15・冒険者ごっこ
「わたくし達って……結構、強くないですか?」
「は?」
突拍子もないことを言われ、つい間の抜けたような声が漏れてしまう。
「あれから聞いてみたんですよ。いくらスライムでも三十体も集まれば脅威だ、って」
「ちょ、ちょっとフローラ……」
「低ランク冒険者なら、スライムごときで油断して死んでしまうかも、って」
「フローラ、私の話も聞い……」
「でもわたくし達、ちょっと苦戦はしたけど誰も怪我してないじゃないですか? それなのに倒すって……」
「レイラさんが頑張ってくれたんだよ」
「でもわたくし、見ていたですの。レイラトレーナー、なにもしてなかったことを」
この話の中に一つだけ正解がある。
無論、レイラさんがなーんにもしてなかったことだ。
「フローラ……」
でも!
フローラもなんもしてないじゃん!
なに、勘違いしているの!
あの時、私がレイラさんの視界を塞いで、スライム片付けただけじゃん。
「ダイエットコースの生徒さん達と話し合ってみたですの。もっと力を試してみたい、って」
なに変なものに目覚めちゃっているの!
向上心があることは良いことだけど、明後日の方を向きすぎている。
「……だから!」
バン!
フローラが思い切りテーブルを叩くものだから、店内の注目を集めてしまう。
「ダイエットコースの人達だけでダンジョンに行ってみませんか?」
「絶対に反対!」
即答する。
当たり前だ。
前はなんだかんだいって、レイラさんがいたしさすがに危なくなったら助けてくれるだろう。
でもダイエットコースの人達だけ、ってなると話が違ってくる。
ゴブリンどころか、スライムを倒すことも叶わないだろう。
そしてオークに出会って「くっ、殺せ!」という事態になることが安易に想像出来る。
「大丈夫ですよ。回復アイテムのポーション、一杯持っていきますし」
「ダンジョンを舐めすぎだよ!」
……いや、私も行けば危険なんてないけどね。
今までダンジョンで苦労したことないし。
いくら足手まとい……失礼。冒険の素人さんと一緒に行っても、守りきれる自信もある。
でもそういう問題じゃない!
ふとした時に本気を出してしまって、元勇者だということがバレちゃうかもしれないじゃん!
「とにかく! フローラ。私は絶対に反対だよ。危険すぎるもん!」
「エクレアはダイエットコースの中でも一番幼いですからね。モンスターを怖がる気持ちも分かりますが……」
違うよ。
私は普通の女の子として生きたいだけ!
「でも任せてください。わたくしが命に賭けてもエクレアを守りますから」
ポン、と胸を叩くフローラ。
命なんか賭けなくてもいい。っていうか守るの私なんだからね?
「どうしても怖かったらエクレアにお留守番してもらうことになりますが……」
「る、留守番は嫌だよ! 仲間外れは嫌だもん!」
だからってダイエットコースの人達だけで行かせるのも危険すぎる。
「いくらエクレアに反対されようとも! わたくし達はダンジョンに行きますからね!」
プイッ、と顔を背けてしまうフローラ。
うーん、どうしたものか。
このままじゃ、私に隠れてダンジョンに行ってしまうかもしれない。
それだけはダメだ。それでフローラが死んじゃったりなんかしたら、自分が死ぬより辛い気持ちになるだろう。
「仕方ないね……」
私の一言に目を輝かせるフローラ。
「それじゃあ!」
「私も行くよ。でもダンジョン内では私の傍を離れないこと! それを守れないと行かないからね」
「エクレアと一緒に行けて嬉しいです。大丈夫です。片時もエクレアから離れずにお守りいたしますから」
フローラは興奮しているのか、鼻息が荒くなっている。
……まあ良いだろう。
魔王がいなくなってから、モンスターは弱体化を始めている。
私も行くんだし危ない目には遭わないだろう。
……っていうか絶対に遭わせない!
「では休憩終わりにして、食後のデザートを食べましょうか」
「うんうん!」
先ほどのケーキの味を思い出して、心配事なんて全部吹っ飛んじゃう。
もちろん、食後のデザートもケーキだ。
■
「おつかれさまでした!」
翌日。
ジムでの運動が終わり、トレーナーの人に元気よく挨拶をする。
「うん。また明日ね〜」
朗らかな笑顔で手を振るトレーナー。
本来ならこのまま家に帰ったり、フローラ達とお茶会をするところなんだけど……。
「さあ……行きますわよ」
フローラの小声。
そう――フローラの言った通り、ダイエットコースの人達とダンジョンに足を運ぶのである。
フローラの意見に賛同したのは十人程度。
これくらいだったら、みんなに目を配らせることが可能だし心配しなくてもいいだろう。
「バレないように行かなくちゃね」
何気ない顔をして。
少し忍び足で冒険者ジムを後にしようとした時であった。
「待ちなさあい」
出口のところで後ろからレイラさんに声をかけられる。
「な、なんでしょうか?」
もしかして気付かれたっ?
レイラさんはゆっくりとした足取りで近付いてきて、
「前回のイジ……じゃなくてトレーニング。いつの間にかスライムが全滅していたわあ」
「あ、あれは驚きましたね!」
「率直に言うけど、アタシはあなたが倒したと思っているのよお。それしか考えられないし」
「そんなわけないでしょ! 私みたいな子どもがモンスターを倒せるわけないじゃないですか!」
「そう……そこで考えたわ」
ビシッ、とレイラさんは指を突きつけ、
「あなた、年齢詐称しているわねえ?」
「へ?」
予想外なことを言われて、一瞬思考を止めてしまう。
「ふふふ。お見通しよお。女はいつでも若いままでいたからねえ。さあ、言いなさい――本当の年齢を!」
……レイラさん。
多分、強い人なんだろうけど少し頭は残念らしい。
ま、いっか。変な方向に勘違いしてくれるならそれで良いし。
「わ、私! 帰らなくちゃいけないので!」
「ちょっと待ちなさあい」
後ろからレイラさんの声が聞こえていたが、駆け足でジムを後にした。
明日も投稿いたします!




