第2話
俺が子供の頃、爺宛に手紙が届いたんだと嬉しそうに伝えてきた。
爺の友人から、「友人の領地まで遊びに来い。しばらく滞在して、酒でも酌み交わそう。」との手紙が来たのだと、とても嬉しそうに、そして、小さい子供の様に楽しそうにしていたので、「良かったな、爺。」と言ったら、頭をごしごしと撫でられたのだった。
「知り合いの所へ行くついでに、うちの孫も連れてくか。あいつの孫の遊び相手として。
まぁ、将来はどうなるか分からんが、な。
おい、ラシェッタよ。儂と泊りがけで、一緒に楽しい所へ遊びに行くぞ。何日も泊まる用意をして来い。
お前の兄のような、クソ真面目な貴族様全としているイケ好かないガキと違って、お前は俺と似た気性のようだからな、きっと泊りの間は楽しいぞ。」
俺は、爺の言う通りに用意した。
爺の言う事を聞くと、色々な出来事に出会え、色々な経験をさせてもらえたから、俺はワクワクした。
爺と父は正反対で、父はガチガチのお貴族様で貴族が偉いと威張る権威主義で、爺や俺のような、貴族の枠から簡単に、はみ出すのを厭わないのを毛嫌いしていたのだ。
婆様は、貴族が偉いと威張る権威主義を気取ってはいるが、実際は、爺と同じ、枠からはみ出す人であった。貴族と言うのを便利に使っているのだと気付いたのは、俺がもう少し、成長してからだったけど。
「婆様は、父上と一緒で怖えから、俺達には着いて来ないんだろう?」と俺が訊くと、
「婆様も儂の妻だから、な。儂とお前と一緒に行きたがったが、息子が行く予定での夜会のパートナーとして婆様を連れて行くと譲らなかったんだ。いつまで経っても、母上が一番な息子で困る。
みみっちくも、儂へのしょうもない嫌がらせをするとはな。心が狭くて、儂は呆れるばかりだ。」
俺は動物の子を掴むように、首根っこをひょいっと掴まれ、馬車で移動して連れていかれたのは、爺の友人の領地だった。
そこで、出迎えてくれた爺の友人と、その孫娘に俺は、「ラシェッタ・ランドルです。」と挨拶をした。
爺の友人のご当主様からは、「孫で、後継ぎのリエンヌだ。」と紹介されたのだ。
リエンヌ嬢は、はにかみながら、「リエンヌです。宜しくお願いします。」と恥ずかしがっていた。リエンヌの見た目が可愛くて、守ってあげたくなるような、貴族によく見られる線の細い女の子だった。
だが、リエンヌ嬢の住んでいる領地に滞在している間に、領地のガキども達とも仲良く遊ぶ、貴族の娘らしくないリエンヌをいつの間にか好きになっていた。俺の初恋だ。
リエンヌ嬢が幸せになったら、俺も諦めて結婚するつもりだと爺には打ち明けておいたので、俺は今まで、婚約をした事もなければ、女性との浮名を流した事も全くなかった。
俺の見た目からは、女性と色々ありそうに見えるのだけど、と貴族の友人達には言われていたが。
その俺の初恋のリエンヌ嬢が、悪徳の男爵家に事実と違う嘘の調査内容を渡された上で、嘘とは知らずに婚約し、結婚式を挙げたばかりなのだそうだ。
その愛人と隠し子の居るゴク潰し男との結婚初夜に、その事実を結婚相手から告白されたと。
そのまま、初夜を過ごそうとしていた男から逃げ出す為に反撃し、爺の友人の所まで何とか逃げ出し、結婚相手から告げられた事情を話したんだと、さ。と爺が言った。
貴族の対外的な事情によって、リエンヌ嬢とその結婚相手は白い結婚を維持する事になったのだと爺が続けて俺に告げたのだ。
俺もその話を聞いて、目の前が真っ赤になる位、激高した怒りが収まらなかったが、爺が言うには、「ここからが本題なのだ。」とニヤリと笑っていた。
「ロクでもない相手との間に、リエンヌ嬢が子供を作らない白い結婚をするという契約が出来た。
リエンヌ嬢はそう契約したが、リエンヌ嬢の次の後継ぎとなるべく子を、リエンヌ嬢が絶対、産まなければならない。
いいか、よーく聞けよ!
リエンヌ嬢の爺の友人や知り合いが勧める男なら、リエンヌ嬢の産む子の父になれる可能性があるのだぞ。分かるか?
