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冗談じゃありませんわ!  作者: salt
第四章 王都を離れて
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4-10 「チートなお助けキャラとかじゃなくて、ラスボスとか黒幕とか諸悪の根源みたいな、そういう概念的なあれだよ!?」



「転生者!! 転生者なの?! ユーフェミア! しかも異世界転生!!」


 そう言って、小さな竜は子犬のように尻尾をぱたぱたと振った。

 エメラルドグリーンの宝石のような小さな瞳を懸命に瞬かせながら、ユーフェミアに期待のこもった視線を向ける。キラキラとした瞳で、純粋に嬉しそうにされるとユーフェミアは嬉しくなった。

 あれから程なくして意識を取り戻した小さな竜(仮)は、エミールから改めてユーフェミアを紹介されると、大変喜びながらユーフェミアの周りをくるくると飛び回ってみせた。そうしてはしゃいでいる様子は完全に犬である。


 ユーフェミアがどうしていいか分からずにいると、それを察したエミールに手をとられ自然とソファに案内された。ふかふかのソファに体を預ければ、飛ぶことに満足したらしい竜が颯爽と下りてくる。

 無意識に両手を差し出せば、彼はすとんとそこに降りてきた。さきほど抱き上げた時も感じたが、小竜は見た目よりもずっと軽かった。羽のように軽いと表現することもできたが、そこには確かにぬくもりを感じるような重さがあって、確かにここにある命なのだと理解する。


 見た目からトカゲのようだと思っていた小さな竜(仮)は、鱗を持たない生き物だった。

 ふわふわとした毛の奥には、やわらかでもちもちとした哺乳類の肌質を感じ、小さな前足にはとがった爪が生えているけれど、足の裏に感じるのはふにっとした肉球だ。

 手足には細かな毛がふんわりと生えていて、強いて言うなら雰囲気は未亜の記憶にあるハムスターに似ているような気がした。見た目は竜で、爬虫類の類いに見えるのに、翼を生やして飛んでいるし、はしゃぐ様子は子犬のようにも思えてなんだかとてもちぐはぐだ。


「……あなたも、転生者なんですか? ……えっと」

「厳密に言うとちょっと違うけどね! あ、僕の名前……、うーんとどうしよう。ややこしいんだよな……ねぇエミール、紹介してよ、紹介」

「やだ。めんどうだもの」


 エミールは言いながらユーフェミアの隣に腰かけて、サイドテーブルに用意されていた蓋つきの小鉢を開けると、中から砂糖菓子のようなものを取り出して口に放り込んだ。それからもう一つ手に取って「はい、ユーフェミア。口を開けて、あーん」とユーフェミアに促すが、彼女はそれをぎろりと睨み付けて「結構です」と断る。


「それで、この方のお名前は何と言うんですか?」


 ユーフェミアがそう尋ねると、エミールはひどくつまらなそうな顔をして、「本名はね、僕も知らないことになってるよ。だからあだ名でカインって呼んでるんだけど、ユーフェミアならこれの正体に気が付くんじゃないかな?」などという。


「正体?」

「だーかーらーさー! 正体って言うんじゃないんだって! あのね、前世の僕は前世の僕で、今世の僕は今世の僕だし、厳密に言うと前世の僕は平行世界の僕だから今の僕とは別なの!」

「そんなややこしい説明したって仕方ないでしょう? 僕はそこに労力を割くくらいならユーフェミアの読書を見守っていたいなぁ」

「うっわ、気持ち悪っ。どうしちゃったの? そんなキャラじゃないでしょ? 君って基本的に他人なんかどうでもいい、面白くなければ興味ないみたいな人格破綻者じゃん! そんな君が、エミリア以外の女の子に興味があるなんて、空から矢でも降らすつもり!? 矢で済めばいいけど、槍が降ってきたらどうするんだよ!」


 ぺちゃくちゃと、ものすごい勢いでお喋りする小竜、カインを、ユーフェミアはしげしげと見つめた。エミールに食って掛かる様子が面白くて、思わず口元が緩んでしまいそうになり慌てて手で隠す。


