第二話 若山さんと金子くん
大好きな「パワームーブメント」のジェリーがアイドルと熱愛発覚!小学生の頃からずっとずっと好きだったのに…
ああああああ〜!嘘でしょ!嘘でしょ!誰か嘘だって言って!
小学生の頃からずっと大好きで応援してた、「パワームーブメント」のジェリーが…ジェリーが…熱愛って…。
やっぱり芸能人って、アイドルとかモデルとかと付き合っちゃうんだね。
ヤダな、そういうの!
信じられない!
あのジェリーが…あたしのジェリーが…あんなアイドルなんかと付き合ってるなんて!
しかも、アイドルでも、なんつうか、もうちょっと…もうちょっと可愛い子なら許すけど、よりによってあの、今まで一度もセンター獲ったこともなく、グループの人気投票でも最下位から3番目ぐらい人気ないあんな子と付き合ってるなんて!
あんなブスと付き合ってるなんて!
ヤダよ〜!ヤダ!ヤダ!ヤダ〜〜〜!
あたし…いつか自分も芸能人になって、ジェリーと一緒にお仕事したり出来たらって思ってたのに。
今すぐにでもアイドルとか女優のオーディション受けたりしたいけど、親が中学卒業するまで絶対ダメ!って言うから、ぐっと我慢してたのに。
だから、本当はもう辞めたいけど、「いつの日か」の為に、ピアノもダンスもレッスンいっぱい頑張って、ジェリーに相応しい女になりたいって必死にやってんのに。
ジェリーが髪の長い人が好きって言ってたから、あたし、髪だってこんなに、腰まで伸ばして…
本当は髪だって切りたいのに。
重たいし、絡まるし、結ぶのも毎朝一苦労で。
後、洗ったり乾かしたり手入れも大変で、お母さんから抜けた長い毛が洗面所とかに落ちてるの「汚いから切っちゃいなさい!」って毎日すごく怒られるから、本当はばっさり切りたいけど、ジェリーが好きだって言うから我慢して…
でも…でも…ジェリー…あんなショートヘアの子と付き合ってるなんて。
あたしの今までの努力は?
報われないの?
…もう、何もかも嫌だ。
このまま死んじまいたい!
ジェリーはあたしの初恋だったの。
とりあえず頑張って普通を装った。
仲良しのさっちもゆっちもよっちも、あたしを精一杯慰め、一緒に相手のアイドルの悪口を言ってくれた。
それがあったから、今日のところは踏ん張れた。
学校の帰り道、皆んなと別れたあたしは、橋の欄干から下を流れる川の流れをぼんやり見つめながら、色んなことを考えてた。
夕暮れ時の黄色い光が川の動きに合わせて、キラキラと眩しい。
キラキラした世界のジェリー。
あたしだけのジェリー。
テレビのあちら側から、いつもあたしにだけ素敵な笑顔を見せてくれてた。
…ううん…違うか…ジェリーはあたし以外の女の子達にも、同じ笑顔を見せてくれてたんだね。
例えバカだと言われても、あたし、ジェリーのお嫁さんになるのが夢だった。
でも…ジェリー…
鞄から取り出したジェリーの写真が載った新聞記事の切り抜きを眺めてると、涙が勝手に溢れてきた。
鼻をかもうと制服のポケットをゴソゴソやってると、不意に後ろからびゅーっと強い風。
「あっ」と思った途端、手元からジェリーの写真の記事がひらひら〜っと川の方へ。
慌てて身を乗り出すと、「危ないっ!」
大きな声と共に後ろからガバッと抱きかかえられた。
どすん!
「アイタタタタ…何すんのよ!あっ!ジェリー…あ〜あ〜あ〜あ〜…」
一瞬のうちに手から離れた紙切れは、とっくに見えないところまで行ってしまった。
後ろに大きく尻もちをついたまま、私はもうすっかり見えなくなったジェリーの紙切れを目で追いかけ、呆然と川の方を見つめた。
「…タタタ…大丈夫?若山さん、なんで川に飛び込もうなんて…」
「え?ち、違うっ!あたし、川になんて飛び込まないわよ!だって、だって、ジェリーが…ジェリーが…ジェリーが〜〜〜〜…」
そこから私を助けてくれたらしい隣のクラスの金子くんに、ここまでの経緯を長々、長々、長々話すことになっちゃった。
成り行きとはいえ、たいしてよく知らない隣のクラスの金子くんに、私のモヤモヤや毒をすっかりほとんど聞いてもらうと、心が妙に軽くなった。
「…へ〜え…そっかあ…若山さん、そんなにパワムーのジェリーファンだったんだねえ…へ〜え…そうなんだあ…まあ、僕もわりとジェリー好きだなあ…ジェリーのボケは、日本一かもなあ…」
「世界一よ!ジェリーのボケは、世界一…」
「あはは…そっか、世界一かあ…じゃあ、今度こそ、漫才チャンピオンシップで優勝できるといいね。」
「…ううん…優勝なんて出来なきゃいい…」
「…?」
「…だって…ジェリー…裏切り者だもん…」
「裏切り者…って…」
それぐらい好きだったんだもん。
「もうそろそろ帰ろっか。」
「うん…そだね…」
立ちあがろうと思ったら、右足がカクンとなってとても痛い。
どうやら尻もちをついた時、足首を捻ったらしい。
「イタタタタ…」
「大丈夫?家まで送るよ。」
金子くんの広い背中におんぶしてもらった。
「…ごめんね、あたし重いでしょ?」
「ううん、全然。それより若山さん、しっかり掴まってて!落っこちて違う怪我でもしたら大変だからさ。」
優しい。
金子くんの広い背中…頼もしいな。
ジェリーには会ったことない。
勝手に好きになって、勝手に失恋して…あたし、馬鹿みたい。
家に着くまでの間、金子くんの背中でまた少し泣いた。
おんぶしてくれた金子くんに、今度ちゃんとお礼をしなくちゃ。
「ありがとう」って気持ちを込めて、クッキーでも焼こうかな。
その前に、金子くんにクッキーは好きか聞かなくちゃ。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。お話はまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。




