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56話 気付かぬ吸血鬼達

「お、女だ!後衛、魔術で人間の女を狙え!黒い男は高位の魔族だ!人数が減るまで、全力で抵抗しろ!!」


 土の封印施設の、封印の間。

 そこに何度も押し戻されている鬼系魔族…吸血鬼の群の後ろの方から、姿は見えないものの誰かが指示をする声が聞こえます。

 明らかに矛先は私です。…え、これ、さっきの攻撃のせいで私が標的にされちゃった感じですか?

 ちょっとシキさん!聞いてないですよっ!?


 私は先程一名を消滅させた武器を下ろそうか迷いました。だってこれ…魔砲筒って重いんです。

 しかも私の片手剣とは柄の部分が全く違う形状ですし、振り回すのも大変そうです。狙われるなら、身軽になった方が、断然回避行動を取りやすいですし。

 そして邪魔になりそうだと判断した私でしたが、床に置きかけて、はた、と気が付きました。


 これ、もし下に置いてて吸血鬼の誰かに持っていかれたら問題ですよね?


 だってヒガンさんが設計した、ってシキさん言ってましたよ?

 シキさんの育ての親の設計ですよ?

 ………親から貰ったも同然の物を敵に取られたりしたら、私なら呆然となってしばらく動けなくなると思います。


 つまり下ろせないんです!


 こうなればヤケです!撃ちまくってやります!シキさんだって、きっと全部避けてくれるハズです!

 手足が震えてるせいで、どこに魔術砲が飛ぶか判らないですけどね!!


 私は神力の大量消費覚悟で『火壁(ボア・ヘッツ)』を、自分の前方の壁から壁まで一直線に、自分の正面のみ避けて顕現させました。

 大量消費を覚悟したからには、初!術名無しでの発動!なのですが…。光属性よりは消費が多いものの、前に伊耶那岐(いざなぎ)の宮でトロンベさんと戦った時ほどではありませんでした。

 あの時は下級の火の玉にもかかわらず、ガンガン神力削られてましたけどね!

 う~ん、やっぱり技量が伸びてますね。


 吸血鬼の群の方から、謎の騒めきが数秒上がりましたが、気にしたら負けです。

 何せ私、防御系の神術はコレしかできないので、これに思いっきり力を込めて、水属性も風属性も土属性も耐えないといけないんです。

 …まあ、火の封印施設の時、シキさんの行動のせいで土属性の術には効果が無いとしか思えなくなっているので心配ですが。

 ちなみに火属性については、込められた神力が少しでも上であれば確実に防げるので、今は横に置いておきます。


 準備は整いました。既に火と水と風の攻撃が数回、『火壁(ボア・ヘッツ)』に当たっていますが…、いざっ!!


 私の周囲に、赤い光の粒子が踊ります。それに合わせて、白い光の粒子も放出し…。

 多分、本当は自分の周囲に属性変換した神力を出す事なく、いきなり砲身に込めて引き金を引くのが正しいやり方なんだとは思います。

 ですが、未だ太陽の属性に慣れていない私は、目で確認しなければ、属性を混合させて太陽の属性へと変換する事ができません。

 おかげで、シキさんみたいな連続発射ができないのですが、最初の時よりは混合する早さが上がっている気がします。…気がするだけでないと良いのですが。


 シキさんも私の『火壁(ボア・ヘッツ)』の事を解っているのか、土属性の攻撃だけは叩き落してくれているようです。

 え?何故予測系なのか、ですか?

 実はですね、シキさん、先程の群の奥からの声を聞いた途端、封印の間の群の中に飛び込んで行ってしまったんです。

 おかげで前衛の方々が後ろからの攻撃に警戒してほとんど前進せず、封印の間の中から魔術を飛ばすだけで留まっているのですが、どうやって察知しているのか、土属性の攻撃が来た途端、私の『火壁(ボア・ヘッツ)』の前方から水流が発生して、攻撃ごと封印の間へ押し流すという現象が…。

 でも、それ以上はありません。太陽の属性作成中に正面へ来た攻撃は、横へ動くだけで回避できるので、問題無いからだと思います。


 よしっ、太陽の属性が用意できたので、砲身へと流しましょう!


 何だか初めて見る黒い飛来物が飛んで来ましたが、試しに『焦輝(ガウ・ミラ)』を当てると消滅しので、きっと闇属性の攻撃だったんだと思います。網膜を焼く術で相殺できるという事は、あの魔術も補助的な効果を持っていたのでしょう。

 …神力の消費が激しい『消影閃(シュゼア・ミラ)』は、できるだけ使いたくないですしね。


 ドンッ


 ちまちまと飛んでくる魔術を避けたりしながら一発撃ってみたのですが、やはり今までと同じく当たりません。

 さっきの一撃は、シキさんが大きな隙を作ってくれてこそのものだという事ですね。

 それにしても、いちいち太陽の属性を作るのが大変です。…溜め置きとかできないでしょうか?


