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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅰ.闇の炎
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9.初めての船旅⑤

 水や食料や日用品などを船に運び込むゴッサマー号の船員に荷物を預け、ビャクグンとアイサが甲板に上がった。

「何を仕入れてきたんだ?」

 甲板から様子を眺めていたスオウがビャクグンに声をかけた。

「私の商売道具。まめに仕込んでおかないとね」

「これはどちらに?」

 ビャクグンの荷物を持ってきた船員が聞いた。

「ああ、ここに置いてくれればいいわ」

「こんなに細々とよく買い込んだものだ」

 荷物の中身をちらりと見て、スオウが苦笑する。

「だって似合うんですもの」

「そう、だったな」

 呆れるスオウを残してビャクグンはいそいそと部屋に荷物を運ぶ。アイサもビャクグンを手伝ってビャクグンの部屋に荷物を運んだ。

「ありがと。ここにおいてちょうだい。それと、アイサ、これはあなたに」

 ビャクグンは荷物の中から飾り紐を取り出すと、アイサに渡した。

 きれいな石の入った、手の込んだものだ。

「いつの間に買ったの?」

「アクセサリーを見ているときに目についたのよ。この船に乗ってからあなたが髪をまとめるのに使っている紐、あれはつまらないわ。せっかくきれいな髪をしているんですもの」

 ビャクグンは船員の一人がアイサに間に合わせにくれた革の紐が気に入らなかったようだ。

 アイサはビャクグンのくれた飾り紐を眺めた。

「それとも、シンに貰ったのじゃなくちゃ、いや?」

 ビャクグンはいたずらっぽくアイサを見た。

「そんなことないわ。ありがとう、ビャク。早速使わせてもらうわ」

(シンと飾り紐ねえ……)

 アイサは首をかしげた。


 夕闇が近づいた。港の明かりがぽつぽつと灯り始める。

 船は明朝出港する予定だ。

 アイサは少しずつ増えていく明かりをぼんやりと眺めていた。

(クルドゥリの民の中には、ビャクのように性別まで超えて姿を変える人がいるってビャクは言ってたけど、ビャクはとても徹底している。シンはビャクのことを底が知れないって言ってた……シンは不思議と鋭いところがあるな。大抵のんびりしているんだけど。あ……)

 背後でシンの気配がした。

「アイサ、ベールをありがとう。役に立ったよ」

 アイサの隣に立つと、シンの夜色の髪がさらさらと風に揺れた。

「港に下りると人々の暮らしが見える。ファニのこと思い出してしまったよ」

 実の親子ではなくても、ラダティスの城でその息子として育ったシンは、義兄エモンと同様、上に立って人々を率いていく者の目を持つように育てられている。

 アイサはシンを見つめた。

(シンは、これからどうなるのだろう。オスキュラはあまりにも強く、そしてパシ教は多くの人々の心を掴みつつある。エモンはラダティス公を殺し、オスキュラと組む事で自分の望みを叶える道を選んだ。シンは邪魔者としてエモンに追われる身だ……でも、もしゲヘナがなくなったら? この一方的な状況に少しは変化が起こるだろうか?)

「シンが領主だったら……セグルやカヌ、チュリ、そしてファニの人たちのために一番よい方法をとろうとするでしょうね」

 アイサはぽつりと言った。

「お尋ね者にその話をされてもね」

 シンは肩をすくめた。

「それに、ファニの人たちのために一番良い方法っていうのが……ミル船長に訊かれてから時々考えるけど、どうすることが一番いいのか……」

 シンがファニに思いを馳せているのがアイサに伝わった。

(領主としてのラダティス公の思いは、エモンよりもシンの方に受け継がれたようだ)

 ふと、シンがアイサの髪を束ねる飾り紐に目を止めた。

「その飾り紐」

「ああ、これ? ビャクがくれたの。ビャクの買い物に対する熱意には驚いたわ。仕事でいろいろな年格好の女の人になるから仕方ないって言っていたけど、好きでなくちゃ、あんなに熱心に吟味できないわね」

「確かにアイサによく似合ってる。でも、どうして僕はビャクを素直に受け入れられないのかなあ。スオウやシャギル、それにルリだって本当はよくわからない人たちなのに、ビャクはそれ以上なんだよ」

 シンはアイサを窺った。

 ビャクグンの言葉がよぎる。

(『人の秘密は軽々しく口にしないもの』……か)

 アイサは笑った。

「彼らとの旅は始まったばかりよ」

「うん。ついこの間までは、こんなところまで来るなんて、考えもしなかった。セグルたちと町をうろついて、ストー先生とは本を読んだり、武術の練習をしたり……ただ漠然とそんな日が続くものだと思っていたよ」

「私だって、似たようなものよ」

 アイサは答え、シンは黙って海を見つめた。

 アイサにはアイサの生活があったはずだった。しかし、シンは今それを聞く気にはなれなかった。

 セジュや、そこで待つ人たちのことがアイサの心を占めると思うと胸が苦しくなったからだ。


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