13.パシパ脱出①
パシパの兵に追い立てられたシンは、はっとしてあたりを見回した。
「おい、お前、どこへ行く? 何をする気だ?」
追い立てる方向とは逆、荒れ地に向かって駆けだしたシンを見て兵が怒鳴った。すかさずシャギルとルリが後を追う。
ビャクグンとスオウの目が合った。
北門に立ちはだかるパシパの兵の間をかいくぐって行くシンには、微かに自分を呼ぶ声が聞こえた。その声に引かれ、荒れ地に踏み出したところでシンは何かにぶつかり、温かい体に触れた。
「アイサ?」
アイサのシールドが消えて、ベールを握るアイサが倒れ込む。
「邪魔だ、どいていろと言っただろう?」
近くにいた兵が大声で怒鳴り、棒立ちになった。
「何だ? どうした?」
兵たちが寄ってくる。その兵たちの間をくぐって来たのはシャギルとルリだ。
「シン、アイサか?」
「アイサ」
アイサの意識がないのを見て取ったルリが、あたりを見回す。
「おい、銀の髪じゃないか」
一人の兵が叫んだ。
「何だって?」
「あの娘か?」
「見つけたぞ、ここだ」
この声を聞きつけて、次々とパシパの兵がやって来る。
「こっちだ」
スオウの声が響いた。
「シン」
「走れ」
すかさずルリとシャギルがアイサを抱えるシンを引き立て、スオウの声のする方へ走る。と、同時に轟音が鳴り響き、北門とその付近の壁が崩れた。
人々の叫び声や泣き声でたちまちあたりが混乱に陥る。
「待っていて」
「ここにいろよ」
がれきの陰にシンとアイサを隠して、ルリとシャギルが駆け出す。ビャクグンが駆け寄って、素早くアイサの状態を調べた。
「ビャク、アイサは?」
「呼吸は穏やかだし、熱もない。顔色もいいわ」
「でも……」
「シン、ご覧なさい。アイサの、この安心しきった顔……ゲヘナを封じてやっと呪縛が解けたのね。おそらくアエル様が長年願っていたものが」
自分よりも遥かにセジュに近い文明を持つビャクグンの言葉に、シンはひとまずほっとし、意識のないアイサを覗き込んだ。
「ということは、間違いなくゲヘナは封じられたわけか?」
土煙の中からスオウが姿を現した。
「そう思っていいと思うわ」
「ビャク」
「ええ、スオウ、じきにアイサは目が覚めるでしょう。でも、シールドを消して、気を失ってしまった。仕方ないわね」
「そうだな」
ビャクグンとスオウは頷くと、右往左往しているパシパの兵たちに目を向けた。爆発の余波で混乱する群衆から、ルリが馬を引いて戻った。
「早く、クルドゥリへ」
ルリが馬にアイサを乗せる。
「姿を消したアイサをこっそりパシパから逃すのはもう無理だ。第二の手は、混乱に乗じて追っ手を振り切る、だったよな? 派手に行こうぜ」
馬に乗ったシャギルがきっぱりと言った。
その後ろには馬に乗ったクルドゥリの仲間がいる。
「ああ、急ぐぞ」
押し寄せるパシパの兵に目をやってスオウが答えた。
ビャクグンが仲間の用意した馬に飛び乗り、これを追ったシャギルと二人でアイサを乗せたルリのために道を開く。ルリの馬がこれに続き、馬に乗ったスオウとシンがぴったりとルリの後方に着いた。