 私はちょっと考えて挑戦しようとしたのですが…、視界に入った橙がかった黄色い光の粒子に止められました。

 あれ?なんだか通路の上半分に、光の粒子が溜まってきているような…?

 しかも、光の量と密度的に上級魔術っぽいです。

 ………あれ?この発動の遅さ、どう考えてもシキさん以外の人ですよね?

 えっ、ちょっと待ってください!範囲的に、この通路全体っぽいですよ!?


「ゼーレ!天上を消せ!!」


 カッ


 私が動揺した次の瞬間でした。シキさんの声と共に天上が魔術の光を放ち、明らかに天上の白色ではない何かが出現して………、白い光が炸裂しました。

 シキさんの言葉で、私の頭が反射的に咄嗟に閃いたのは『消影閃(シュゼア・ミラ)』。つい先程、できれば使いたくないと思っていた、神術です。

 光の粒子の量を見て、相手が使用している魔力量が大体判っていたおかげで、成功しました。

 ただし、その代わりとでも言うように、吸血鬼達の態度が完全に変わったのです。


「ヒッ、何だあの女は!?隊長の魔術を…!!」

「今の魔術は何だ!?隊長の魔術が消された!?」

「上級魔術を無言で消せる人間なんて、資料に無かったぞ!」


 封印の間に入り口ギリギリの場所にいた人達が、ジリリと後退しました。

 最後の言葉を放った吸血鬼、それなりに頭が働いているようですね。私、天津神系神族ですし、確かに人間ではありません。

 うん、この戦々恐々とした反応なら、もしかすると相手の人数を減らせるかもです。

 私は声を張り上げました。


「吸血鬼のみなさん、地下へ帰ってください!全員を消滅させるだなんて、したくありません!」


 一瞬、しんと静まる前衛のみなさん。後衛と中衛は、シキさんの攻撃に対処しているのか、わーわーと騒いだままです。

 けれど二秒、三秒と経って我に返った彼等の青白い顔が、僅かに赤く……、なるんですね。色の変化が凄いです。


「っこの(アマ)、調子に乗りやがって!!」

「そうだ、上級魔術がそう簡単に無言で消せるか!何かの道具に決まっている!」

「しかもこの女を消して走れば、何人かは閣下の城へ辿り着けるはずだ!行くぞ!」


 えっ、えええぇえっ!?

 げ、激昂して向かってきましたよ!?


「ぼ、『火炎広弾(ボガル・フィルド)』!」


 ダダダンッダダダダッ


 何とか正面に突っ込んで来た吸血鬼達を吹き飛ばし、ちょっと安堵しかけて、今度はこちらが戦々恐々とする番が廻ってきました。

 吹き飛ばされた吸血鬼の顔が、火属性で焼け爛れた状態から数秒で元に戻ったのです。

 剣での物理攻撃では、すぐに回復してしまう事は知っていたのですが、まさか神術の攻撃でも同じ現象を見るなんて思いもしませんでした。

 …でも、あれ?フェリル帝国に入ってすぐは、ユーリさんも攻撃神術を使っていたよう、な?

 最近は防御や回復の神術ばかりでしたが、もしかしてユーリさん、このことに気付いて止めてたんじゃ…。


 私は慌てて『火炎広弾(ボガル・フィルド)』を連発しながらも、太陽の属性を作り始めました。

 けれど、中々作業が進みません。最近、少しだけ慣れて来たとはいえ、まだ使い始めて半年すら経っていない火属性を、攻撃に使用する横で混合用に使うなんて芸当、非常に難しいんです。

 攻撃するのが光属性だったら良かったのですが…。

 ……そういえば、彼等、シキさんの言葉からして魔力は感知できず、視力だけで見てる感じでしたよね?ちょっと『焦輝(ガウ・ミラ)』を大量に飛ばしてみて網膜を焼いたら、同士討ちをしない為にも攻撃の手が緩むのでは?


 私は一つ頷いて、試してみる事にしました。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「あれ?」

「どうした、魔力が足りなかったのか?」


 吸血鬼達が一掃された封印の間で、私は首を傾げました。

 だって水の封印施設であんなにも苦労した作業が、たった一、二分で終わったんです。

 どこか不備があるんじゃないかと、不安になるじゃないですか!


