第6話
お爺様から、私とダブラン様も一緒に、護衛の数を増員して、ラシェッタ様の祖父母や、父親と長男もいるご当主の屋敷まで来るようにと言う急ぎの手紙が届いたのです。
途中で宿泊する可能性もあったので、その支度をし、屋敷に勤める者達へ留守の間の事を執事を中心にして頼み、ウエストック伯爵家のご当主宛に急ぎの使者を出してから、急いで自分の身支度をして、ダブラン様とご一緒に馬車に乗って、増やした護衛を騎馬で連れ、屋敷を出ました。
不安で震える私の隣で、ダブラン様が私の手を握って支えてくださっています。
どうして?何故?という不安と、息子の状態が分からず、その気持ちに押しつぶされてしまいそうな不安定さに、気付けば、馬車の中で声も出さずに泣いていました。
移動の途中で馬車が停まったので、ダブラン様の侍従がダブラン様に何かを告げに来て、出てゆきました。
「トノがリエンヌの加勢に来てくれたんだ。
あっちも伯爵家の馬車で護衛を連れて来ているから、私達の馬車の後ろに付いてくると言っているんだそうだ。だから、安心して欲しい。」
「そうですか。私には何が何だか今でも、何も分かりません。」
「トノの見解に書いてあった予想通りに、ラシェッタ殿は暴走を始めたんだと私は思う。
リエンヌが、自分の思い通りにならないから、簡単に動かせて、自分の思い通りになりそうな息子さんをリエンヌの居る家から連れ出したのだと、話を聞いた時点で思ったんだ。」
「私が、リシェッタ様の思い通りにならないし、思い通りに動かないから?」そんな馬鹿な!ただそれだけで?
「リエンヌは、ラシェッタ殿の思い通りに動く人形じゃないのにね。リエンヌの思う通りに生きているだけなのに、ラシェッタ殿は、まるで、お気に入りの人形を取り上げられた子供のような行動しかしていない。」
ああ、やっぱり。私はラシェッタの6人目のお人形さんだったのね。そこに私の意志は必要なかったのだわ。息子は、いつの間にか増えただけの新しい人形だっただけで。ラシェッタにはそんなに大事ではなかったのだと。
すっと、そんな言葉が思い浮かんでは消え、前世で子供だけは大事にしていた自分を思い出しました。
「到着しました。」と伝える馬車の外からの声で、私は今いる現実に意識が戻ってきました。
侯爵家の中の応接間に案内をされました。
そこには、したり顔で座るラシェッタとその父親のご当主様。ラシェッタと似ている年上の男性。一度だけお会いした爺様と、年配の女性、この方が「猛女」で祖母なのでしょう。
お爺様もいたけれど、家を出る前よりも疲れていらしゃるように見えました。護衛もしっかりと付いています。
私は、ダブラン様にエスコートされながら、トノ様と、護衛を連れ、堂々と入りましたわ!
子を無断で連れ出し、母たる私から引き離し、誘拐した家に人質とされているのですわ!そんな家に気を遣う必要はないのですから!
ニッコリと微笑んで、「ご機嫌でないですわ。いきなりの我が家の嫡男の誘拐と、急ぎの手紙を見て取り急ぎ、ここまで来ましたの。
一体、これは何の茶番でしょう?
ここまでしたのですから、母である私が納得出来る程の立派な理由があるのですわよね…!!!」
ラシェッタ側にいる人達をゆっくりと見回しました。
へぇ、ただの種馬の祖母なのに、私を睨むんですのね。
「それはおかしな事。ラシェッタはひ孫に会えない私達へ合わせようと連れ出しただけなのでしょう。そこまで話を大きくしないでもらいたいわね。」
そう来ましたか。でもね、こちらもそれには反論出来るんですわ。
「あら?無断で連れ去り、母である私へ一言もないのに、ひ孫に会えるとは思わないでいただきたいですわ。嫡男ですから、誘拐対策に、護衛と陰で動く護衛の両方を私の命令で付けておりますの。そのどちらからも、無断で許可も一言もなく、我が家の後継ぎを連れ出して言ったのですから、最低な行動ですわ。」
「猛女」が私の予想した通りなら、私の命令で動いていた者達から、息子を取り戻したと報告の合図が来るまで、話をするだけだわ!
「息子を父である俺が連れ出すのが無断だと言うのか?」
「ええ。貴方は私に子を産ませる道具として、侯爵家から遣わされた方。
私は、貴方の6人目の言う通りに動く抱き人形ではありませんの。
娼婦の様に、お金と引き換えで、ラシェッタ様の何でも思い通りに出来る、願いを叶えるような事をしなくてもいいですし、生活費を自分の力で生み出している立場なんですもの。
自分の意志で動き、自分の思うように生きていますのよ。」
「なんて生意気なんでしょう!!」ラシェッタ様の祖母が大声で叫んだ。いいえ、吠えたと言っていいでしょう。
やっぱり我慢が足りないから、「猛獣のような女」と言われていましたのね。私の前世と今世を足せば、あんたなんて私よりも年下の小娘よ!子供を無事に奪還するんだから!!
「自分の立場が危うくなると叫ぶだけの女性や、暴力で解決しようとするだけの粗暴な祖父母の立場の方々に、文句を言える通りは有りませんの。
また、それを許すかのように、一切、自分達とは関係がないのだと黙っているご当主様や次期ご当主様は、もっと変ですわ。
私もお爺様も、同じ立場でしてよ。私は次期当主で、お爺様は当主ですわ。ただのスペアや引退した前侯爵が口を挟めるような問題では、この場へ来た時から、一切、なくなっていますのよ。それにも気付いていらっしゃらないのでしょうか?
