13.パシパ脱出②
ビャクグン、シャギル、シン、スオウ、そしてアイサを乗せたルリの馬が追いすがる兵を振り払い、猛然と進み始めた、その少し前。
アイサの仕掛けた爆弾が破裂する凄まじい爆発音と振動は、遠方の客と話をしていたティノスの耳にも届いていた。
「大主教?」
同席していた客が眉を上げる。
「この良き日に、何事だ?」
ティノスは不快感を露わにした。
「見て参りましょう」
控えていた僧が慌てて席を立つ。
そこへ警備の兵が息を切らしてやってきた。
「大主教様、大変でございます。力の火のある地下の施設が爆破されました」
「な、何だと……」
ティノスは絶句し、立ち上がった僧も耳を疑った。
言葉の出ないパシパの僧たちにとは対照的に、客は面白そうな表情を浮かべ、報告に来た兵に聞いた。
「失礼だが……爆破された、とおっしゃったか?」
鮮やかな異国の服に、堂々とした体躯、浅黒い肌、そして、抑えた殺気。
兵は息を飲み、答えた。
「はい。信じられないことではありますが、地下から脱出してきた者たちがそう言っているのです。彼らは口々に、クイヴルから来た娘の仕業だと……」
「馬鹿を申すな」
ティノスは我に返り、乱暴に立ち上がった。
「どんな力でもびくともしない、古の力で造られた機械だぞ? 誰の手でも、まして、たかが娘一人に破壊できるようなものではない。とにかく、事情を知る者を連れて来い。私はこれから北門の塔へ行く。この目で確かめねば」
「しかし、その娘が……」
部屋を出ようとするティノスを報告の兵が追った。
「どうした? この爆発だ、娘は死んだのだろう?」
苛立つティノスは叫んだ。
兵が身を縮める。
「いいえ、娘は捕らえようとする兵を振り切って……逃亡した模様です」
「逃亡した、だと? まさか、娘ひとりに施設を破壊された揚げ句、娘は無事だと言うのか?」
「はい。生き残った者の話では、その娘が洞窟から出ると一気に爆発が始まったと……」
「出てから爆発した? どういうことだ?」
客が腕を組んだ。
「ええい、とにかく早く娘を連れて来い」
「もちろん必死に追っているのですが、まだ捕まえたという知らせは入っておりません」
「たった一人の娘に手こずっているというのか? パシパの兵はそこまで腰抜けだったか」
ティノスの勢いに兵が震えあがる。
「もちろんでございます。どうか、どうか今しばらくお待ちくださいませ」
兵が平身低頭する。
「一人と言うことはあるまい」
客の男が呟き、そこへまた激しい爆音が響いた。
「今度はどこだ?」
「何があったんだ?」
「ここは大丈夫なのか?」
「パシパはどうなるんだ?」
いつもは静かな僧院の客間にまで、慌てた僧の声が響く。その騒ぎの中、再びティノスの元へ北門を守る兵が知らせを持って駆け込んだ。
「大主教様、北門が爆破されました」
「北門が? 馬鹿な……そうだ、神殿を破壊したという娘はどうした?」
ティノスは新たに駆け込んで来た兵を掴んだ。
「それが……北門の付近に仲間が潜んでいたようです。その者たちが娘を連れて南門に向かっています。警備兵が追っていますが、彼らは爆薬を持っていて迂闊には近づけません。周到に準備がされていたようで……」
「迂闊に近づけないだと? 力の火が失われたかもしれないというのに、命など惜しんでいられるか。何としても、その者たちを捕らえるのだ」
ティノスに従っていた僧が喚きたてる。
「あの書物の次は、力の火だと? このパシパに逆らうとは……何者だ?」
ティノスは拳を握った。
「まあまあ、落ち着かれよ。こんなことをやってのけられるのは……ひょっとすると、最近囁かれている幻の国が関わっているのかもしれませんな。よい機会だ。私も行ってみましょう」
客が立ち上がった。
その腰に佩いた剣はこの辺では見かけないものだ。
「そうか。ディアンケ王やその王子たちが必死で探している幻の国の話は私も耳にしたことがある」
「大主教様、あなたは神の雷を回復させる方へお力を。賊の方は私にお任せください」
「わかった。ススルニュアの暗殺集団の実力を見せて頂こう」
ティノスの上ずった声に、客はにやりと笑って頷いた。




