作戦準備的な
笑いのセンスが無くてすいません。
お金を稼ぐにはまず元手が必要。
組織から給金を得るサラリーマンが大半を占めるる地球一般人の考え方で、そんな基本的な事を忘れていた。
さてさて、お金が無い故にお金を稼ごうとしているんだから元手なんかあるわけがないのに、どうやってお金を稼げばいいのか。
目を付けたのは僕が王霊の力で咲かせた色とりどりの花の数々だった。
祭りでは色々な飾りつけをするので、飾りとしての花の需要は今の時期は結構高いらしい。
しかも王霊の力のデタラメさのおかげで季節を外れて咲いている花は希少価値が高く、なかなかの値段が付くであろうことが予想される。
ユリアさんも同調してくれたので、ひとまずは花を売ってお金を稼ぐことに決定した。
しかしそれには問題が二つ。
一つ目。
ズブの素人である僕に交渉が出来る訳もなく、花は鉢植えに移してから運ばないといけない関係上一度に運べる量が限られていることもあり、花の売買にはユリアさんの同伴が必要になるわけだが、魔霊が出現して実際に襲ってきてまだ日が経っていないのに屋敷にお嬢様を一人にするのは危険だということ。
二つ目。
サプライズのプレゼントにしたいのと、もし無理だった時の為にこの作戦はお嬢様に内緒で秘密裏に進められている。がしかし、肝心の花が全てお嬢様から丸見えの位置に集められているので、誤魔化し方を間違えるとお嬢様に作戦を悟られてしまう可能性がある。
一つ目の問題はユリアさんと知恵を出し合って熟考した末に、また王霊のデタラメな力に頼ることにした。
それは……結界だ。
僕の精霊としての力を流し込んだ特殊な木を数本屋敷を囲うように植え、それを触媒にしながら屋敷を覆うように力を循環させる。
これならある程度の精霊なら弾けるし、何かあった時に僕が感知出来るので幾分か安心できる。
この作業は木をお嬢様から見えない位置に配置することで秘匿は簡単だった。
しかし、問題の二つ目は完全にその場のアドリブだ。
花を鉢植え(木製・僕作)に移すところを見られるのは避けられないので、僕の弁舌だけが頼りになる。お嬢様は僕たちを心の底から信じているが、聡いところもあるので正直不安だ。
◆
お嬢様の為だと自分を鼓舞しながら鉢植えの準備を完了させ、いざ花咲き乱れる戦場へ。
正直心臓が破裂しそうだ。
窓を開け放して何度目かの本を読んでいたお嬢様は、僕を発見すると本を閉じてウキウキした笑顔で待ち受ける。
僕が花壇で土いじりをしている時のお嬢様は気分によって雑談をしたり、ニコニコ笑顔で眺めているだけとその時によって違う。
しかし、やはりと言うべきか僕が持参している鉢植えに興味を持ったようで、僕が近づくなり視線を僕の手の中の鉢植えに向けて話しかけてきた。
「あれ? お花どこかに移すの?」
きたーーーー!
お、落ち着くんだ僕。予想どおりじゃないか。基本はお喋り好きなお嬢様がいつもと違う物を見つければ興味を持って話しかけてくるのは当然だ。
言葉は慎重に選ばないといけない、それでいてお嬢様に違和感を抱かせるほど返事の間を空けないようにも気を使わないといけない。
正直僕に出来るかは微妙だけど、やるしかないんだ!
「ええ、幾つか廊下の花瓶に生けようかと。せっかく花があるのに花瓶が空というのも勿体無いかと思いまして」
「それもそうか。ユーリが来てから廊下も綺麗になったらしいし、花が咲いてるのもユーリのおかげだもんね」
「いや~、精霊の力が規格外すぎるだけですよ」
「謙虚だね~。……あれ? この屋敷に花瓶なんてあったっけ?」
「倉庫に眠っていたのが幾つかあったんですよ!」
早速危な! この屋敷に花瓶なんて小洒落た物があるわけ無いわ! これはその内本当に花瓶を調達する必要がありそうだ。
お嬢様は急に大声を出した僕に若干引いているご様子。取り敢えず弁解しなければ。
「すいませんお嬢様、今日は朝からテンションが高くてつい大声を出してしまうんです」
「あ……うん。誰だってテンションが高いときはあるよね」
脈絡無く大声を出す人はいないと思いますけれど。
初っ端からの大失敗で大きく脈打つ心臓をなだめながら、出来る限り落ち着いて花を鉢植えに移す。
「ん? 花瓶に生けるのにわざわざ植木鉢に移すの?」
「僕って草木の精霊だから少しの間でも草花には元気な状態でいて欲しいんですよ! 花瓶に移す直前に植木鉢から抜いて一つ一つ土を払うつもりです!」
しまったぁあああああ! 最初の花瓶設定が裏目にでたぁあああああ!
