幕間2
「その病気に罹ったのがどうしてそのヒトなのか。そんなこと考えたって仕方がないの。ただそういう人生があるというだけ。何万人に一人の病気に罹るヒトだって、何万人に一人はいるわけだし」
運命という言葉は、ここでは使わないけれど、と回さんは一言付け足した。
アタシは黙って話を聞く。
運命という言葉の解釈について、いちいち物申したくなる性格でもないのだけれど、恐らく、アタシのことを運命という言葉に敏感な運命論者だと思ったからそう言ったわけではないのだと思う。彼女は、そういう会話を面倒に思うヒトではない。むしろ論じたい相手となら、一晩中だって「運命とは何か」という議論を繰り広げるだろう。
きっと純粋に、彼女の言いたいことを伝えるために、誤解を生まないために付け足された一言だ。
その意図までは、わらかないけれど。
落ち着くことなく揺らぐティーカップの紅茶の表面に、回さんの唇が触れ、少しあとに離れる。
「あなたは病気に罹っている。そう。例えば体が動かなくなる病気もあれば、同じように、心が動かなくなる病気だってある」
「躁とか鬱とか、そういう種類の話ですか」
「さあ。私は医者ではないから、どういう種類でどこに分類されるのかなんてわからないわ。でも多分違うのじゃないかしら。カナタ、結構活発だし、そういう病気なら、カナタももっとおとなしくなるんじゃないかしら」
「アタシ、そんなに落ち着きないですか」
「さあ」
曖昧に返事をする。具体的な答えは返してくれない。
答えをはぐらかされているというより、それほど興味がないから答えを用意していなかったという感じがする。
今ひとつ深刻な気分になれないのは、気のない話し方のせいなのか、話の内容が突飛だからなのか。
それとも、鵜呑みにするような内容の話ではないからだろうか。
少しの、長い溜息を付き終わるくらいの間をおいて「けれど」と回さんは答えを続ける。
「あまり気にしないで。わたしがこんな話をしているのは、ただの気まぐれだから。別に昨日今日にあなたは病気になったのではないし。ずっと患っていたのだし」
「ずっと患ってたんだ」
「そう。それに、早く治さないと取り返しがつかないことになるとか、そういう話でもないの。ただ、気まぐれで言ってみただけ」
本当に言葉の通り、深刻さも真剣さもなく、気まぐれな回さんはリビングの棚から紅茶のお供にソフトクッキーを取り出して食べ始めた。