「いまね、僕、ユーフェミアに求婚中なの」

「はぁ?! 求婚??! 君が!!? 性格破綻者の君が、求婚!?」


 エミールの発言を聞いたカインは、悲鳴のようにそう叫ぶと、勢いよくユーフェミアを見上げた。なんとも必死そうにエメラルドの瞳をユーフェミアに向けたカインは、まるで懇願するような声音で「こんなやつやめときなよぉおおお!」と訴えかける。


「え、まじで? 正気? だってこいつ、とんでもない性格破綻者だよ?

 こいつが10歳の頃にやったこときいた?

 

 ある日突然「つまんないからお散歩する」っていって、領地内にあった複数の魔獣の森単身制圧だよ?! 単身制圧!!

 魔獣の森って、地球の日本のゲームの尺度に合わせたらS級ダンジョンですよ!

 ラスボス戦前に解放されるような、アルティメット的な、めっちゃめんどくさい中ボスクラスの魔獣が、モブみたいにうじゃうじゃいるようなダンジョンですよ!

 どこの世界に、S級ダンジョンお散歩して制圧する公爵子息がいるんだよ!!

 

 おかげでリブレット領魔獣の発生ゼロになっただけど、ねぇ、10歳! 10歳だよ? 10歳ってだいたい小学4年生だよ!?

 日本でなら「いえーーーーーい!!」ってイケイケしはじめてくる自称無敵な年頃だよ!!?

 本当に無敵になってどうするのさ!!

 いや、これは最初からめちゃくちゃ無敵だったけども!!


 意味が分かんないよ!!

 リブレット公爵の胃痛を押さえる顔めちゃくちゃ可哀想極だったんだよぉ!!

 息子のチートに頭悩ませる公爵当主ってなんなんだよ!!


 結局その後、15歳までに「気が向いたから」って理由で各領地のめんどくさい魔獣生息地域単身制圧して回って、ついでに「面白そうだから」っていう理由で企業協力しまくって、自覚なく恩売りまくったチートオブチートだよっ!?

 意味が分からない!! 何度だって言うけど意味が分からない!!


 まぁ、いい。

 色々言いたい事あるけど、まぁいいさ!

 おかげで今に至るまで、リブレット家が12公爵家で単独優位とれることになったからね?

 結果オーライって奴だよ多分!!


 でもさぁ!!


 それに僕を連れていったんだよ!! こいつは!!

 普通連れていく? ねぇ、連れてかないよね!

 こんなに可愛くてぷりちーで、庇護欲そそるフォルムの創造主代理連れて、国内のSクラスダンジョン攻略する???


 しかも僕は嫌がってるのに「なんにもしなくても話し相手にくらいはなるでしょ?」とか抜かしたんだよこいつ!


 あのね! ユーフェミア嬢!

 この男はね! エミールはね!

 クトゥルフTRPGやったら間違いなくAPP18でニャル様だし、ただそこにいるだけでラスボスみたいなやつだよ?!

 チートなお助けキャラとかじゃなくて、ラスボスとか黒幕とか諸悪の根源みたいな、そういう概念的なあれだよ!?


 本当に、本当に結婚して良いの?

 いい所なんて浮気しないことと一途なことと、正直なとこと顔しかないのに?!

 

 人間ぶってるだけの人外で、正直という名のもとに全てをばっさり切って笑う、外見優男詐欺の代表みたいな奴だよ?


 絶っっっっっ対、苦労するよ?

 こんなのと一緒になって苦労することないじゃん!

 マシな男もっといっぱいいるって!! やめときな……ぎゃああああ、いたいいたいいたい!! くびしめないでエミール! しぬ! ぼくしんじゃう! ぼくしぬわけにいかないっていって……ふうぇえええん、たすけてゆーふぇみあ!」




メインキャラの中で彼が最後の登場人物です。

察しが良い方で前作をご覧になった方は、彼が誰なのか分かるかもしれないです。

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