↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の執事  作者: 3608
執事修行的な
PR
5/68

お嬢様の境遇的な(イラストあり)

前半は世界観オンリーです。見ないと後々分からなくなるのでお願いします。

 精霊の世界『エスピリッツ』。

 この世界がそう呼ばれるようになったのはいつからだろうか。年代に関しては諸説あるが、名前の由来に関しては殆どの学者の意見が一致していた。

 エスピリッツ――精霊。

 それはこの世界において人間の良き隣人であり、相棒であり、契約相手であり、敬う対象であり、そして……敵でもある存在の名前だった。

 太古の昔から精霊はこの世界に確かにるもの。であるにも関わらず人間から干渉することが絶対に不可能とされてきた存在だった。

 何故そんな大昔の時代から精霊の存在が確かなものであるか断言できたか。そして、人間から・・という表現が使われたか。それはあちら側――精霊の側から干渉があったからに他ならない。

 それは何もない空間から突然現れて無差別に人を襲う存在だった。前触れなく現れて人に仇なすその存在は人類にとってまさに脅威だった。当時は精霊とはそんな脅威に対する忌み名としての意味で使われていた。

 勿論人も黙って襲われる訳でもない。時には剣を、槍を、弓を携えて精霊に立ち向かった。

 しかし、個体差はあれど火を吹き風を起こし水を打ち出し地を砕き光や闇を操る精霊に対して少し武装した程度の人間が敵うわけもなかった。

 着々と人間の被害が増えていく絶望的な状況でで人間は対抗策を得ようと必死に精霊のことを調べ上げた。

 そんな中でとある学者がある一つの仮説を立てた。

 いわく、『この世と別の場所に存在する精霊が住まう世界が在り、そこから何かの原因で精霊はやって来ているのではないかと』。

 その仮説を一笑に付す者はいなかったという。

 唯でさえ精霊という不可思議な存在が相手なのだ、それの存在理由に整合性を得られそうな仮説ならどんな突拍子もない仮説でも受け入れられるというものだろう。

 この仮説を提示した学者は精霊の仕組みを解明することなくこの世を去ったが、後に別の学者が場所によって出現しやすい精霊の種類に偏りがある理由に説明をつけるため、『別の世界というよりも重なるように存在する位相がずれた別空間のようなものではないか』という認識に改められた上で研究を進めた。

 ある時にはいくつもの戦士の命を犠牲にして精霊を捕獲し、ある時はいくつもの護衛の命を犠牲にして精霊が出現しやすい場所へ調査におもむき、その中でその学者は精霊に対して特別な反応を見せる人間が一部存在することを発見した。

 学者は彼彼女達から精霊が出現する時と消えていく時に感じる感覚を口頭で聞き取った。感覚的な事だ、人によって言い方がまちまちで内容にも一貫性に欠けていたが、それでもその学者はその全てを記録に残した。

 時代が進み、学者の残した記録や研究を別の学者が受け継ぎ、世界を巡る力場りきばのようなもの存在が解明され、それが精霊の出現に関わっているという事実も次々と解明されていった。

 長い長い時代の流れの中、数え切れない命が散り、人類の数が全盛期の半分を切ろうとした時代、人類に転機が訪れる。

 ある学者が特別な力を宿した物質を材料にした陣によって特殊な力場を作り、遂に人為的に精霊を呼び出すことに成功した。

 その精霊は人を襲うことはなく、精霊が現れた時の力場の変化を感じるためにその場にいた人間の一人(精霊が現れたり消えたりする時に感じていたのはその時の力場の揺らぎのようなものだった)と契約を結び、精霊の力の一部を借り受けた契約者と共に人間に仇なす精霊を撃退した。

 この時から、呼び出した精霊と仇なす精霊の区別をつけるために、仇なす精霊を『魔に堕ちた精霊――魔霊』と呼ぶようになった。

 それが人間の反撃の始まりだった。

 人間は精霊を次々と呼び出し、それまでの恨みを全てぶつけるかのような勢いで魔霊を駆逐していった。

 ただし、問題が無いわけでもなかった。

 特殊な力場を作って精霊を呼び出すまでは難しくない。ただ、呼び出されたその精霊の格は契約する人間個人個人で全く違っていたことことに問題が存在した。

 精霊の召喚は何度も行われたが、その中で魔霊との戦いが可能なほどに力のある精霊と契約出来た者は全体の数%程度だったという。

 精霊の力を借り受け精霊と共に人々を襲う魔霊を倒すそれらの人間は英雄と遜色ない扱いを受け、称賛と畏怖を込めて『精霊師』と呼ばれるようになった。

 精霊師の活躍によって人類は遂に魔霊を人の生活圏から排除する事に成功した。(ただし、生活圏から排除しただけであって、人が近寄らない秘境では強力な魔霊が跋扈し、時折人里に現れて被害を与えることもあった)。

