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精霊の執事  作者: 3608
祭りへ連れ出し大作戦的な
17/68

決行直前の障害的な

本番前に一騒動です。

 ここ数日はずっとお金稼ぎの日々だ。

 最初の日は門番との顔合わせや案内等の諸々の事情で僕とユリアさんが同時に家を空けたけれど、いくら結界を張ってあるからといってそう何度もお嬢様を一人にするのは好ましくない。

 なので、物を売りに行く時はクラウさんに鬼とまで称された交渉術を持つユリアさんが、車椅子の部品関連でデヴェロップのヴェルさんの所へ行く時は完成品の全容を知っている僕が、それぞれ街へと出向いている。

 ちなみに売る物は相変わらず花だ。花を売ったお金で種を買い、それを王霊の力で成長させてまた売るというこれ以上無いくらいにお手軽な金稼ぎだ。

 軍を相手取ることさえ出来るという王霊の力を随分チンケな事に使っていると、これを知った誰もが思うだろう。

 けれど、僕が王霊だと知っているのはお嬢様とユリアさんだけ、というか例え知られてもなりふり構っていられる余裕も手段を選んでいられる余裕も無い。

 そんなわけで途切れさせることなく花を売っているわけだけれど、いくら僕が季節外れの珍しい花を咲かせてユリアさんが割高で売るとはいえ花は花、薄利多売の域は出ない上に、一度に持っていける花の数が限られている以上はそれだけで部品代を稼ぐことは出来ない。

 なので僕もユリアさんも、街に出た時は本来の目的とは別に日雇いの力仕事等もこなしている(祭りの時期はそういう仕事が多い)。自分で言うのもなんだけど、二人揃って馬鹿力の持ち主なので割はかなり良い。

 最近頻繁に街に出かけている僕とユリアさんにお嬢様は気づいている様子だが、何も聞いてこなかった。

 ただ、言葉の端々で自分の事を気にしないで僕達が祭りを楽しもうとしていることを喜んでいるように見受けられる。

 その事を話す度に、隠しきれない気落ちの表情を覗かせながら気丈に振舞うお嬢様が痛々しかった。

 お嬢様を祭りへ連れて行く為の準備の日々は、今すぐお嬢様に本当の事を話してしまいたいという欲求との戦いの日々でもあった。

 車椅子の部品の調達の目処が立ったのなら話しても大丈夫じゃないのかと思うかもしれないが、万が一部品の完成が遅れてしまったり、アクシデントがあったりして祭りが台無しになってしまったらと思うとそれを実行に移す気にはなれなかった。

 そして遂に祭りの初日が始まり、二日目になっても――未だに車椅子の部品は完成していなかった。

 思ったよりも自由に動く車輪の機構に手間取っているらしい。

 しかし、それももうすぐ完成しそうだということだ。

 出来れば祭りの三日間の全てを楽しませてあげたかったけれど贅沢は言うまい。我が儘を言っているのはこっちだし、最悪は最終日に間に合えばそれでいい。最終日に飾られる秘宝と宝石のように綺麗な湖が作り出す光景をお嬢様に見せてあげられれば。

 祭りが始まるともうお金を稼ぐのは難しくなる。

 いや普通は祭りの時こそ稼ぎ時なのかもしれないけれど、祭りの当日だと力仕事は無くなってしまうし、花は飾り付け目的が大半なので祭りが始まってからは飾り付けが遅れている店の人とかしか買ってくれなくなる。

 なので祭りの初日は僕が部品の進み具合の確認でヴェルさんの店に行ってすぐに戻ってきただけで済ませていたんだけれど、祭りの準備期間には何度も街に出ていた僕達が当日になって屋敷から離れようとしない僕達をお嬢様が訝しんで、


