持っていた魔剣や衣服、それに白馬に、離宮から持ち出された宝石等が売られているのを見付けましたの。

 ああした闇市は盗賊(シーフ)ギルドの(あずか)り。冒険者のパーティーに盗賊がいたので、どうにかそれを売りに来た人物を突き止める事が出来ましたわ。政界や社交界の醜聞を嗅ぎ回るしか能の無い新聞記者や、安全な都会で浮気調査をするのが精々の探偵連中では、こう上手くは行かなかったでしょうね。


 それで、それらを売りに来たのが一体誰だと思いまして? ……いいえ、盗賊ではありませんでした。売りに来たのは例の旅籠宿の老主人でしたわ。


 いいえ、老いた主人では例え不意を突いたとしても、殿下を一撃で撲殺するのは不可能でしたしょうね。冒険者達もそう考えて、旅籠宿の主人に証拠の盗品を突き付けて詰問(きつもん)したのです。気の弱い主人は、少し脅かしただけで全てを白状しましたわ。


 主人は、馬小屋から馬の大きな嘶きが聞こえて来たので、何事かと思って馬小屋へ向かった。そして中に入ると、殿下が馬の傍らで死んでいた。死体が王太子とは知らなかった主人は、つい欲が出て、盗賊の仕業に見せかけて殿下の持ち物を全て売却した……


 ええ。主人が殿下の持ち物を奪った事以外は、全て新聞に載ってた通りですわね。でしたら、最後にもう一つだけ。報道にも載って無い小さな事実を付け加えましょうか。


 殿下は全裸で死んでいました。死体を見つけた主人が身ぐるみを剥いだ訳では無く……ね。殿下の衣服は……下着に至るまで全てが馬小屋の傍らに、まるで脱ぎ散らかしたかのように、乱雑に置かれていたそうですわ。


 ……


 ……


 ……


 ……あらあら。どうされましたのミネット様? 御顔色が御悪うございましてよ?


 まるで何かを察してしまったかの様な表情をなされて。……ええ、その先は仰らない方が宜しいかと存じますわ。


 ……そう。この事件には、もう一つの醜聞が隠されていましたの。婚約破棄や王位継承権の破棄等が比べ物にならない程の……


 この世界には様々な愛の形が御座いますわ。それは確かに殿下にとっては唯一無二の真実の愛だったのでしょうね。それが他人……ましてや王室にどう受け取られようとも……。


 そしてやはり王室はそう考え無かった。事件を早々に忘却する為に、事件の証拠となる全ての物を消しに掛かった。


 私が冒険者を介して、真実を知った翌週に起きた旅籠の火事……。もうお分かりですわね。私が王都での暮らしの全てを投げ棄てて、この田舎でスローライフをしている理由が。これは“決して口外しない”と言う暗黙の意思表示。……まあ、聞き入れて下さるかどうかは分かりませんが。


 もちろん、もはや証拠は何も有りません。件の旅籠は火事で主人夫妻と共に焼け落ち、私が雇った冒険者達は、報酬に口止め料と逃亡費用を上乗せして、既に国外へ出て貰いました。世間は既にこの事件を忘れ果てて、関心を持つ者も少ないでしょう。


 ですから、ミネット様。私を含めて誰を告発しようと、それは御自由ですが……。その行為が……事件を蒸し返して真相を明らかに事が、どう言う意味を持つか……。聡明な貴女様なら、勿論お分かりですわね?


 ……


 ……


 ……


 ……あらあら。もうお帰りになりますの? 折角だから、お泊まりになって行けば宜しいのに。


 そうですの? では無理強いは致しませんわ。どうか帰り道にはお気をつけて下さいませね。最近はこの辺りも物騒で、何が出るやら分かりませんから。うふふふ、うふふふふふふふふ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