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精霊の執事  作者: 3608
祭りへ連れ出し大作戦的な
25/68

RO・RI! 的な

 二体の竜が粒子になって消えていく光景は中々に壮観だ。

 なんとなくその粒子が全て消えるまでぼんやりとしていると、頭に人肌の感触が。


「良い子良い子♪」

「アスカさん、僕達は同類であってこんな風に子供扱いされるような間柄じゃないと思うんですけど」

「出来の悪い子は子供扱いされても仕方ないわよ」


 確かにあの圧倒的な力を持っていたアスカさんから見ればそう言われても仕方無いだろう。

 言い返せないので口を尖らせただけの抗議をしてみるも、クスクスと笑われるだけで効果は無かった。

 ひとしきりからかわれると、アスカさんは「さてと……」と呟きながら、空気を変えて僕から離れていった。

 それを待っていたように、お嬢様、ユリアさん、シューラ様、クラウさんが歩み寄ってくる。

 

「ユーリ、お疲れ様っ」


 簡潔ながらも、晴れやかな笑顔と共に発せられた労いの言葉は、直前までの戦いの疲れを吹き飛ばすようだった。


「あのような力があるのなら早くから使ってください。だからユーリさんは駄目なのです。……助かったのは事実ですが(ボソッ)」


 あいも変わらず素直な言葉を投げかけてくれないユリアさんも、これはこれはいつも通りな感じがして心が休まる。


「「…………」」


 問題は、僕が王霊だという事を知ったクラウさんとシューラ様だった。

 ものの見事に気まずい。

 

「あー……その、クラウさん……」

「は、なんでありましょうか、王霊殿」

「…………」


 無理もないか、存在を確認されている王霊の中で、唯一人間と関わっているのが聖国のトップの契約精霊なんだから。彼の中だと王霊というのは正に遥か雲の上の存在そのものなんだろう。

 この人とは何だかんだで会って日は浅いし、そこまで深く仲良くなったわけじゃないけれど、そのよそよそしい言葉遣いに少し気分が沈んでしまう。

 シューラ様はどうなんだろうか。

 視線を向けてみると、彼女も態度がおかしくなっていた。

 無言で俯き、肩を震わせている。

 王霊っていうのがこんなにも普通の人から遠い存在だなんて思わなかった。お嬢様とユリアさんの反応が特別だったんだ。

 落胆を深くして、それでもまだ何かを言おうと僕が口を開こうとすると、


「ユーリちゃんすごーーーーい!」

「「は……?」」


 突然顔を勢いよく上げ、それを皮切りにして称賛の雨嵐。そこには僕が王霊だという遠慮は欠片も含まれていない、シューラ様は終始僕をユーリという個人として扱った。

 それに影響を受けたわけでもないだろうけれど、クラウさんはバツが悪そうに頭をかいて、


「まあその……ここは普通にお互いお疲れ様と言っておこうか」

「ははっ、そうですね」


 王霊についてよく知らなかっただけなのか、それとも知った上で気にしないでいてくれたのか判断はつかないけれど、シューラ様には感謝するべきかな。

 さて、今すぐにやらないといけないことはこれで粗方済んだだろうか。

 そして一同の視線は自然と――アスカさんに集まった。

 先程の危機は彼女のおかげで助かったようなものだが、その目的は未だに不明なままだ。彼女が王霊なだけに、感謝と一緒に不安や警戒まで抱いてしまう。

 件の彼女は、僕に向けていた柔和な笑みを完全に消して、刃のように冷たい瞳で――涙雪のアミュレットを見据えていた。

 その触れれば切れるような雰囲気に、皆は声を掛けようとしない。

 しかし、言うべきことをまだ言っていないのも事実、代表するように僕が声を発した。


「アスカさん、僕達の危ないところを助けてもらってありがとうございました」

「わたしはあなたに少し手を貸しただけ。他の結果は全てそれに付いてきたついでの結果よ。それに、あなたに手を貸したのだって元はといえばわたしの目的のついででしかなかったわ」

「目的?」

「そ……間に合わなかったけれどね。けれど、これだけは果たしておかないと」


 アスカさんが手をかざす仕草をすると、急に虚空に五本の短剣が現れる。その切先は全て秘宝に向いていた。

 

「な、何を――」


 言い終わるより早く、短剣は秘宝へ殺到し、かん高い音を立てて秘宝は呆気なく砕け散った。

 絶句する僕達の前で、陣を構成していた氷が消えていく。

 が、陣に呼び出されたであろう雪に包まれた何かは、消えずにその威容を湖に浮かべたままでいた。


「ユーリ、ちょっとあの子を迎えに行って」

「え!? いやそうじゃななくて! アスカさん今何を――」

「お願い」


 詳しい事を何も語らないアスカさんだが、そのお願いには心からの懇願が含まれているように感じた。助けられた恩もあるので、釈然としないながらも彼女の頼みを聞くことにしようと思う。