「わたしに遠慮なんかしないでいいよ。二人は祭りを楽しんできて。わたしのせいで二人がやりたいことを出来ないのは嫌だから、ね?」


 ここで僕達が断ればお嬢様は自分を責めて自己嫌悪に陥るに違いない。

 ここ数日の事でお嬢様を悲しませている事を自覚している僕達にこれ以上お嬢様を痛めつけるような返事が出来るはずもなかった。


 ◆


「ユリアさん、僕はもう挫けそうです。あと精神的なパンチ一発で沈んでしまいそうです」

「精神の鍛え方が足りませんね。わたくしならキックでもない限りはもう一発ならギリギリで耐えることができます」

「それキックがきたら終わりってことじゃ……」


 常人とは一線を期すアスラと、世界で十二体しか存在しないとされている王霊の二人は、外傷は一切無しながらも今にも倒れてしまいそうな程に満身創痍だった。

 今すぐに心休まる屋敷に戻りたいけれど、お嬢様の願いで街に出てきたのにのこのこ戻って行ったら本末転倒だ。


「すぐに戻るわけにもいきませんし、適当にふらついてから帰りましょうか」

「一応は明日の為に下見をしておきましょう。一日だけでは祭りの全てを回るのは難しいですから、事前に回る場所を決めておかなければなりません」

「ついでにちょっとでもお金が稼げそうな仕事でも無いか探しましょうか。もう部品代くらいなら払えるお金は貯まりましたけど、祭りを楽しむのにもお金は必要ですし」

「では、そのように」


 計画も決まったところで二人で街をふらつく。

 無駄遣い出来るお金は少したりとも持っていないので、完全に見るだけだ。どこに何の屋台があるか等を大まかに記憶していく。

 が、誤算が一つ。

 立ち並ぶ屋台の数々から聞こえてくる何かを焼くジューシーな音。

 これでもかというくらい鼻腔を刺激する香ばしい匂い。

 そして目を向ければまるで早く食べてと主張せんばかりの肉汁たっぷりの肉料理や、見たことの無いフルーツをタップリ使ったデザートの数々。

 聴覚、嗅覚、視覚の三連コンボによる誘惑が、何食わぬ顔で屋台をスルーすることを許してくれない。

 

「あなたは子供ですか」

「わ、わかってますよー」


 気がつくと屋台の前で足を止めたりする僕、その度にユリアさんは僕の襟首を引っ張る。まるで小さな弟と面倒を見る姉のようだ。


「おやおや、微笑ましいね~」

「仲のいい姉妹なことで~」


 街の世話好きっぽいおばさん達の会話は黙殺した。僕、このままずっとメイドとして認識されて暮らしていくことなんて……無いよね?

 祭りに集まるのは何も食べ物の屋台ばかりじゃない。

 

「よってらっしゃい! 幸福のお守りだよー! 持っているだけで災厄から身を守ってくれるありがたいお守りだよー!」

「酒の飲み比べ大会だー! 自分が酒豪だと豪語できる奴は名乗りを上げろー!」

「そこの道行く貴方達、吟遊詩人の歌を聴きたくありませんか~」

「皆さんお立会い! この俺の大道芸で時間も忘れて楽しんでくだせ~!」


 年に一度の神霊祭、その規模は思ったより大きく、集まる人も多い。

 そしてその人達を目当てにした商人や大道芸人、吟遊詩人、劇団などありとあらゆる職業の人間も集まって客引きの声が絶えず飛び交う。

 お祭り騒ぎとは正にこんな事を言うんだろう。 


「これが祭りの空気か~」

「明日の最終日の盛り上がりは今日以上になると思われますよ」


 そう、明日は最終日。

 祭りの締めくくりの日であると同時に、お嬢様をここへと連れてくる日だ。

 この数日間がとても長く感じたけれど、あと一歩なんだ。

 目標達成手前だとという事を念入りに自分に言い聞かせて気を引き締める。一歩手前だからこそ、絶対に油断して失敗なんていう事態を招くわけにはいかないから。

 決意を新たに真面目に祭りの下見という重要任務を遂行しようとしたその時、大通りの彼方から土煙を巻き上げてこちらに向かってくる人影が。

 ギィイイイイイイイイイイイイイイ! 

 

「見覚えのある見目麗しいメイドの二人組だと思ったらやっぱりユリア嬢とユーリか!」

「屋台の商品は買えませんけど喧嘩ならいくらでも買いますよ表に(屋内じゃないけど)出ましょうかこの馬鹿師団長!」

 

 人の限界に全力で物申すかのようなブレーキ音を出して止まり、そろそろコンプレックスになりつつあるその手の単語を僕に対しても向けてきたその人は、作戦開始初日で知り合ったクラウさんその人だった。


「すまない! 今はユーリの女装が似合っているなんて分かりきった事にあれこれ言及してる暇は無い!」


 よろしい、決闘だ。

 

「ソーシェルド様、何か問題でも起きたのですか?」

 

 馬鹿師団長に鉄槌を下そうとする僕を羽交い絞めにしながらユリアさんが訪ねた(なお、僕もユリアさんも結構な力を入れているので二人を支えている路面に少しヒビが入った)。


