CODE.41
食糧庫『D-382』や、武器庫『D-184』を含め4つの施設を破壊した私達は、無事ゼルキス達と合流することが出来た。3つめを破壊するときには彼らの噂が回っており、私達の噂を流すように情報を操作、4つめを合同で破壊しつつ落ち合ったというわけだ。
「それで……国王様は何と?」
「ああ……言い難いんだが……増援は出せないらしい。それどころか、手が足りず、俺達も戻らにゃならんそうだ。一度、お前達にも帰還するように、と」
「ふむ……そうか。それでは、今から帰還するということでいいんだな?」
その質問に肯定を示したゼルキス。ちなみに、ではあるが、私達が今いるのは森の中。ゼルキス達はそれなりに鼻が利くため、私達を見つけてもらって合流したのだ。
「ところで……お前いくつ施設を潰したんだ……? かなり噂になっていたんだが」
「今のを含め4つだ」
「……ずいぶん派手にでもやったのか…………? まあいい、帰るぞ」
そう言って背を向けて歩き出したゼルキスとその部下。私達もそれに続く。この鬱蒼と木々の茂っている森の中では、私達でも十分に歩けるものの、流石に彼らのような種族には敵わない。
そんな私達が城に向かい数日。ムートが完全に空に上ったころ、ようやく私達は王城へと帰ってきた。
「ふう、いつぶりか……こんなに王城を懐かしく思うのは」
「珍しいな? お前がそんなことを言うなんて」
「アクト、いたのか?」
壁に寄り掛かっていたのは軍服姿のアクト。腕を組みもたれかかっている彼の部下は、既にどこかへ行っているか寝ているかしているらしい。
「今用事を済ませて帰ってくれば、噂で帰ってくると聞いたんでな」
「そうか……すまないが、私達は一度国王様に会わねば」
「分かってる。顔を見に来ただけだ。また後で合おう」
そう言って背を向けて歩き出し、右手を振るアクト。それを見送り、私達も国王様の元へと向かった。そういえば、ここ数年でアクトが以前より身振りが大げさになったようだが、私の気のせいであろうか。
「レムよ、此度は本当にご苦労だった……」
「いえ、任務の失敗、本当に申し訳ありません…………」
「いや、あれだけの戦力でよくあそこまで持ちこたえた……さて、本題に入ろう。ゼルキスから少し聞いたかもしれんが、今とてもではないが我が国で手が足りないという状況に陥っている。原因は亡命したあの男……あの男の亡命が、何者かの仕業により町中、いや大陸中に広まってしまったのだ。おかげで恐怖におびえるもの、あの男を追って更に亡命しようと言うもの……様々な反応を見せる民の者に共通するのは、全てあの男がいい影響を及ぼさぬと分かっていること……」
「…………」
言葉を出せない。私達も、彼を尊敬し、従っていた。それが、まさかこのようなことに陥るとは、だれも想像すらできなかった。
「とにかく、お主らは疲れているだろう。今は動向を見ることをせねば、向こうがどういった行動を起こすかはもちろん、どこにいるかもわかりはしない。しばらく休むついでに、この大陸の国民達の誘導をしてほしい……」
「分かりました。必ず……この騒動を止めましょう」
翌朝。ほぼいつも通りの時間、ムートが沈み日が昇ってしばらくたったという頃に、私は目を覚ます。そしてまたいつも通りに朝食や支度を済ませ、一つ息を吐く。体の中全てが入れ替わるようなその感覚もまた、いつも通り。これから国王様の部屋へ向かうということも、任務がある日であればまたいつも通り。
しかしまあ、よくもたった一度だけの、それも単独での亡命で、ここまで騒ぎになった物だ、と思う。ここだけが、いつもとは違う。言い方は悪いが、私達の国から魔王軍へ、あるいはその逆という亡命は日常茶飯事だった。だからこそ国民も慣れたもので、今日は誰が亡命したんだとさ、というような話題すらただの世間話になっていた。だが今回ばかりは、そんな世間話ではすまされない。やれ、この国も終わりだ、だとか、やれ、金は勿体ないが他の大陸に移住しようか、だとか、そこらじゅうでそう言った会話が飛び交っている。
「隊長……こりゃ大変ですね」
「ああ……リィナ、他の奴らはどうした?」
ええと……と言葉を詰まらせ、顔はこれぞというべき苦笑い。私はそれで、なんとなく察することが出来た。
「……帰ったらみっちり絞ってやろう」
「あはは……そ、それで……私達が管轄のこの街はどうするんですか?」
「どうしようもない、と言ったところだな……だが、幸いこの街から出ることが可能な道は2つだけ。お互いその道の街出口で陣取り、地道に説得するとしよう。それでも聞かぬものは止めるな、それもその者の決めた道だ」
はい、と笑顔でそう残して彼女は道を東へと走っていき、私も彼女とは反対方向へ駆けだした。
「だから、あの男単独では流石にこの国は亡ばないと言っているッ!」
「で、でもよ、あの魔王を単独で倒すような奴なんでしょう? こ、今度ばかりは……」
「だが魔王もまた単独だ。その魔王と同じ程度に力をつけている私達が束になれば、結果も変わるというの」
そんなやり取りを続けること数十回。既に100を超える国民達が亡命、あるいは出国を試みて街から出ていこうとしていた。不安があるのはわかるが、流石にここまでとなると若干おかしいと感じる。気持ちはわかるのだが、そこで魔王軍への鞍替えだけでも勘弁してほしいところだ。
そんなこんなで住民達の説得を続けていた時、遠くで微かに音が聞こえた。幸い、普段からそういうことを気にしている上にエルフである私だからこそ聞こえたらしい。住民達で気付いた者はいないようだが、私の心には不安のみが増えてしまった。
なんとか住人達を捌ききり、リィナと合流、王城帰還途中で見つけた他の隊員たちがさぼっている現場で一悶着あったものの無事帰還した。しかし、無事帰還した私達とは対照に、王城は非常にあわただしいことが外からでもわかった。私達は無言でうなずき合い、国王様の下へと駆けだす。それが、この事件の序章であるとは知らずに――――