小娘だと軽く見られている私でさえ、気付く程ですのに。」
「我が妻、リエンヌの言う通りだ。侯爵家の身分を持ち出すなら、夫である私の家の力を出そう。一生彼女を守ると結婚式で誓ったので、な。」
「おやおや、立ち合いをする為にここまで来た私も、言いたい事があったのですよ。
この事は、王家も見守っている事態ですと申し上げておきましょうか。
東西南北の食糧庫にあたる家の発展は、王家の望んでいる事ですからね。
彼女の家には、王家から直々に頼んで、他の3家からの人員も勉強をしに来ているのですから。
王家からも王家の血を引く継承順位の低い王子達が研修と称して、領民には身分を隠して滞在しているのですよ。
そんな中で、こんな事が起きたんです。何もないのだと思う程、お気楽な頭しかないのでしたら、継承順位の低い王子にこの家の爵位と領地を与えて、一族郎党、処分されるのがお望みなのでしょうかねぇ?」
ノックもなしでこの部屋の扉を開けて、息子を抱いた我が家の執事見習いがやって来た。あの元ガキ大将の彼が。
彼は、私へ息子を渡すと、一言言った。
「ただ今、ご紹介にあずかりました王家の継承順位の低い王子です。私も証人になりましょう。
あ、リエンヌ様、ご子息へ、睡眠薬を含んだミルクを飲ませようとしていたんで、グルグルに縛って逃げないようにしておきました。
護衛の皆さんで、馬車の後ろへ括りつけておくようにして、見張るようにもしておいたので。」
「お爺様、この家では、私達には茶の一杯も出なかったのですから、客でもないのでしょう。帰りましょうか。
ダブラン様も、トノ様もありがとうございます。
ああ、ラシェッタ様は、この書類に署名をお願いしますわ。護衛の方が予備を何枚も持っているので、破いても意味がありませんわ。」
ラシェッタ様の署名が必要な書類は、婚姻無効とする書類、子供との接触を生涯禁止する書類、我が家との縁はないのだと証明する書類。子供についての権利を一切放棄する書類ですの。
まさか使う日が来るのはないと思って、用意して書類を使わなければならない日が来るなんて思わなかったわ…!
ラシェッタの家のご当主様と次期ご当主様へは、我が家とこれからも縁を結ぶ事はこれからはないのだと契約する書類でした。
ご当主様と次期ご当主様は、書類に署名を下さったのですが、ラシェッタ様は、「捨てないでくれ!」と叫ぶだけで署名をして下されないのです。
「レンダ、エレン、ミア、アン、カレンだったかしら?その方達全員と会って、話をしましたわ。
皆様、私と同じような髪の色に、似たような瞳の色の濃淡はありましたけど。
でも、顔の造作は全く違いましたわ。
皆様が私へ同じ事を言うんですのよ。「ラシェッタ様の見せてくれた、持ち歩ける精密画で見たのと同じような、ラシェッタ様のお母様と同じ髪の色に、同じ瞳の色の私が一番色が似ているですね。」って。
私は、貴方のお母様の代わりでも、抱き人形でもないわ。いい加減、母離れしてくれないかしら?気持ち悪いわ。私、こんな事も知らなかったから、知ってからは、貴方を見る度に、気持ち悪くなっていっていたのよ。
それを全部、私へ押し付けようとする祖父母が居ては、息子の為にもなりませんわ。
あなた方は、私の一番嫌がる事だけをしてくれましたの。だから、我が家とは、一切の縁をこれからは結んで欲しくないのですわ。例え、私が、間違えてしまったからだとしても。違えた道をご一緒する気にもなりませんので。
書類に署名をするだけで、5人のお気に入りの娼婦と遊べる立場にまた簡単に戻れるんですもの。お早く願いますわ。」
観念したように、ラシェッタが書類に署名すると、ダブラン様が言い放ちました。
「ラシェッタ殿が無知でその上、厚顔無恥で助かったよ。リエンヌが盗まれた時にはどうしようかと思ったけれど、離縁に自らが戻ってくれたので、良かったよ。
それで、男爵家の愛人も君に振られた娼婦の30人の枠の中にいたのかと知ったのさ。そこにいる「猛将」と「猛女」の計画に一杯食わされたのかと思うと、腹の中が煮えくり返しそうでね。
そのうち、どこかで大きな置き土産を渡してあげようかと思っているんだ。そそれがいつどんなものかと楽しみにしていてくれ。では、二度と会いたくないが、見かけても声をかけないで欲しい。」
帰りの馬車の中では、お爺様に、「私を娼婦の代わりに、抱き人形扱いをする為に経過うされていただなんて、知りませんでしたわ!それも、あの方の母親代わりだったなんて!
顔も身体もあの方の母親とは似ていないのに、髪と瞳の色だけが一番近かったからだなんて、選ばれた理由が酷過ぎますわ!私も成人した女性ですのよ!縊らないでみくびらないで欲しかったですわ!
なんで、あんな酷い事を計画する方と友人ですの?」
「私も酷い事を孫に平気でするような奴を友人のままにはしておけないと、縁を切っていたのだ。済まなかった。
まさか、ダブラン殿の悪評作りから計画されているとは思わなかったのだ。
2人とも、済まなかった。」
お爺様も知らなかったんですの、ね。愛人の方も知らずに計画の一人にされていたのですか。
どっちにしろ、最低な一族だったって事は、トノ様の調査内容に、これからはあの家の事を盛り込んでもらえるでしょう。その為にも、トノ様を巻き込んだんですもの、ね。
息子をどういう立場にするのがいいのかを冷静に考えなければならなくなりました…。
暴走列車並みの爆弾の血を私が無知であったせいで、息子へ引き継いでしまったのですから。
次話は、明日投稿予定です。宜しくお願いします。