傍から見たらかなり不自然な筈の僕のさっきからの醜態に対して、疑うことを知らない純真無垢な子供のように首を傾げたお嬢様は何かを理解したように頷いて、
「成程、花瓶に水が張ってあっても自然に植わっている花よりは寿命が縮まるもんね。さすがは草木の王霊っ」
感心したように浮かべられたお嬢様の笑顔に、彼女を騙している事に対する罪悪感がドンドンと山積みになっていく。
そろそろポッキリと決意が挫けそうになりながら、活きの良さそうな――高く売れそうな花から選別してどんどんと鉢植えに移していく。
街まで一度に運べる量には限界があるけれど、僕とユリアさん二人が運べる分の鉢植えはなかなかの数になる。
やっとこの達成困難な任務の終わりが見えてきて気を抜いた途端、まるでその隙を伺っていたかのように不意にお嬢様が疑問の声を上げた。
「ねえねえ、花瓶に生けるだけにしては多過ぎない?」
「え~~~っと……それはですね……」
やばい、言い訳が思いつかない。
目を揺らす僕にお嬢様の表情に怪訝な色が浮かぶ。
万事休すか……!
諦めが首をもたげて顔に出てくる直前のことだった。
バンっ!
「お嬢様申し訳ありませんっ。それはわたくしがユーリさんに頼んだ分なのですっ」
「ユリアが?」
「え? うん? ……え?」
部屋に入ってくるなり深く頭を下げて謝罪の言葉を口にするユリアさん。
突然の告白にお嬢様は勿論、覚えのない頼みに対して僕も、困惑をあらわにしていた。
「と、取り敢えず顔を上げてよ。ユリアが頼んでいたとしても花を咲かせたのはユーリだし、ユーリが了承したのならわたしから文句は無いよ」
花の確保を頼んだ程度でここまで頭を下げられて居心地が悪いのか、慌てた様子でお嬢様はユリアさんに頭を上げさせた。
頭を上げたユリアさんの視線は僕に向いており、その視線は『貸し一つです。いずれ多大な利子と共に必ず返して頂きます』と語っていた。
思わぬ助けによる安堵と、作ってはいけない相手に借りを作ってしまった事に対する危惧を同時に感じながら、この場を乗り切る算段を頭の中でつける。
「それでそれで? 何でユリアがユーリに花を頼んだの?」
「それは――」
「このところ余裕が出てきてふと自分の部屋を見渡せば部屋に彩りが少ないと思ったらしいんですよ。ユリアさんも女性ですからね、さすがにこれはまずいのではないかと思ったらしいですよ」
「なっ!?」
ユリアさんに被せるようにして言い放った。借りは少なくしたいから出来る限り自分で切り抜けないと
いけないしね。
お嬢様はニヤリと獲物を見つけたように口の端を釣り上げて成長した妹を祝うような視線をユリアさんに向けた。
「ほうほう~。ユリアがまさか部屋の彩りを気にするようになるなんてね~」
それからお嬢様は、女らしさを何処かへ置いてきたようなユリアさんに今まで心を痛めていたなど、年上のお姉さんのような話題でどんどんとユリアさんをからかっていく。普段完璧なユリアさんをからかえるのが楽しいのかもしれない。勿論ユリアさんが女らしさを見せてくれた(嘘だけど)ことが嬉しいのもあるんだろうけれども。
話が長くなりそうなので、今の内に花のことをうやむやにして立ち去ってしまおう。
僕はお嬢様に捕まっているユリアさんに、出来る限り彼女の分の仕事をやっておくことを身振りで伝えてその場から退去した。
◆
ユリアさんと合流したのはそれから三十分後だった。
顔がかなり赤いところを見るに、相当な羞恥プレイだったに違いない。
僕の姿を発見したユリアさんは赤い顔を隠そうとしないままズンズンと歩み寄り、
――マジのリバーブローを炸裂させました。
そのまま壁まで吹っ飛ばされた。これが王霊の僕じゃなくて普通の人だったら内蔵粉砕や肋骨骨折とかでヤバイ事になってた気がする。
「わたくしは当初はあの花壇に咲いている花の中に薬効成分を持ったものが混ざっているという名目を使うつもりでした」
鼻息を荒くしたまま語られたそれで、僕が鬼畜な仕打ちを受けた理由を理解した。
「ユーリさんがおっしゃった理由のせいで、わたくしは異性が屋敷に来たことで男性の目を意識するようになった可愛らしい乙女というレッテルをお嬢様に貼られる始末っ!」
うわー、原因を作った僕が言うのもなんだけど、なんて似合わない乙女像だ。お菓子作りに興ずるスケバンの如き似合わなさだ。
「まあまあ。いっそのことこれを気に、もっと女性らしい嗜みを身につけるという手も……」
「あなたがそれを言いますかぁああああああああああ!」
僕はこの日、初めてユリアさんの絶叫を聞き、初めて顎アッパーで天井まで飛びました。
◆
「さて、あなたへの報復はまた後でするとして」
「まだやるんですか!? 僕一応悪気は無かったのに壁に叩きつけられて天井近くまで吹っ飛ばされたんですけど!?」
「あれはあなたの突然の事態に対する不甲斐なさに対して喝を入れただけです」
「いや明らかに私怨でしたよね。顔赤らめて憎悪の視線向けてましたよね」