お前がリエンヌ嬢と子を作れるのだぞ。まぁ、友人との面談があるとはいえ、早い者勝ちになる可能性はあるだろう。
今から儂の書いた推薦状を渡すので、夜通し馬を走らせて、リエンヌ嬢に好きだと告白し、リエンヌ嬢の産む子の父になれ!このチャンスを逃すなよ!!」
ドン!と俺の背中を叩いて、俺を正気に戻した爺。
爺は五月蠅く、頑固で怖いが、俺は好きだ。俺の初恋の後押しを、彼女が婚約したのだと聞いて落ち込んでも、彼女を諦められなかった俺の初恋の成就を願ってくれている!こんな俺にとって、こんな良い爺は、他にはいないんだ!
そこからの俺は早かった。
爺の書いた推薦状と、婆が出がけに手渡してくれた、俺の嫁に渡す筈だった指輪だと言って、赤いリボンを付けた小箱を俺に託してくれた。
俺は正装一式と当面の生活費になる金品だけを荷物に入れ、剣と弓を背負い、うちで一番早く走ると言われている愛馬を夜通し走らせた。
向かうは、彼女の居る領地だ!!
リエンヌ嬢の祖父殿には、夜通し駆けてきたそのままの格好で、爺と婆に渡されたものを携えて、俺を出迎えた執事に、ご当主とすぐに会いたいのだと伝えたら、すぐにお会い出来た。
髪はぼさぼさ、服もドロドロ、でも、何よりも己が身一つでやって来たのだと俺自身がご当主にアピールしたかった。それだけ俺は一生懸命で、真剣なのだと。
リエンヌ嬢の祖父のバレンスキーご当主殿は、俺の持ってきた爺の渡してくれた推薦状と、婆の渡してくれた小箱を開けて、中に入っていた指輪を見て、俺を見て頷いてくれた。
「夜通し駆けてきた心意気と、うちの孫娘が初恋で、婚約も火遊びも全くしていないと書いてあった。そんな所が私は気に入った。今夜にでもリエンヌとの初夜を済ませるといい。
して、その荷物の中は何が入っているのかね?」
「初夜をする前に、プロポーズをするのに着るつもりの正装とその一式。あとは生活するのに必要な金品だけです。」
「ほほう。孫娘を大事にしてくれるのだな。風呂に入ってリエンヌと食事とお茶を一緒にしてから、今夜の為に仮眠をとるといい。すぐに風呂の用意をさせよう。」
バレンスキーご当主が俺の身なりを整える為にと、色々と手配してくれたのだ。
その間、やったぜ!!!俺は認められたのだ!!と、内心では歓喜していたが、貴族らしく振舞い、態度に出さないようにと耐えた。
俺がリエンヌ嬢にプロポーズしたのは、一緒に食事を済ませ、お茶を飲んでから、庭を散策している時だった。
一緒の食事中に、俺から自分の事を話したのだ。
俺が少年だった頃にリエンヌ嬢と滞在して遊んだ侯爵家の当主の孫で、次男だったのだと話すと、俺の事を思い出してくれたのだった。
だからか、彼女とのお茶も楽しく飲めたし、散策も彼女も肩の力を抜いて楽しんでいるのが分かったのだから。
俺がリエンヌ嬢の前に跪いて、彼女の手を取って告げた。
「貴女は俺の初恋相手です。元気に飛び回る姿を好きになりました。婚約相手から何度も攫おうと考えた事もありました。それでも、貴女一筋で、女性とキスをした事もありません。
貴女が好きです。大好きです。
昨夜、貴女の事情を聞いて、誰にも渡したくないのだと気付き、すぐに夜通し馬で駆けて来ました。
今朝、ここに着いてからすぐに、ご当主殿との面談も済ませ、認められました。
俺の人生を貴女の隣で過ごす権利を俺に与えるのだと、子をなす様な行為を俺の為だけに許してくれるのだと、その貴女の口からの了承が欲しい。
ラシェッタ・ランドルは、リエンヌ・ナバーヌをこれから生涯をかけて愛します。俺の命尽きるまで、俺のただ唯一になって欲しい。」
顔から火が出そうに熱い。多分、いや、確実に真っ赤な顔になっているだろう、俺。でも、逃げない!彼女からの了承を待つだけだ…!耐えろ!俺!
彼女が徐々に俺の言った言葉を理解して、真っ赤になった。かわいいぞ!!
