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act.47

「しかし……思い切ったことを考えたもんだ、国王様も」

「厳密にはこの案は俺の発案さ。元々はもうちょいとじっくりと魔王軍を殲滅していく予定だったんだが……急がなきゃならなくなった」

「そのせいで……いや、それはいい。だが、お前はなぜそんなことを……?」

「この国には、俺が元いたところより俺の好みに合ってる……そんだけだ。忠を尽くすには十分な理由だろ?」

 そう聞いた途端、ニライアスは黙り、しかめっ面を作る。

「俺だって、命を粗末にする気はない。だが……これで躊躇してみろ。もっと多くの命を失うことになる。もっと大きな損失を被ることになる。それは……避けたほうがいいのさ」

「…………」

「そんな顔するなって。決断が今更になって鈍ったらどうすんだ。さて……そろそろ行くかな。後のことは手はず通り頼むぞ」

「ああ。合流地点で落ち合おう」

 そう言って、ニライアスは王城へ、俺はその反対側へと歩き始める。西へ、魔王軍領地へと向けて。



 そろそろ怪我の軽い奴らは目を覚まして、早急に俺を追い始めているはずだ。そのためにわざわざ、魔力を残して来たんだ。来てくれなきゃあ、こっちが困る。そろそろ、不意打ちで失敗しました――――なんてことにならないように、広範囲に魔力のたまり場を作りだす。ソナーと同じ原理で、魔力を使用した探知機替わりである。我ながら理系でよかった。

(そろそろ来るか……その前に、ちぃとばかし喉を潤しとこう)

 近くに流れる小川を見つけた俺は、すぐそばに奴ら(追っ手)が来ているのを確認し魔力の探知範囲を狭め、同時にそっと水をすくって口に含む。なんだかんだでそれなりの時間日に当たっていたため、自分でも気づかぬうちに喉がかなり乾いていたらしい。染みわたるような感覚を覚え、ひとつ息を吐く。と同時に――――いきなり飛び出してきた無礼な拳の手甲を、CQCナイフで迎撃する。僅かに火花が散り、僅かにその周りが橙に照らされる。

「いったん退け!」

 ゼルキスが叫び、横っ飛びしたのを見たと同時に、周りから魔法が波のように押し寄せる。辺りに風障壁をまき散らし、しかしその間に周りを囲まれる。どうやら来たのは、第二、第三部隊だけのようだ。まあ、隊長の怪我が軽く正面切っての戦闘力が高いのがこの二部隊だけだから仕方がないと言えば仕方がない。

「なんだ、わざわざ追っかけてきたのか? ご苦労なこった」

 ハッシュパピーを構えながら白々しく言ってやる。最後の方にプレッシャーをかけたからだろう、ピクリと体を硬直させたのを確認した。とはいえ、こいつらはそんな隙はもはや隙ではない。

「同士討ちは恐れるな! 思うほど当たる物でもない!」

 そう言いながら突っ込んできたレムとゼルキス。レムがゼルキスとアイコンタクトを取った。つまり炎を纏ったレムの剣はブラフ――――? 確認するよりも動くのみ。予想通り飛んできたゼルキスの拳をかわしたが、それもハッタリ。その隙を狙って振るわれたレムの横薙ぎにナイフで応戦する。威力、スピード、範囲すべて申し分のない一閃を辛うじて受け止める。

「連携は流石と言ったところだな」

 取り繕った余裕の笑み。実際はかなり危なかった……というか、体勢を崩さなかったのが不思議だ。しかし、そんなことを考える暇もなかった。地面を殴ろうと拳を固めて振り上げたのを見て、咄嗟に地を蹴り跳ぶ。しかし刹那の差で間に合わなかったのと、空中という不安定な場所で俺の体勢は崩れ、当然の如くそこをレムに狙われる。ナイフで再び受け止め、レムの肩を足場にその向こうにある木の方へと跳ぶ。そのままの勢いで木を蹴り百八十度方向転換、背後を見せているレムへと抜刀ざまに斬りかかるが、直前に気付かれて刃がぶつかり合い、先程よりも大きく辺りが橙に照らされる。俺が着地すると同時にゼルキスが再び地面を殴り、俺の体勢を崩した。と、同時に、体勢を同じく崩したレムとパンチの隙があったゼルキス以外がなだれ込んでくる。慌てずに強風をまき散らして足止め、一斉攻撃を阻止し、次いでレムとゼルキスの大ぶりな一撃を止めようとナイフと蒼鬼を構える。が――――

(チッ、またフェイクか!)

 予想以上に、というか、刃と刃が、あるいは刃と手甲が触れた直後、その大振りな攻撃に見合わぬ後方への跳躍を見せる。と同時に、波のように押し寄せた様々な属性の魔法。一瞬驚いたが、魔力を集中させた蒼鬼とナイフで弾き、蒼鬼に魔力を集中させる。

「まずい……!」

「あばよ!」

 横薙ぎ一回転に蒼鬼を薙ぎ払い、辺り一帯を風と雷で薙ぎ払う。小石や小枝のように軽々と吹き飛んだ第二、第三部隊の面々だが、かろうじて数名気絶には陥らなかったらしい。


「なぜ……なぜ、亡命を……!」

 レムが問いかけてきた。その問いはもとより予想内――――俺は考えるまでもなくという風に答えた。

「俺があの国に愛想を尽かしたから……それだけだ」

 ただただ淡泊に言い放ってやったその言葉に、怒りからか下唇を噛むレム。

「嘘……! 嘘だ……! 先生…………!」

「もはや俺は……お前達の先生ではない。ただの『敵勢力の兵士』だ」

 そう言ったのを最後に、蒼鬼から再び風と雷を放つ。今度こそ気絶した。そう確認した俺はその場を後にするべく、今まで歩いていた方向に歩き出した。




 それから幾ばくかの時間が過ぎたころ。夕食を摂りながら一休みしていたころに、ゼウスとテュポンからコンタクトがあった。

「よ。調子はどうだ?」

「白々しいな。見てたくせに」

「まあな。それと、ニライアスもそろそろ動き出す。お前の覚悟は大丈夫か?」

「……問題ないさ。それに――――俺はそう言うことにゃ無頓着なんでな」

「どういうことさ。ゼウスだってそんなこと教えてくれなかったぞ?」

「ありゃ、知らんかったのか」

「……何かあったのか?」

「大したことじゃあないさ……そうだな、ただ一つだけ。俺はクラスじゃ、誰かを嫌っていたことはない。逆に、誰かを好んでいたわけでも、ない。向こうがどう思っていたかは知らんがね。さて、俺はここでそろそろ寝るぞ。ほらほら、明日も俺は早く起きなきゃならんから、とっとと寝かせろ」

「わかった。それじゃ、俺はゲームの続きでもするかな」

「拓海。気をつけろよ。この作戦、僅かな失敗だって許されないんだからな」

「わーってるって。そっちも、状況報告は頼むぞ」

「任せてくれ。じゃあ、良い夜を」

「ありがとさん」

 ゼウスとテュポンが帰っていったのを見て、俺も火を消して横になる。最近雨が多いが、今のところ雨の降りそうなほどの雲は全くないので、朝までは問題ないだろう。ここは山じゃないし、急な天候の変化もあるまい……そう考えて、俺は眼を閉じた。

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