「悪いが機密事項だ、それを話すことは……」


 出来ないと続けようとしたのだろうクラウさんの言葉は、途中で思案するように途切れていった。

 しばらく顎に手を当てて考え込んでいたものの、やがて意を決したように顔を上げて僕とユリアさんの目を見据える。 


「二人共、耳を拝借」


 周囲に聞かれるとマズイらしいのでヒソヒソと呟くように話される内容を耳を寄せて拾う。


「姫殿下が行方不明だ」


 ………………。


「え~~~~~~~~~~!?」 

「声がデカイ!」


 スパーン!

 見た目の爽やかそうな美青年の割には切れのいいツッコミだった。

 そんなことを落ち着いて考えている僕はどうやらそれなりに混乱しているらしい。

 そしてこんな時でもユリアさんは変わらずのクールビューティー。


「姫殿下が行方不明とは穏やかではありませんね」

「穏やかどころか一大事だ。姫殿下にもしものことがあったら責任問題どころの話ではない。下手をしたら祭りの最終日は中止に――」

「すぐ探しましょうさあ今すぐに!」

「勿論だっ、協力感謝するっ」

「お二人共落ち着いてくださいっ。姫殿下の人相を知らないとわたくしとユーリさんは探すことなどできませんっ」

「そうだっ! クラウさん、お姫様の特徴を手短にわかりやすくお願いします!」

「外面も中身もお花畑の少女だ!」

「分かるか!」


 手短過ぎて見た目に何も触れてないんですけれど!?


「ではな! 俺はあちらを探す!」

「え、あれ!? 本当にそれだけ!? ねえ、クラウさん!」


 僕の懇願に近い確認に答える事なく、クラウさんはまた土煙と共に去っていってしまった。

 まともな説明もなしで残されて立ち尽くすことしばし、


「どうなさいますか? あれだけの情報で探し人を探し出すのは相当困難だと思われますが」

「決まってますよ。困難でも何でも、絶対に探し出しますよ。こんなところで絶対に終わらせたりなんかするもんか……!」

「その通りです。お嬢様のこれまでの寂寥を全て覆す程の楽しみを味わう機会がこのような事で不意にするなどあってはならないことですから」


 二人共気合は十分。

 やむなくお嬢様を悲しませてしまえば容易く満身創痍になっても、ゴールの直前の障害を前にして簡単に意気消沈するほどやわな精神じゃない。


「ちなみにどの辺を探します?」

「わたくし達は容姿を知らなくても相手は一国の王女、街中にいれば騒ぎになるはずです。もし街中にいなかったとしてもかどわかされたのでないのならそう街から離れていないはず」

「そういえば王女様が行方不明っていう割には街の空気が平和的ですね。精霊師達が総出で探し回っていてもおかしくないと思うんですけど」

「おそらく騒ぎにならないように箝口令が敷かれているのでしょう。騒ぎが表沙汰になればそれだけで祭りの継続が危うくなりますから。空を飛べる精霊と契約した精霊師が飛び交っていないところを見ても間違ってはいないでしょう」

「事情を知っている一部がさっきのクラウさんみたいに必死に探し回ってるってことですか」


 メチャメチャ目立ってたけど。


「ユーリさんは街の外をお願いします」

「わかりました」

「わたくしは街を探します。ただし――」


 言葉を切ってユリアさんが顔を上げた。

 次の瞬間、僕の隣にいたユリアさんは建物の壁を蹴りながらまるで忍者のように屋根に飛び乗っていた。


「集合場所は街の入口にしましょう! それでは!」


 唖然とする僕と街ゆく人達を尻目に、ユリアさんは次々と屋根の上を飛び移って見えなくなってしまった。

 ……ユリアさんも本気だということみたいだ。


「っと、僕も早く行こうかな」


 ユリアさんがあんなものを披露したんだから僕も本気でいいよね?

 構えはクラウチング。

 踏切足に力を込め、

 ドウっ!

 魔霊と戦ったとき以来初めての本気で僕は街の外へ向かって爆走した。ユリアさんに向けられていた唖然とした視線が、今度は僕に向けられるけれど気にもならない。

 絶対にお姫様とやらを見つけ出す。こんなところで祭りを中止になんかさせるものかと、心の中で気合を入れながら、僕は街の外へ向かって走り出した。

次でもう一人キャラが出ます

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