10.奇妙な海賊①
それぞれが港から戻ったその日の夕食後。
旅の一行が船長室に揃った。
シャギルは長いすに身体を伸ばし、ルリとスオウは船長のとっておきの酒を飲み、ビャクグンは爪の手入れをしている。
「まったく……」
ミルはビャクグンの優雅な手つきに思わず感嘆のため息をついた。そのわきでは、お茶を入れているシンの手元を、アイサが覗き込む。
「変わった香りがするわ」
「うん。ススルニュア産のヴォガという強い香料が加えられている。後味がすっきりしているはずだよ。これは昼間港で買ったものなんだ」
シンは得意げに言った。
「姿を消していたのに、どうやって品定めしたの?」
「姿を消しても茶葉の色や形、香りは確かめられるよ。店主が他の客に説明しているのも参考にした」
「ふうん」
「それよりアイサこそ、怪しまれなかったかい?」
感心しているアイサにシンは聞いた。
「えっ、そんなこと忘れていたわ」
シンは途方に暮れたが、これを聞いていたシャギルが笑い出した。
「おしゃれの買い物に精を出す奴に、茶葉を買う奴、ついでに自分がお尋ね者だってことを忘れている奴か。どいつもこいつも緊張感のない奴らばかりだな」
「そう言うお前は、何をしていたんだ?」
スオウがシャギルに目を向けた。
「俺にも一口」
そう言ってソファーから身を起こし、ルリに一杯注いでもらうと、シャギルは陽気に答えた。
「その辺をぶらぶらと。ルリと金を稼ぎながら」
「それで?」
「ススルニュア人の傭兵志願者は、どうやら全部が全部、見た目通りってわけじゃない。オスキュラに雇われるふりをしながら、オスキュラとパシパの情報を集めている。オスキュラに恨みを持つ者は多い。当然だがな。ただ、何といっても相手がオスキュラでは勝負にならない」
「それは、どこの国にとっても同じだな。我々も例外ではない」
スオウはあっさりと言った。
「あの火さえなければ」
ルリの瞳に怒りの色が浮かぶ。
「ルリ」
感情が高まったルリをスオウが制した。
「だけど、スオウ、その通りじゃないか?」
シャギルがスオウを見つめた。
「まあな。だが、感情的になっても始まらん。オスキュラやパシパが不安定になって、ゲヘナが暴走するようなことにでもなれば……我々も手が付けられん。かつての二の舞になる」
スオウが答える。
ルリは溜息をつき、シンの淹れたお茶に手を伸ばすスオウの手を目で追った。
「で、スオウ、そっちはどうだったの? 茶葉を買っていただけじゃないんでしょ?」
「港の賭場に、妙な連中がいた。港には火薬を隠した船だ。この港に海賊が集まっている。港に停泊中の交易船の中で、奴らが目をつけるのがこの船でなければいいがな」
「妙な連中か……」
シャギルが言い、ルリが頷く。
「奴らのことは俺たちも気づいたよ。だが、明日の朝にはこっちは出港だ。奴らが噂の海賊だとしても、来たときは来たとき、だろう?」
シャギルが気楽に答えた。
「そういうことだな」
スオウも頷く。
「私たちは買い物の前にパシ教の寺院に行っていたの。彼らはススルニュアへの進出に自信があるようよ。寺院の運営はとてもうまくいっているようだったわ。貧しい人のための食堂や学校もあるの。そんな施設をどんどん増やす気ね。資金が豊富だからできることね」
爪の仕上がりを確認していたビャクグンが言った。
「国が荒廃したところに、そんな形で入り込まれると……ススルニュアもますます国の土台が揺らぐ。他の国々も、うかうかしていられないでしょうな。我々クルドゥリも古の時代のように、しばらく内に籠るより他はないのでしょうか?」
ミルが難しい顔をした。
「後戻りはできないでしょうね。先の短いオスキュラ王はともかく、その王子たちが我々の国の存在を嗅ぎつけて、必死で所在を探っている以上」
ビャクグンは静かに答えた。




