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第三話 茂二と俊子

山間の集落で野菜や果物を育てている茂二と俊子、そして、飼い犬のコロ。老いた夫婦のある日の風景です。

「…さてと…したら、婆さん!…婆さん!…婆さんよ!返事せえ!婆さん!て!」

「…」

「婆さん!…」

ワン!ワンワン!

「ん?なんだ?コロ…婆さんじゃダメが?」

ワン。

「…ん〜…すたら、ん〜…なんだ…母さん!母さんよ!」

ワン!ワンワン!

「ん?なんだコロ?母さんでもダメが?あ?…ん〜…」

ボリボリボリボリ。

茂二はとりあえず頭の後ろを掻いた。

ワン!

「…ん〜…したら…俊子!俊子よ!…俊ちゃん!俊ちゃんまだか?」

「あ〜、はいはい、コロちゃん、父さんお待たせ〜…んふふ。」

「支度遅えなあ…な、なんだ…おめえ…にやにやこいて…」

「…だって…んふふ…俊ちゃん…って…」

「したって!すかたねえべや…何回呼んでも返事しねえがら、コロがワンワンって、ちゃんと名前ば呼ばねばダメだって吠えるがらよ…それにおめえ俊子だがら、俊ちゃんであってるべよ〜…なあ、コロよ…ごにょごにょごにょごにょ」

「あ〜らそうだったの!コロちゃんはいい子ねえ!いい子いい子!」

俊子は屈んで、舌をペロッと出してハヒハヒ嬉しそうなコロを両手で目いっぱい撫でた。

コロはコロで俊子に撫でられ上機嫌。

1人除け者となっている茂二は、それが邪魔くさかった。

「いいから、すったらにしてたら、日い暮れちまうべや!とっとと行ぐべ!」

「あ〜、はいはい、そうね…ささ、コロちゃん、出掛けますよ〜…ん〜…なあに?コロちゃん…コロちゃんはママと一緒がいいの?そうかい、そうかい…あ〜、可愛い!」

そう言って、コロはまんまと俊子に抱っこされご満悦。

俊子にベタベタ甘えるコロにも若干腹が立ち、更に自分を「ママ」などとぬかす俊子にも若干苛立った。

なんだなんだ二人して、おらを無視してベタベタしやがって。

二人とも少しはおらにもベタベタしてくりゃいいものを…なんだなんだよ、こんちくしょーめ!

コロの野郎、なんだ!いっつもめんけくてよ!

なんであんなにめんけえんだよ!

まあ、犬だからいづまでもめんけえんだどもよお。

ちくしょー!おらだって…まだ、ちょっとはめんけえのによ!

それに…母さんだって、おらが俊ちゃんって呼んだんだがらよ…母さんも茂ちゃんって呼んで返せばいいのによ…それを父さんって…なんだよ〜…


天気の悪い日以外は、ほぼ毎朝畑に出る。

そして、以前ほどではないものの、育てた野菜や果物は、地元の道の駅に出荷している。

数年前からは、俊子が縫った巾着やら手提げ、エプロン、刺繍を施したハンカチなども、それらと一緒に置いてもらっている。

農作物もさることながら、俊子の縫った物もなかなかの評判で売れ行きも結構。


いつものように大事に育てた野菜や果物を、納屋で袋に詰め終わると、茂二と俊子と犬のコロは、いくらか塗装が剥げた軽トラで道の駅へ。

コロは助手席の俊子の膝の上で、犬らしい可愛さを振りまいている。


到着した道の駅で、職員のかずおさん達に手伝ってもらい荷物を下ろし、自分達のコーナーに全部並べ終えると、俊子はやはり道の駅に自分達で育てて収穫したものを下ろしている仲良しのご婦人達と楽しそうにおしゃべりを始めた。

茂二はイートインスペースで、コロと一緒にそれを眺めた。

やっと抱きかかえたコロは、茂二よりもやはり俊子が気になっている模様。

「…なあ、コロよ…ああやって、よその母さん達で喋ってるけんどもよ…こして見だらよ、うづの母さんが一番だなあ…なっ…コロよ!おめえもそう思うが?…ははは…すたけんど、コロ、今、おらが言ったのぜってえ母さんさ言ったらなんねえど…言ったら、すんぐ調子こくがらよ、母さんはよ…」


「ああ、父さん、コロちゃん、待たせたねえ…」

ようやく俊子がこちらに戻って来た。

そのタイミングでコロを抱きかかえたまま、茂二は立ち上がると「あっちでソフトクリームさ食べるべ」

毎朝来ている道の駅で、こんな風に何かを食べるのは稀だ。

「あら、そう」

俊子は少し不思議に思った。

けれども、茂二がどうしてそんな誘いをしたのか、売り場に行ってすぐわかった。

「シャインマスカットソフト」が今日から販売だそうだ。

父さん、毎年このソフトクリーム出るの楽しみにしてるっけ。

ソフトクリームコーナーでアルバイトをしている、千田さんとこのユッコちゃんは、「内緒だよ」と、ソフトクリームの「巻き」を一段多くしてくれた。


外の木陰のベンチに二人腰を下ろすと、前からそよそよと気持ちのいい風が吹きつけてきた。

「あ〜、美味しい!」

「んだなあ、うめえなあ。」

コロは二人の足元で丸まって目を閉じた。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

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