「いえ、神力は十分なのですが、作業がやけに簡単に終わったので…」

「ああ。先程まで、熱心に属性を混合させる練習をしたせいだろう」


 熱心!シキさん、その言い草は無いと思いますよ?普通、襲い掛かられたら、誰だって真剣に対抗手段を講じると思います。

 でも…そうですね。何回も行ったからこそ、初めてやった時より遥かに簡単だったという事なんですね。

 あの砲身に詰める為の混合作業でも、練習の回数に数えて良かったんですね。


 私が納得している横で、シキさんが詠唱付きの『地乾固(ジア・クック・)無変(ムーテン)』を、封印のマホージンへと付与します。

 中々詠唱しないシキさんの詠唱付きの魔術だなんて、すっごく強固そうですね。

 そういえばこれ、一度封印したらどれだけ効果が続くのでしょうか?…天上世界に帰ったら調べてみるのも良いかもしれません。


「…次は王城への道探しだな」


 シキさんが踵を返して、封印の間から外へと向かいます。もちろん、私も追いかけました。

 封印施設に入ってから、どれだけ時間が経ったのでしょうか?

 戦っていたのでそれなりに時間が経っていると思いますし、アイさんとハヤテさんの話し合いが終わっていると良いのですが。…って、ん?


「シキさん、そういえばハヤテさん、アイさんだけでなく私達に何か言おうとしてましたよね?何か知ってますか?」

「―――…ああ、恐らく価値観の違いについてだろう。気にする程でもないと思うが…」

「価値観、ですか」


 シキさんが少しの間、考えるそぶりを見せた事から言って、ハヤテさんはともかくシキさんにとっては本当に大した事ではないのかもしれません。忘れかけてたくらいですし。

 それならハヤテさんに聞いた方が早い、と思って私は放置する事にしたのですが…。




「ゼーレちゃん!シキさんに言ってやって!自分の体も大事にしなさいって!!」

「そうだぜ!シキ様、オレの話とか全然聞かねーんだよ。ゼーレからも言ってくれ!!」


 封印施設から出た私達を待っていたのは、何故かシキさんへ非常に憤っている、アイさんとハヤテさんでした。

 あれ?アイさん、ハヤテさんとの話し合いは終わったんですか?ハヤテさんの顔を見た時までは、ハヤテさんに対して憤ってませんでした?

 ハヤテさん達の後ろからは、「なんかカップリング混ざってる…」とか「シキハヤイベント終わってただなんて!」だとか、意味不明な言葉を雪羊(ゆきひつじ)の双子勇者が言っていますが、まあ、今は放っておきましょう。

 それよりも。


「自分の体も大事に…って、シキさん怪我してるんですか!?」


 私は驚いて隣のシキさんを見上げました。

 だって今まで不自然な動きとかありませんでしたよ!?怪我をしている事を悟らせずに今まで動いてたとか、シキさん、そんな技術磨かなくて良いですから!!

 ですが、シキさんの答えは簡単なものでした。


「既に治っている。問題無い」

「…治っている?」

「植物系の魔族は、総じて回復力が高い。あの程度、簡単に治る」

「良かった。重症じゃなかったんですね!」


 ちょっと安心しました。今まで怪我した場所の痛みに耐えつつ、あの吸血鬼達と戦ってたのでは、と思うと、申し訳なさ過ぎですし。

 けれど、ほっとしたのも束の間。ハヤテさんが爆弾発言を投下したのです。


「アレは重症だった!!」

「…え?」

「………」


 ちょっ、ちょっとシキさん、そこで沈黙しないでくださいよ!肯定してるじゃないですか!


「確かに、ハヤテを助けてくれた事は、感謝してもし足りないわ。でも、短時間で治るとはいえ、重症な状態で回復する前に、吸血鬼の団体へ突撃するのはどうかと思うの。動くなら、回復してからにすべきだわ」

「ちょっとアイ!それもそうだけど…!!」

「だってシキさんが怪我したって事は、他に方法が無かったんじゃないの?なら、落下中の事に対しては感謝して終わるべきよ」

「それは………」


 アイさんの言葉に、ハヤテさんがたじたじです。

 ですが、二人の会話に口を挟まないって事は、シキさん、重症な状態で動いたって事ですよね?

 私は、シキさんを再度見上げました。


「シキさん、重症だったのに、動いたんですか?」

「………魔力が足りなかった。ハヤテから貰う訳にもいくまい」




 極力平静さを装って聞いた私の言葉に、シキさんは小さな声で呟いて、視線を反らしました。

ゼーレちゃんは、命を奪う事以外となると、時々容赦無いです

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