「ええ、あなたに女として一生モノの屈辱を受けたせいで……くっ」
「それお嬢様に言わないでくださいね!? 絶対誤解されますからね!?」
「失礼な。わたくしは本当の事を言っているだけです。わたくしの主張のどこに誤解するような要素がありますか」
「むしろ誤解する要素しか見当たらないんですけど!? ……まあなんです、一応発端が僕のせいだというのは認めるんで謝ります。すみませんでした。ユリアさんに借りを作りすぎると後で辛くなると思いまして」
「当然です、わたくしがあなたの失敗を補うのに発した言葉の数を掛けた分を返してもらうつもりでしたよ」
「今ので謝って正解だったのか揺れてるんですけど。むしろ早めに言葉遮ってナイスプレーだったんじゃないかと思うんですけど」
「ちなみに既に元の貸しの四十四倍まで膨れ上がっております」
「どこの闇金!?」
いや、闇金が可愛いくらいの暴利だ。
「さて、そろそろ行きましょうか。ユーリさんの話に付き合っているといつまで経っても街へ行けません」
「その言葉、そっくりそのまま返します」
「そのまま返されますと、あなたは自分の事をユーリさんと呼ぶ上に自分を貶している痛い人になるのですが」
「誰も触れないような部分にわざわざ触れないでくれませんかねぇ!?」
不毛な言い合いを続けながら玄関前までやって来た。
鉢植えは全て僕お手製の二段になっている背負子に括りつけられており、いつでも街に行ける。
屋敷の周辺から外は完全に知らない場所なので先導はユリアさんだ。
ユリアさんが扉を開き、僕もそれに続こうとして――大変なことに気がついた。
「ユリアさん、僕……この格好のまま街に行かないとダメですか?」
恐ろしいことに、ずっと着ているせいでそろそろ慣れ始めてきてしまったこのメイド服、屋敷の中で着ていても見られるのがお嬢様とユリアさんだけなので開き直っていた。
がしかし、不特定多数にこの姿を見られるのは絶対にごめん被る。
「ダメもなにも、それ以外に着る服が無いのですから仕方無いではありませんか」
僕の懇願はバッサリと切り捨てられた。
一歩、また一歩と足を後退させ、ついに後ろを向いて走り出した僕の逃走劇は、後ろを向いた瞬間にユリアさんに襟首を掴まれることで始まる前に終了した。
「い~~~~や~~~~だ~~~~! この服を誰かに見られるのはい~~~~や~~~~だ~~~~!」
「あなたは子供ですか。それに誰が見てもその格好に違和感は持ちませんよ」
「それってつまりこの先ずっと人前ではこの服を着ろってことですよね!? お先真っ暗な未来は嫌です!」
「では声高々(たかだか)に自分は男ですと吹聴すればよろしいでしょう。そうすればいずれ執事服が手に入った時に格好が変わっても受け入れてもらえます」
「女装癖のある変態というレッテルを貼られることと引き換えですがねぇ!?」
「ええい、どの道選択しはありません。大人しく諦めて……お先真っ暗な未来を受け入れてください(ボソッ)」
「今最後に何か言いましたよね!? ねえ、ちょっと! いや~~~~~~~!」
屋敷に僕の悲鳴が木霊した……ような気がする。
◆
一つの敷地とは信じられない程の距離を引きずられて、やっと敷地との境目である門が見えてきた。
門の脇に立っている二人の門番がユリアさんの姿を認めると、表情を強ばらせて姿勢を正した。
「これはユリア殿。今日は買い出しではないのですか?」
「はい、今日は別の用です」
「そうですか。それは良いのですが……」
言葉を濁らせて二人の門番が向けた視線の先には――屋敷からここまで無理やり引きずられて焦点が安定していないちょっとヤバイ状態の僕がいた。
「この方はユーリさん、お嬢様に新しく仕えることになった…………執事です」
メイドと執事どちらとして紹介するか悩んだようだが、結局は本来の性別として紹介することを優先した様子。
しかし、メイド服を着た(見た目)少女である人物を執事として紹介された門番は案の定困惑顔だ。
「あ、あのお嬢様に新しく――いえ、失礼。それよりも……執事……ですか?」
「はい、諸事情で執事服が着れなくなりましたので臨時でこちらを。ユーリさん」
そう言って襟首を開放されて門番達に向き直る。
「ど~も~、事情があるとはいえ男なのにメイド服を着た痛い執事のユーリです、今後共お見知りおきを~」
もう僕はダメかもしれない。
「わ、わかりました。ではお気を付けて」
余り関わり合いになりたくないという空気を醸し出して、さっさと仕事を進める二人の門番によって門が開かれていく。
さすがにもう引きずられるのは嫌なのでここからは自分で立って歩く。
何だかんだで僕がこの世界にきて始めての屋敷の外なので、楽しみにしている部分も無くはない。
少しばかりの不安と期待を抱きながら、僕の街デビューが始まった。
……これでメイド服を着てなければ……。
次からやっと屋敷から出ます。