 しかし、人類滅亡とまで言われていた世界の危機の後の歴史は、平和の歴史ではなく……戦いの歴史だった。

 力を持った精霊師を中心として数多あまたの建国が宣言されるが、ある程度の国力を持てば国の目が戦争による略奪に向かうことは自明の理。

 そして当たり前のように戦争での主戦力は……精霊師だった。

 力のある精霊と契約を結んだ精霊師ならば文字通り一騎当千の実力をもって敵を圧倒することだってできた。並の精霊師でも一人で兵士十人分以上の働きをすることができる。

 そんな情勢で精霊師が貴族として優遇されていったのは当たり前の成り行きだっただろう。

 時代が変わって国同士がむやみに争うことを止めてもそれは変わらなかった。貴族の子供が一定の歳になると精霊にとって相性のいい場所へ赴いて(魔霊の出現しやすい場所と精霊と相性のいい場所は別物)そこで召喚の義を行うのが現在まで続く慣例になっていった。

 

「……というのが今の世界の仕組み。理解出来た?」

「…………とりあえず世界と精霊が切っても切れない関係であるところとか、貴族は基本的に精霊と契約するとかそのへんのことなら……」


 いやもう正直これが限界です。一気に世界の成り立ちから聞いて脳がオーバーヒートを起こしそうだ。

 

「……ん? じゃあユリアさんって貴族の血縁か何かなんですか?」

「いえ、わたくしの親類縁者に貴族の血を持つ者はいません。貴族でなくとも精霊と契約できる人間はいるのです。ただし、戦えるほどに力を持った精霊と契約できる確率はとても低いです。この子だって料理に使う火を吹く程度しか力はありませんしね」


 そう言ってユリアさんは食べ終わって床で寝そべっていたサラマンダーを抱き上げて目の前に持ってくる。つぶらな瞳をこちらに向けてくるサラマンダーからは確かに歴史の精霊みたいに戦うことが出来そうには到底見えない。むしろ愛玩動物としての可愛さの方がまさっている気がする。こう……無意識になでたくなるような……ちょっとなでてみようかな?

 そ~っと、そ~っと。

 ……ガブッ。


「いったぁああああああ~~~! 噛んだ! 噛んだ!」


 振り払おうと腕を振り回すも、サラマンダーはガッチリと僕の手をくわえ込んでいて離れない。スッポンかお前は!


「サラマンダー、そろそろ離れてあげなさい」

「ギャっ」


 ユリアさんの指示でやっと離れてくれたサラマンダー……このトカゲめ! というかユリアさんもすぐに助けようとしなかったあたり、絶対に楽しんでたな、口元笑ってるし。よく見たらお嬢様まで……。


「すみません、この子があまりにも嬉しそうで止めさせるのが忍びなく。この子も加減はわきまえているはずなので傷は問題ないでしょう」

「人に噛み付いて嬉しそうにする相棒の気質に問題はないんですかユリアさん」

「ありません」

「断言された!?」

「ちゃんとあなた以外には噛み付かないように言い聞かせてあります」

「僕にも噛み付かないように言い聞かせてくれませんかねぇ!?」


 泣くよ、マジで泣くよ! 友人たちも大概酷い性格だったけど、この人は輪をかけて酷い!

