act.46
時は戻り、まだ「タクミが亡命する直前」のことである――――
魔王討伐から数年……それなりに平和な時間が過ぎた。そりゃあ、魔王を倒したとはいえ、残党は今だ数多いるわけだし、何より魔王継承はやはり済んでいた。
とはいえ魔王を倒したことに変わりはなかったから、一気に攻め入った王国軍が境界を大きく西に押し戻し、俺の師事しているこの国王直属部隊も以前とは比べ物にならないほど戦力が増大している。元々身体能力だけなら俺じゃ(ゼウス達からタダでもらった)CQCがなかったら足元にも及ばないような奴らだ。戦術なんかの知識的な部分を補ってやれば、あっという間に力は伸びる。
「よし、今日はここまでだな」
……そんでもって今日は、その国王直属部隊と――――王国に別れを告げる日だ。いつも出入りする南向きの出入り口ではなく、東側の、国王の部屋に近い出入り口を目指す。
「先生、どこかへ?」
そんな小さな変化に気付いたんだろう。流石隠密を得意とするというべきか、イースが声をかけてくる。
「ああ、ちょっと国王様のところへ、な」
なるべくいつも通り振る舞いながら、国王室に近いその東口へと歩みを続ける。そう言えば……あいつらも呼ぶってことになってるから……あまり時間はないよなぁ。そう思い出すと、城内を歩く速度を僅かに速める。
「……よく来てくれた」
「いえいえ。大変なのはこれからですけどね」
「……本当にすまない…………」
国王室には、国王だけじゃなく幾らかの、国のお偉いさんが集まっていた。これから……いや、既に始まっている、この国最大の作戦のためだ。発案は俺……だから本当は、1人で実行したかった。だけど、どう足掻いてもそれは不可能。だから、こうして国王その他の重鎮に知れ渡っているわけだ。とはいえ、一口に重鎮といっても、本当に位の高い者の集まりで、知れ渡った数は王国の総住民数に比べれば1パーセントどころじゃない。そりゃもう、極秘作戦の面目躍如ってわけだ。
「件の大貿易の日まではあと?」
「25日ほど……しかし、魔王軍との悶着を知られてはならぬ。実質、20日ほどといったところか」
「んー……まあ、少々きついけど何とかなるかと。あいつら次第、じゃあないですか?」
「そうだな……では、あちらでの手引きは頼むぞ」
「ええ、なんとかバレずにやってみせますよ。それで……いいんですね?」
「ああ、構わん。貴殿が背負う重荷に比べれば……さ、やってくれ」
国王がそう言うと、今まで一切口を挟まなかった他の重鎮も、覚悟を決めたのか静かに目をつむる。軽く息を吐き出し、体の周りに魔力を溜める。それを一気に解き放ち――――部屋の内部を風と雷で吹き飛ばす。
直後、アクトをはじめとする国王直属部隊の隊長達が部屋になだれ込んできた。ここまでは想定通り……
「な…………」
「よう、お前達。来たのか」
「先生、一体何のつもりだ?」
「愚問だな、ゼルキス」
「来る……ッ!」
俺は出来る限りプレッシャーを放つ。俺だってこの数年、常に戦いに身を置いてきた。それなりにプレッシャーをかけることは出来るようになった。
「ふっ……!」
限界まで姿勢を低く落とし、最至近距離にいたイゼフとの距離を詰める。
「くぅぅっ!」
足を払い腕をとり、重心をあげて突き飛ばすように倒す。
「何を……くあっ!」
「なっ……ぐっ!」
次いで、そのそばにいた、突然の出来事に未だ困惑して反応が遅れたアクトの足を払い、バランスを崩す。すかさず自分を中心に円を描くように振り回してセシアを巻き込み、吹き飛ばした直後に腕を話してアクトを投げる。
「ちいっ! ぐおっ!」
事態に追い付き駆け寄ってきたゼルキスだが、懐をとり首筋をひっつかみ、足を払って引き倒す。
「くぅっ……くああっ!」
直後、イースの繰り出してきた右腕を取り、肩に勢いよく叩きつけ、その腕をへし折る。ごきり、と鈍い感触が下から、確実に折れただろう。そのまま地面に倒すと同時に、デフィアの方も雷で対処する。
「何を……!」
「分からないか?」
右手を繰り出したがかわされ、逆に繰り出してきた足払いを重心を落として受ける。襟をつかんだ左腕を、潜り込ませてきた右腕を使って捻り、外され、しかしこちらも腕を曲げることで回避する。右腕で肩を掴むと、一瞬対応が遅れて出てきた腕を左手で押さえる。足払いで重心を浮かせた後、宙を浮かせて叩きつける。首から叩きつけたから、気絶寸前まではいっただろう。
「く……ぅ……一体…………?」
「聞け、国王とその部下よ。俺は今から――――――――――魔王軍へと亡命する」
「なっ……!?」
「そん……な……!?」
辛うじて声を出したデフィアとセシア。それ以外は声を出せないらしい。
「すまないな? 俺とて俺の思想がある」
そう言いつつ、右手に風と雷の魔力を集める。それが大きな力を帯びると同時に床に叩きつけ、俺は宙に跳ぶ。爆風が辺りを揺らし、全員が気を失ったことを確認する。そのまま俺は窓から飛び降り、集合地点へと向かう。
「よぉ、抜け出せたみたいだな」
「ああ、きっちりとやることはやってきたぜ」
黄金色の髪をオールバックにした、ビーストの男。今回の作戦の協力者、ニライアスである。
「そうみたいだな。ニライアスだ、改めてよろしくな。ライ、でいいぜ」
「ああ、イチカワ タクミだ。この片道旅行……よろしく頼む」




