完成的な
今回は短めです。
「ぜぇぜぇ……ユーリ君、もう……限界……」
「もう少し! もう少しですから! 頑張ってくださいヴェルさん!」
現在修羅場です。
時刻は夜明け前くらいだろうか。
傷一つなくシューラ様が街へ戻ってきたおかげで祭りの進行に影響が出ることは無かった。
そして次の日。
直前までお嬢様に気取られないように、日が昇る前にでデヴェロップに車椅子の部品を受け取りに行った。
ヴェルさんの目の周りはくっきりとした隈が浮かんでおり、かなり無理をさせてしまったんだと申し訳ない気持ちになる。代金とは別にその内に何かお礼でもした方が良さそうだ。
無理をさせてしまったにも関わらず、ヴェルさんは嫌な顔せずに笑顔で完成した車椅子の部品を差し出してくれた。
――そう、部品を。
車椅子じゃない。車輪、補助輪(自由に動く機構付き)、フレーム、取り付け用の金具、等々だ。
今何時? 夜明け前。
組立諸々の完成にかかる時間は? ………………。
その時の僕の縋る様な視線を浴びたヴェルさんの涙目は印象的だった。
慌てて屋敷に戻ってユリアさんに事情説明、既に買ってあった背もたれと座面用の革を片手にデヴェロップにとんぼ返りして今に至る。
ヴェルさんはトンカチやスパナのようなものを駆使して車輪等の各部品の取り付け作業、僕は穴あけ用の太い針と極太の紐を駆使して背もたれと座面用の革をフレームにせっせと縫い付けている。
「…………すー」
「すいません! ほんっとすいません! これが終わったら好きなだけ寝てていいですから今だけは起きてくださいヴェルさん!」
ガクガクと揺さぶって無理やりヴェルさんの意識を覚醒させる。
時折「うー」なんて呻き声を漏らし始めたヴェルさんの鈍い動きはもはやゾンビにしか見えない。
なお、店番の青年は僕らの傍で完全にダウンしている。ここ数日は彼も頑張ってくれていたんだろう、取り掛かる人数が増えすぎたら逆に効率が落ちるから今はこのまま寝かせてあげよう。
そしてトンテンカンキコキコチクチクと無言で最後の仕上げに取り掛かること数時間、僕の目の前には記憶にあるようなキチンとした物ではないものの、しっかりと車椅子の様相を成した完成品が鎮座していた。
外は完全に日が昇っており、屋台や出店も準備を終わらせて人通りも多くなっている。
「よし、後はこれを運ぶだけだ。ヴェルさんここまで付き合ってくれてありが……」
「…………すー……すー」
僕が目を向けた先でヴェルさんはトンカチとスパナを両手に持ちながら地べたに崩れ落ちて寝息を立てていた。
……お疲れ様です。それと、ありがとうございました。
起こさないように心の中で労いとお礼の言葉を投げ掛けて僕はデヴェロップから飛び出した。
◆
傍から見れば未知の物体(車椅子)を片手で背負いながらトンデモない速度で走るメイド(姿の男と認識はしていないだろうけど)はさぞかし奇異に映ったことだろう。
そんな視線など歯牙にもかけず、一心不乱に走った。
王霊の身体能力での全力疾走のおかげででジュレリア家の敷地の門がすぐに見えてきた。
一直線に門へと走ってくる正体不明の人物に、門番は勿論警戒の声を上げる。
「止まれ! ここがジュレリア家の敷地と分かっていての――」
「リイルお嬢様お付きの執事です! では!」
返事も聞かずに僕は閉じられたままの門を飛び越えた。
後ろで何や騒いでいる門番を無視してお嬢様の待つ屋敷へと走り去る。
お嬢様の屋敷が見えてきた。
ユリアさんは今多分お嬢様の傍にいるだろうから扉を開けてそのまま屋敷の中へ。
ラストスパートさながらにスピードアップしてお嬢様の待つ部屋へとひた走る。
見えてきたお嬢様の部屋からは何か話し声が聞こえていたが、直前までずっとおかしなことになっていた僕のテンションではそれを聞くことに考えが及ぶ筈もなく、ゴールテープを切る感覚で扉をバンっと開ける。
「ん…………?」
「あ…………」
「ユーリさん…………」
直後、僕のテンションはゼロを振り切ってマイナスまで落ち込んだ。いや、ある意味だとMAXだけれども。
目に入るのはいつもよりもずっと割合の高い肌色。
普段まともにベッドから離れる事のない身体はホッソリとしているが、出るところはしっかりと出ており、それでいて項から背中を伝うラインは見事の一言。下半身が毛布に覆われ、上半身を腕で隠そうとしている仕草がより扇情的だ。
よく見るとユリアさんの手にはお嬢様が普段身につけている寝巻きと、今まで見たことのなかった服が。まあ、よく考えたらあんな服装でお嬢様を人前に出せる訳が無いか。
で、お嬢様が着替えようとしたところで僕はノックもせずに飛び込んだと。
一瞬でそこまで理解して冷や汗がタラリ。
ユリアさんがお嬢様と僕の間を遮るように立ちはだかって段々と近づいてくるのに冷や汗がダラダラ。
「ご覚悟は?」
「甘んじて」
結構本気ですっ飛ばされました。
僕が王霊だと分かってからユリアさんの手加減が無くなってきている気がする。
◆
「おはようユーリ。今日はしばらく見なかったからどうしたのかって思ったよ。ユリアも急に外行きの服を着せてくるし」
どうやらお嬢様はさっきの一幕を丸々無かったことにすることに決めたらしい。耳のあたりが赤いのはご愛嬌というやつだろう、元凶が言えたものじゃないと思うけど。
一応はリセットされた空気の中で改めて完成した車椅子をお嬢様の傍に移動させる。
「それは……椅子?」
「お嬢様を連れ出す魔法の椅子ですよ」
「えっ?」
疑問の声を上げる外行きの格好をしたお嬢様を、ユリアさんが「失礼します」と抱えて、そのままゆっくりとこの数日間の努力の結晶へと下ろしていく。
ユリアさんの手が離れてお嬢様の体重が完全に乗っても車椅子はそれを支え続ける。
そして車椅子の後ろの取っ手を持って力を入れると、車椅子はお嬢様を乗せたまま動き始める。
「これは……」
お嬢様は今の自分の状況が信じられないような唖然とした声を上げて、説明を求めるように視線を僕とユリアさんの間で彷徨わせる。
僕とユリアさんは諸々の説明よりも、僕達が思うお嬢様への最高の一言を送った。
「「これからはどこへだって行けますよ」」
「…………っ」
お嬢様は顔を両手で覆って俯いた。
そのまましばらく僕達の間に言葉が交わされる事はなく、ただお嬢様の嗚咽だけが耳朶を打っていた。
次からいよいよ祭り本番です。