「でもあれ、湖の中心に浮いてるんですけど」

「あなたは水と地を司る王霊なのよ? あなたが望めば水の上を歩くことくらい造作でもないわ」

「え、マジですか?」


 アスカさんに促されるまま、恐る恐ると片足を水面に近づけてみる。

 履いている靴が水面に触れ、波紋が立つ。そして靴はそのまま静止した。力を入れても沈む様子は無い。

 陸に残っていた足を一歩踏み出し、そしてまた一歩と水面を踏みしめていく。


「お、おお……」

 

 水の上を歩くという初めての体験に思わず声が漏れた。日本の文化を知る人間なら一度は夢見た芸当であろう水上歩行はかなりの感動をもたらしてくれた。

 

「おお~~~~!」


 そのままパチャパチャと音を立てながら湖の中心へと向かう。子供のようなはしゃぎようはこの際目をつぶってほしい。

 さて、しばらくは素直に何も考えずに感動に浸ってたわけだけれど、目標を前にするにつれて段々と冷静になっていく。

 湖の中心に浮く雪に守られた何かは、竜との戦いの最中に何か変化が起こるでもなく、原因たる秘宝が失われてさえ消えるようなことはなかった。

 傍まで近づいてみると、遠目からだと卵の殻に見えた雪が細かく見える。

 アスカさんはあの子を迎えに行けと言っていたけれど、これって腕を突っ込んでも大丈夫なものなんだろうか。

 しかし迷っていても事態は進展しない。

 意を決して腕を雪の中に差し込む!

 ……結果的に危険な展開になるということはなかった。

 感想を言えばヒンヤリするとしか言い様がない。丁度冷蔵庫に手を入れているような感じだ。

 二の腕あたりまで手を進めると、指先が何かに触れた。

 ……これがあの涙雪のアミュレットに呼び出された本命の精霊だろうか。

 感触を確かめるに、そこまで大きくない――いや、むしろ小さいと言った方がいいかもしれない。

 伸ばした腕を下へ持って行き、支えるように手のひらを上に向ける。

 その瞬間、目の前で卵の殻のように渦巻いていた雪が霧散した、まるでその役目を終えたように。

 そして僕の手にかかる重みの正体を確認した瞬間、絶句した。

 僕と同じ長くて真っ白な髪。僕以上に病的で真っ白なスベスベの肌。

 僕の両手に支えられているのは、雪のような印象を受けるまだ幼い(十歳くらい)少女の肢体だった。

 胎児のように身を丸め、目はあどけなく閉じられている。

 そして、その身には何も纏っていなかった。

 さて、考察すべき事柄が幾つも出てきたのでまずは優先順位を決めるべきだろう。

 僕の頭の中で今までの現象と現時点の状態が高速で認識されていき、今一番に優先すべき事が弾き出された。

 ――僕の手の上で、幼女が、全裸。

 クルリとUターン。

 そして全力ダッシュ!


「のわあぁああああああああああああああどうしましょうこの子!」

「ぶふっ!」


 叫び声を上げながら畔まで到着し、助けを求めた。

 あとクラウさん、僕の手の中の女の子を目にして狼狽しているのは女子が裸だからであって幼女が裸だからというわけではないですよね? 

 僕? 僕は勿論前者に決まっている。僕の守備範囲の最低は中学生からだ。決して、決してっ、小学校中学年程度の女の子に欲情したりはしない!


「「「…………」」」


 が、それはそれとして女の子の全裸を目にしたのは事実という判定らしく、お嬢様とユリアさんとシューラ様が僕とクラウさんを見る目は絶対零度のように冷たい。

 ユリアさんがポツリと、


「幼児愛趣味をお持ちでしたか、この変態様方」

「「断じて違う!」」


 どうやら予想に反して僕達が幼い少女に欲情していると思われていたようだ。ロリコンという言葉は無さそうでも、概念そのものは存在しているらしい。

 そしてこの場にいる女性陣の中でアスカさんの反応は他の三人と違っていた。


「あなた……男の子だったの?」

「そこからかーーーーーーーー!」


 口を手で覆い、目を見開いて放たれた唖然とした声に、僕は腹の底から絶叫した。もう嫌だメイド服……。まさか邂逅から今の今まで女性として違和感がゼロとは思わなかった……。帰りに絶対に男物の服を調達しよう、執事服という贅沢は言わない、最悪自分で作る!

