5-24 「ほらほら、とろけるチーズですよ」
「すごい、このラップサンド、チーズが入ってる!」
大きな外堀を、またひとつ埋めたことに気がついていないユーフェミアは、ラップサンドの奥からとろりと溶け出たチーズに興奮していた。シャキシャキのレタスとトマトに、ディシャール由来の野菜をいくつか。それからカレーのスパイスがしみ込んだ、ささみらしい鶏肉を巻いたラップサンドの奥から、まさかチーズがとろけてくるとは思ってもいなかったのだろう。
「ほらほら、とろけるチーズですよ」と、上機嫌なユーフェミアはエミールにどうぞと言わんばかりに差し出す。
さきほど、キングスベリーのあーんは可哀想なほどに抵抗していた癖に、カレーに興奮しているせいか、はたまた未亜だった時の側面が如実に出てしまっているのか、ユーフェミアは浮かれているようだ。
なお、未亜としてこの行動は、妹の莉愛に食べさせる気持ちと同じノリだろう。
色々なことに気がついた瞬間に、ユーフェミアは顔から火を吹く勢いで恥ずかしがるに違いないのだが、エミールはそれに気がつかないふりをしながらユーフェミアの手にあるラップサンドにそのままかじりつく。
シャキリとしたレタスの合間から、とろりとしたチーズがとろけだした。カレーと一緒にチーズを食べると言うのは、エミールには初めての経験だったが、なかなかどうして悪くない。
「エミールは、何か好きな料理とかあるの?」
ラップサンドを食べて満足そうにしていたエミールを見て、ユーフェミアはそう言った。
アレクシオに来てから招かれている立場と言うこともあって、ユーフェミアは夕食のほとんどをエミールと共にしている。
そのことについては、文句はない。一切ない。
アレクシオの料理は美味しいし、リブレット家の料理もとても美味しい。
領主代理と言う立場であるとはいえ、領主代理としての仕事をしながら女主人のいないあの城で、ユーフェミア達にもてなしの用意をして采配をふっているのはエミールだ。
たとえ、食事中ににこにこと見つめられて、気まずい思いをしようと、口を開けば好きだの可愛いだの砂糖を吐きたくなる台詞を言われようとも、それでも客人としてもてなしを受ける義務があると思っている。
それにエミールはともかく、アレクシオの屋敷に仕える使用人たちはどの人も、さすが12公爵家の使用人だけあって、とても気が利く優秀な使用人ばかりである。
そんなリブレット家の使用人に対して、ユーフェミアは個人の感情で泥を投げる愚かな人間ではないつもりだ。
そのユーフェミアから見て、エミールの食に関する好き嫌いはあまりよく分からなかった。
あの婚約破棄の茶番劇からおよそ一ヶ月、アレクシオに来てから1週間ほど経過するところであるが、食だけでなく、ユーフェミアにはエミールが何を好きかまるで分らないのだ。
未亜としての経験上、ユーフェミアはおそらく材料さえあれば大抵のものが作れるだろう。
この世界には電子レンジはないけれど、魔石式のオーブンは中流家庭では一般的だ。最悪、自称だが、前世ではパティシエだったらしいカインに相談すれば、調理方法はわりかしなんとかなる気がする。
そうであるなら、せっかく料理をするのだ。場所を提供してくれたエミールの好きな物を作りたいと思うのは、色恋抜きであってもユーフェミアには当然の行動である。
それ故の質問であった。
「好きな料理? うーん、きっとユフィの作ったものなら何でも好きだよ」
にこりと笑ってそう言われ、ユーフェミアは「話にならない奴だな?」と思った。
「そういうことじゃなくてですね!」とユーフェミアは根気強くエミールから聞き出そうとするが、カインからすればそれは無駄な努力に見えてしょうがない。
エミール・リブレット、もしも地球に生きていたなら「栄養取れてたなら十分じゃない?」といいながらサプリで生活するタイプの人外である。
元々、食に対して興味が薄いのだ。
おいしかろうが、まずかろうが、胃に入って栄養になれば十分だし、食事と言うのも日々のルーティーンの1つ以上に考えたこともない。
魔力を使用するにあたって、ある程度の健康と栄養が必要であるため、食は細くはないが食事を楽しいとは思った事が無いと言い切っても過言ではない。
それでもここ最近は、ユーフェミアと食事することである種の楽しさを見出してきているだけ、だいぶマシと言うものだ。
多分、これ以外の事でもユーフェミアと過ごすことで人間レベルが5くらい上がっている気がしている。
まぁ、まぎれもなく気のせいなのだが。
まだまだ続くよデート回です。