「…は、い、許し、ま、す。私も、貴方が、初恋、で、し、た…だか、ら、嬉し、い、で、す。」
たどたどしく彼女の告げた言葉に歓喜した俺は「やったぜー!!ひゃっはーー!!」と叫んでいた。
あ!と思って、婆の託してくれた指輪を彼女の左手の薬指にはめた。
何故か、指輪のサイズがピッタリだった。婆、恐るべし!!どこからそんな情報を仕入れたんだろうか?相変わらず、おっそろしいわ!とも思った。
だが、指輪を俺に、はめられた左手を見て、嬉しそうにしている彼女を見れたので、それ以上は考えない事にした。何かが飛び出て来そうな気がしたからだ。
彼女には彼女の支度があるのだろうし、俺も仮眠をとってから、晩餐をバレンスキーご当主とリエンヌと(彼女からの名前呼びの許可も貰えたので!!)一緒に俺も食べてから、玄関先に正装で来て欲しいとこの屋敷の従業員一同から頼まれ、呼ばれていたのだった。
玄関先の広いホールには司教らしき男と参列者であろうこの屋敷の従業員達がいた。
俺が、玄関先のホールに付くと、司教らしき男の前に立たされた。
そこへ、リエンヌが白いドレスに白いベールを被って、ご当主に手を引かれ、正装姿の俺の隣へやって来たのだ。
執事が呼んでいたのだろう司教が、俺とリエンヌの結婚宣誓書を読み上げ、お互いに誓いの言葉を述べ、生涯共に過ごすと言う契約を交わしたのだった。
そこで、婿殿とはキスもしていないのですけれど。とリエンヌが俺にだけにしか聞こえないような小さい声で告げたので、俺は彼女のベールを上げ、誓いのキスを見守る人々の居るこの場で交わした。
うん、初キッスが誓いのキスって言うのも、いいもんだ…!!
貴族の招待客もいないような、この小さな結婚式の真似事は、俺とリエンヌの為に、この屋敷で勤めている皆が用意したのだと執事が嬉しそうに告げてきた。
皆、笑顔でいる。俺も自然に幸せだから笑顔になる。
招待客はこの屋敷に勤める者だけだったが、リエンヌが心からの笑顔になって喜んでいたので、俺は貴族らしくなくてもいいのだと思ったのだから。
俺とリエンヌらしいから、いいじゃんか。俺達の出会いも、領地の悪ガキどもと一緒だったんだし、な。
そんな俺に執事見習いだと名乗った男が近付いてきた。
「おやおや、オレっちが誰だか分かんなかったのかよ。ひでえな。相変わらず、お嬢様しか目に入んないような目をしてっか。」と言ってきたので、顔をまじまじと見たら、悪ガキの大将をしていた子供と、その男が重なった。
「まさか?あの悪ガキを率いていたガキ大将か?」と訊くと、「そうだぜ。分かってくれてよかったぜ。これからお嬢様を幸せにしてくれんだろ?」
「ああ。俺が幸せにするさ。」
「お前なら、大丈夫そうで良かったよ。オレっちじゃ、身分もなくて、お嬢様が不幸になりそうになっても何も出来なかったんだ。
新婚さんが仕事につく時に、オレっちや昔の仲間が手伝うから、声をかけてくれよな。お幸せに。」
悪ガキ大将が俺にそう言って下がっていった。
この領地での俺の味方が出来たようで、俺はホンワカ温かい気持ちになれた。
もちろん、隣にいるリエンヌもこれからは俺と一緒だけどな。
その夜、俺は人生が素晴らしいのだと思える出来事を経験して過ごし、1週間ほど、仕事もせずにダラケた退廃的な生活をして、リエンヌとの幸せな新婚気分を味わったのだった。
人生って、バラ色だったんだな!と俺には思えたのだ。どこを見てもキラキラと輝いて見える。特に、俺のリエンヌを見ると、光が溢れてくるのだから……!!
ええと、爺と婆には、リエンヌと生涯を共に過ごす契約を交わし、初恋同士だったのだと、後押しをしてくれて感謝しているとの手紙をまずは送っておいた。
婆がそのうち、何か欲しいものをリクエストしてくるまではそのままでいいだろうと、俺としては思っていたんだが、リエンヌが両想いになれたのは、後押しをしてくれたからと可愛い事を言うので、俺は仕方なく、リエンヌは心からの感謝の気持ちを2人に送る事にした。
この領地での特産品のチーズと、この領地だけにしかない瓶詰めに加工した野菜と、傷み難くする為に調味料に漬け込んである生肉を送ったのだった。
婆からリエンヌと俺宛に、連名でのお礼状が届いた。
婆曰く、とてもおいしく食べれました。孫が出来たら、お祝いを送るので、楽しみにしています。今度は、家の方から、正式に注文するので、宜しくね。と書いてあった。
ひ孫の催促をする文面には、リエンヌが赤くなっていたが、俺はその後、仕事に私生活にと色々と張り切ってしまった。
半年後、俺からひ孫が出来たと爺と婆宛に手紙を送ったので、俺達の元へ2人からのお祝いの品物が一番に届いたのだった。
次話は、明日、日曜の予定です。宜しくお願いします。