 

「ん…………」


 おっと、どうやら今の大声のせいで女の子が目を覚ましてしまったみたいだ。

 現在の自分の状態が分かっていないようで、定まらない焦点のまま辺りをキョロキョロと見渡している。 


「って起きた時に裸っていうのはマズイでしょう! 何か着るものっ!」

「うえぇっ!? そ、そんな急に言われても――」「わたくし達が着ている服を着せる訳にはいきませんし……」


 言われてお嬢様は慌て、ユリアさんは困ったように自分のメイド服を掴んでいる。


「あ~、あれな~に~?」


 そんな時に空気を読まない発言をしたのは、すっかりいつもの通り独特なペースを発揮するシューラ様だった。

 流石に付き合っている場合ではないのだけれど、確認の意味で視線だけはシューラ様が指す方向に向ける。

 竜と戦っている時は気が回らなかったけれど、周囲には逃げることを優先した市民が置いていった荷物がちょいちょいと散らかっている。

 シューラ様が指していたのはその一つ、結構まとまっているから商人か誰かの落とし物かもしれない。そしてその荷物の中に風に吹かれてユラユラと揺れる物体が一つ。


「確保ぉおおおおおおおおお!」

「待て、国に属する者の前で堂々と他人の物を盗るのは流石に承服しかねるぞ」

「じゃあクラウさん、この子にこのまま裸でいろと? その一糸纏わぬ肢体を異性の目に触れさせても構わないと?」

「うぐっ……」

「ユーリさん、これでよろしいですか?」

「はい、大丈夫です。お嬢様、ちょっとこの子お願いします」

「いいよ、任せて」

 

 女の子をお嬢様に預け、空いた手に桜花を呼び出す。

 そのまま微風を起こすように扇を振れば、桜の花びらが二枚、ユリアさんから受け取った布へと飛んでいく。

 桜が布を滑り落ちるように切断していった後には、綺麗な切り口の穴が二つ空いていた。

 お嬢様に女の子を立たせてもらい、出来る限り身体を見ないようにして布に空いた穴へ腕を通させる。

そして布の端を胸元で交差させ、それをここ数日僕の髪を縛るのに使われていたリボンを帯にして崩れないように巻いてから後ろで結ぶ。

 かなり雑だけれど、留め具や紐の類を一切使わないそのスタイルはかなり和装に近いように見える。

 恐らく見慣れていないであろうその服(と言っていいか微妙な有様だけれど)の形態に、異世界組の面々は珍しくも感心するように頷いていた。

 その視線に晒されている少女は意外にも怯えるような様子は無く、ボンヤリとしたまま声を発した。


「ここ……どこ……?」

「ここはウンディーネの清涼湖だよ。僕はユーリ、君は?」

「…………イル」

「イル……か。うん、いい名前だね」

「…………えへ」 


 僕が名前を褒めると、乏しいながらも女の子は笑みを浮かべた。

 これ以上は今すぐに詳しい事は聞くまい。そもそもそんな事を聞く意味があるのかも怪しいところだ。

 何故ならこの子の正体は聞くまでもなく明らかだからだ。

 それを考慮して問題になるのは、この子をどうするかということだ。

 この子が王霊だということはほぼ間違いない。

 しかしその仕草や言動をかんがみるに、この子の精神は外見相応であること見るべきだ。

 そしてそんな外見内面共に小さな子供であるこの子を、このまま何もせずに放り出すという選択肢はこの場の全員が真っ先に排除していることだろう。

 が、この子を保護するというのも簡単な話ではない。

 何度も言うが、例え小さな子供でも、この子はれっきとした王霊だ。国に預けたとしてもいずれ誰とも知らない人物にその力を利用されてしまう可能性は非常に高い。クラウさんやシューラ様に頼むにしても限界があるだろう。

 そうなると目の届く場所に置いておくという意味でお嬢様の屋敷に連れて行くという選択肢が浮かび上がるが、そもそもあの屋敷は慢性的な資金不足で新たに養う対象を増やす余裕は無い。

 堂々巡りだ。

 ……そうだ、そもそもこの子を目的にしていたのはアスカさんだ、この子を連れて来るように頼んできたのも彼女だし、同類であるこの子の為なら何か知恵を貸してくれるかもしれない。人間には冷たいっぽいけど、同類(というか精霊)にはかなり優しいみたいだし。

 そう思ってアスカさんに話を伺おうとして――一瞬その光景を理解できなかった。


「……アスカさん、何のつもりですか」


 彼女は、自身の霊器――レーヴァテインをこちらに向けていた。


「ユーリ、前座は御終い」


 その声は信じられないくらいに平坦で、冷徹で、


「王霊はお互いが戦うべき存在」 


 先程まで柔らかく接してくれて、まるで面倒見の良い姉のようだった人とはまるで別人のようで、


「さあ、オネーサンと殺し合いましょうか?」


 彼女の口から放たれた内容が、酷く違和感を感じさせた。

次回から3、4日に一回程の更新になります

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