 半ば本気で涙めになる僕と瞳に嗜虐心を覗かせたユリアさん、その間に入り込んできたのは腹の底から出てきているように大きなお嬢様の笑い声だった。


「お嬢様~~~~……」

「あはは、ごめんごめん。こんなに面白いのは久しぶりだったからつい……」

「久しぶり?」


 僕の言ったその一言でシンと場の空気が静まり返ってしまった。まるでさっきまでの騒がしい空気が嘘のように。


「そういえば歴史を話したところで止まってたね。それじゃあさっきのユーリの最初の質問の答えも含めて話すね。あ、でもここからは短い話だからすぐ済むよ」

「お嬢様、そのことは……」

「わたしは全然気にしてないよユリア。それに、雇い主であるわたしはユーリに実状を話す義務がある」

「…………お嬢様の御心のままに」


 いよいよ話の核心に入るみたいだ。一言も聞き逃さないよう息を飲んで居住まいを正す。


「あはは、そんなに真面目に聞かれるような話でもないんだけどな~。こほん、貴族は基本的に強さを別にすれば例外なく精霊と契約を結ぶ、それは戦力という意味の他にもその貴族の箔という意味あいもあるの。だから強い精霊と契約できた貴族は戦力的には勿論、社交界での発言力その他諸々という意味でも得難いものを得ることになる」

「なるほど、力っていうのは権力のわかりやすい形の一つですもんね」

「お、ユーリって知識はともかく頭はいいんだね、その通りだよ。さてここで問題です。実は精霊を召喚する陣を描く為の素材ってどれもこれもすごく高いんだけど、足を動かせなくて戦力的には論外。しかもそんな女に貴族の師弟が目を向けるわけもないから政治的価値も皆無、そんな女に家が高額な素材を使ってまで精霊の召喚をやらせるでしょうか」

「――――!?」

   

 例え話のような口調だったけれどそれが誰を指しているのは火を見るより明らかだ。

 隣からギリッという音が聞こえて首を動かすと、あのクールな印象だったユリアさんが拳から血が滲み出そうな程に強く握り締めながら歯を軋ませて怒りをあらわにしていた。。


「……それだけではありません。あの家はお嬢様を邪魔者とばかりこの屋敷に追いやり、僅かな援助のみでそれ以外は完全に放置するだけの始末……!」

「そんなの……」

 

 そんなの……飼い殺しそのものじゃないか……。

 これが……身内にやることか。

 足が動かない、ただそれだけでこの明るくて優しい少女は血を分けた存在からも見放されるのか……。


「これが……貴族のやり方か……!」

 

 知らず知らずの内に僕もユリアさんに負けないくらいの強さで拳を握っていた。

 ……理不尽だ。

 お嬢様の声と瞳には一切の邪気が見当たらない。ただひたすらに明るくて相手に安らぎを与えてくれる、行き過ぎた位に優しい人なんだ。

 そんな人がなんでこんな目に遭わないといけないんだ……!

 灼熱のように沸き立つ感情が胸の内で嵐のように渦巻く。

 しかし唐突に頭から感じた人肌の感触がそれを収めていった。

 

「二人共落ち着いて。ね、いい子だから」


 二人揃ってお嬢様に頭を撫でられる。この激情は本来お嬢様が感じるものの筈なのに……どうしてお嬢様はこんなに笑っていられるんだろう。こんな……今を楽しんで、悲しみなんて彼方に置き去ってきたような、天真爛漫な笑みを……。


「わたしは今以外を知らないから。わたしの知る今がここにあるのならわたしはそれだけで幸せだから」


挿絵(By みてみん)


 そうやってお嬢様は僕とユリアさんにこれまでの中でも最上の満面の笑顔を僕たちに向けてくれた。そして茶目っ気を含んだ口調で、


「それに、一人じゃないしね。ユリア」


 ユリアさんは椅子から一度立ち上がり、騎士のように膝をついて応えた。


「勿論でございます」

「あはは……そこまでかしこまらなくても。……それで、わたしの実状を知ったユーリはわたしに仕えるの辞めたくなった? 見放された主に仕えてもつまらない人生で終わるのは目に見えてるしね。しかも援助は最低限だから賃金も少ない。実際にここに働きに来る人はユリア以外にはいないし」


 答えは……迷うまでもなかった。


「お嬢様、僕はここ以外に行く場所が無いんですよ。それに、さっきも言ったじゃないですか」


 立ち上がって不格好ながらもユリアさんを真似て膝をつく。

 そして僕は二度目・・・の宣誓を口にした。


「たとえどんな状況であっても、力の及ぶ限り、僕はあなたに付いて行きます、お嬢様」


 

重い話は一旦ここまでです。この先はシリアスと笑いが混ざったりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。