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あの子のためなら訳もなかった①


「と、まぁハブられてた私と、スミレちゃんは友達になってくれた。あの頃の私は、今は自分でもおかしかったと思うし、皆の態度も仕方なかったって思うけど、周りの反応も気にせずに、私の傍に来てくれたスミレちゃんに、私は救われたんだよ」


 高速で過ぎ去っていく景色を車窓から眺めながら、スミレとの出会いの回想を、簡単にまとめて加村に話して聞かせたアヤノは、反応のない加村を訝しんで視線を向けてギョッとした。

 加村は顔を茹でた甲殻類のごとく上気させて怒っていた。


「どうしたの?」

「は、蓮実さん。その小学校のクラスメイトたちは、うちの高校にも来てるの?」

「え? どうだろ、知らない」

「そ、そっか。いや、来てたらこの怒りも向けやすかったんだけど」

「なんで加村君が怒ってるの?」

「なんでって、それは、虐めなんて普通許せないじゃないか、ましてや蓮実さんになんて」

「へぇ~。私はもう許してるけどね」

「え? 許してるの?」

「うん。むしろ心の底から感謝してる」

「なんで⁉ 悪口を言われて、馬鹿にされて、最後は無視されて辛くなかったの?」

「あの時は辛かった。けどね、あの時皆からハブられてたから、一人ぼっちの特別になれてたから、だからスミレちゃんと仲良くなれたの。だから皆には感謝してる」

「それ、本気で言ってる?」

「本気。だからありがとうって思ってる。特に仲良くしたいとは思ってないけど」

「そ、そうだよね。虐めてた奴らなんかと仲良くはしたくないよね、うん」


 何やらもの言いたげな加村は、それでもなんとか納得しようとしているようで、自分に語り掛けるように頷いていた。

 そんな加村の様子に、アヤノは若干不満だった。

 アヤノの予想では、ここは、泣いてスミレの素晴らしさを称賛するところだ。どうでもいいその他大勢に、感情を向けている場合ではないところなのだ。

 スミレに気に入られたいと思っているはずなのに、なんともズレた男だと思った。


「まぁ、私たちが仲良くなったのはそれから、それからずっと一緒にいた。一昨日までは、だけどね」

「……真相を聞き出そう」


 落ち着いたのか真剣な表情に戻る加村。

 それを見て、美しい思い出に浸っていたアヤノも現実に戻る。


「桑野から連絡は来た?」

「何も。メッセージに既読も付かないし、電話もでない。しまいには電波がないか、電源が入ってないって」

「やっぱり、そうだよね。俺はそんなに親しくなかったからあれだけど、夜になってから、何人かの友達にも聞いてみたんだ。誰も桑野から連絡は来ていないって言ってた。きっと今朝も変わらないと思う」

「スミレちゃんは、誰にも返事をしてないんだ」

「そうみたいだね。こうなると昨日も言った通り、やっぱりおかしい。いくら引っ越しで忙しいとは言え、移動時間とか手が空く瞬間はあったと思うし、夜になれば、落ち着いてスマホを眺めることくらい出来たはずだよ」

「けど、スミレちゃんはスマホを見ていない?」

「うん。ただ、俺たちくらいの高校生がまる一日スマホを見ないなんて、ありえるかな? 皆に友好的で、忘れ物とかしたこともないほど律儀な桑野が、他の人はともかく、一番仲良しの蓮実さんにまで、何も返事をしないなんて、ちょっと考えられない」

「いつもは二、三秒で既読が付いてた」

「そ、それは早すぎると思うけど、まぁとにかくおかしいよね。だから、こうも考えられる。桑野はスマホを見なかったんじゃなくて、見れなかった。そういう可能性」

「見れなかった、か」

「いろいろ理由はあると思う。その中でも事故とか、なにかよくないことに巻き込まれてなければいいんだけど」

「うん。私を無視してるかもしれないのは、最悪それでもいい。だから、無事でいて欲しい。それさえ確認できたら、私は満足できる」

「蓮実さん……」


 なんとなくしんみりした空気が流れて、会話が途切れた。

 アヤノとしては、このまま黙っていてもなんら困りはしないのだが、隣に座る加村は、視線をきょろきょろさせて何か話題を探しているようだった。流石に特に親しくもない女子と無言はキツいのかもしれない。かと言って別に何か話題を提供しようとも思わないアヤノが、また窓の外に視線を向けた時、前の車両から車内販売の売り子さんがやってきた。それを見た加村が、これ幸いにと、前かがみになる。


「蓮実さん、何か買う? 新幹線と言ったらやっぱり駅弁だよね! ちょっと高くてもここは買いだと思うんだ。朝ご飯食べてなくてさ」

「私はお腹いっぱいだからいい」

「そうなの? ご飯食べてきた?」

「栄養補給のゼリーを飲んだ。もう今日はなにも入らない」

「……蓮実さん。健康のためにもう少し食べたほうがいいよ」


 アヤノは特に何も買わず、加村は、お弁当から出ているヒモを引くと暖かくなる加熱式の牛タン弁当を売り子さんから購入していた。

 買ったお弁当を背面テーブルに置き、何やら思案している加村。

 何も買わずにただ外を見ているだけのアヤノと自分の買ったお弁当を見比べては、苦悩しているように頭を押さえている。


「気にせずどうぞ」

「……ごめん、いただきます」


 結局、少し鬱陶しくなったアヤノが声をかけてあげるとすぐに食べ始めた。

 遠慮していたのだろうが、本当にお腹はいっぱいのアヤノにとっては、何もいらない。変に気にすることなく食べればいいと思った。

 加村が弁当を食べ終えた後、それぞれで学校に連絡を入れた。

 電話に出ただけの担任でもない教師は、体調不調と理由を伝えると、特に疑うこともなく了承した。

 これで心置きなくスミレを探しに行ける。アヤノは気持ちを落ち着けるために外を眺めた。

 背の高い建物がひしめいていた駅を離れると、住宅街が広がった。そのまま進んで行く新幹線は、すぐに住宅街も抜けて、さほどの時間も走っていないうちから、建物がほとんどない、田舎といって間違いないような景色の中を走っていた。

 見えるのは、ほとんど畑や田んぼ、時々数軒の家。あとは山と、その山をくりぬいた真っ暗なトンネルの壁。だいたいそんな代り映えのない景色が続き、停車駅が近づいてくると、また少し建物が密集してくる。それも駅を離れるとすぐに田んぼに早変わりした。

 静かになった隣を見ると、お弁当のゴミを抱えたままの加村は、背もたれに寄りかかり、口を開けて眠っていた。

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