攻略対象になってしまった
俺は乙女ゲームの攻略対象に転生した。本来なら、ヒロインと恋に落ちる未来が待ってるはずだった。
でも、このヒロイン何かがおかしい。知らないイベント、見たことない選択肢、あり得ない行動。
転生者か??
なら話は簡単だ、シナリオを壊される前に、大好きな悪役令嬢を保護しよう。
目が覚めると、知らない天井だった。いや、こういう始まりよくあるけど。
目を閉じてもう一回開く。
変わらない。
高そうなシャンデリア、見たこともない装飾、やたら広い部屋。
俺、こんな部屋住んでたっけ。
ベッドから降りて、ふらふらと鏡の前に立つ。そして固まった。
鏡に映っていたのは、知らない男。
黒髪に整った顔立ち、少し垂れ気味の目、上品そうな服。
知らない
でも、知ってる
ん?知ってるぞ、これ。
「……え?」
鏡に顔を近付け、左右に動くと映った男も動いた。頬を引っ張ると、まるで夢じゃないですよと痛みがあった。
そこにいたのは、俺が好きだった乙女ゲームの攻略対象のディルだった。
「……は?」
よく乙女ゲームなんて男がやるなよなんて、友達にからかわれたことを思い出した。
別にいいだろ!面白かったんだから。頭をぶんぶん振らながら、少しでも気持ちを落ち着かせるようにペタペタと顔を触る。
男とは思えない程手入れされた肌、サラサラで引っかかりすらない綺麗な髪、そして羨ましいほどシュッと高い鼻。全部本物だった。
……まさか。
俺、ディルになってしまったのか?しばらく鏡を見つめた後に思った。いや、正直、悪くない。
だってこんなイケメンだもん。
誰だって嬉しいよ、ウハウハだよ?
鏡の前で少し横向いてみる、かっこいい。もう一回見ても、やっぱりかっこいい。
うん。顔面偏差値って実在したんだな。
……でも、一つ問題がある。
俺、このゲーム全ルート出来てない!
「うわああああ!!」
思わず叫んだ。明日続きやろうと思ってたのに!!
俺が攻略終えたの、ディル、レオン、ジェイクの三人。あと一人だった!あと一人だったんだよ!!
何で今!?何でコンプリート前!?
過去の俺に伝えたい徹夜してでも終わらせろ!
ちなみに俺の推しはヒロインではない。
セレナ・ノワールそう!悪役令嬢だ。
彼女は傲慢で高飛車、そして嫉妬深い。そんな扱いだった。
でも、正直、現代の地雷系何ちゃらとかにに比べたら全然可愛いものだろ。
婚約者が他の女に近付いてるなら文句くらい言う。むしろ普通じゃないか?ゲームやってても思った。
……理不尽に嫌われてないか?って
別に好きなキャラ補正抜きにしても、不憫だった。
まあ、ストーリー自体はありきたりだったけど、
ヒロインと恋愛して、悪役令嬢が断罪される。
ここは涙なしでは語れないけどな!
思い出して少ししんみりした。……いや待て。
今俺、その攻略対象側じゃん。
一人で表情をころころ変えながら考えていると、
コンコン
扉がノックされ、返事をする間もなく静かに扉が開くとメイド服の女性が入ってきた。
「あら、起きていたのですね。ディル様」
……知ってる。サラだ。
ゲームでも何回か出てきた。
「お、おはようサラ」
自然に出た。身体の記憶かもしれない。
サラは少し驚いたような顔をしたあと、いつも通り頭を下げた。
よし。怪しまれてない。
そして今、心の底から嬉しい。
俺が俺様キャラのレオンや、セクシー担当のジェイクじゃなかったことに。
普段通りのテンションで誤魔化せる。
これ大事。
かなり大事。
「本日は入学式ですので、お支度を」
……え?
入学式?ってことはつまりゲーム開始日?
俺は笑顔のまま固まった。
終わった。




