24話 伊耶那岐の宮探索
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「雷の御方がお待ちしておりました。こちらへどうぞ」
できるだけ穏便に、と正面から伊耶那岐の宮へ行った私達は、入口を警備していた天津神系神族、束衛の人達にいきなり中へ案内されました。
…心当たりはあります。
道中、伊耶那岐の宮がある窪地が人間の目にも遠目に見える地点まで来た時に、紫色な印象を受ける私の幼馴染、技司エクレール・ナハト、通称エルちゃんに会ったからです。
いえ、会うだけではこんな事態にならないのですが、貴族っぽい男に勇者の少年、担がれた陸津神の女性に薬師の少女、そして天津神の私という、かなり変わった組み合わせの団体だった為、大まかな事情説明を求められたのです。
で、結果、「星の御方達が陸津神にちょっかい出して騒ぎになりかけてる上に、何も知らんウチらを矢面に立たせようとしちょるって報告するわ」と、伊耶那岐の宮周辺の警護を担当していたはずの彼女はさっさと飛び去ってしまいました。
え? 「何も知らんウチら」って何の話…ですか?
実は私の幼馴染のエルちゃん、雷の御方の部下なんです。
そして、本来の伊耶那岐の宮を担当している高木は、星の御方。
エルちゃんが聞いた話によると、星の御方がしばらく天上世界に用あるからと、雷の御方を代役として呼び寄せたそうなのです。
もちろん雷の御方も他に仕事がありますし、一人で星の御方の傘下な神族全員に指示を出せる訳がないので補佐として部下を数名連れて来たそうなのですが、宮の中の警備は指示される云われは無いと言われてエルちゃん達雷の御方の部下は、外に放られてしまったらしいんです。
…ちょっと酷い話ですね。
まあ、こんな理由で私の幼馴染は宮の中の状況は大して知らなかった為、私達の主張は肯定も否定もできないと、とりあえず現状報告を雷の御方にする、と行ってしまったのです。
…少しだけ私達の主張寄りな報告っぽいですが。
宮の入口から野ざらしの区域を進み、建物の中に入って少しだけ歩いた所で案内役の神族が止まりました。
コンコン、と扉を叩き、彼が声を掛けます。
「星の束衛ブルグです。お待ちの方々がいらっしゃいました」
中から入りなさい、と声が聞こえたところで、束衛の神族は一礼して去って行きます。
………。これは私が開けるべきですよね…?私達の中で天津神は私だけですし…。
私は一度みんなの顔を見ました。相変わらずメイさんは気絶させられたまま、シキさんの肩の上です。
みんなが頷いたのを確認し、私は扉を開きます。
「失礼します」
中に入ると、そこは狭い部屋でした。執務机のすぐ隣には、壁から机の間を埋めるかの様に書類置き場と思われる台が置かれ、私の膝の高さ程度の重ねられた書類が整然と積まれています。
執務机で書き物をしている雷の御方の隣には、私より大きな翼が四枚生えた産祇と思われる神族が立っていて、彼の前にある書類置き場から時折雷の御方に書類を手渡しているのでは、という配置でした。
…つまり、狭いです。
私達が入室した事で、息苦しさを感じるような狭さになりました。
もちろん、狭いがゆえに、接客用の机も椅子もありません。あったらきっと、私達は部屋に入り切れなかったと思います。
「この部屋は元々束衛用の寝室だったのです。狭くて申し訳ありません。私は高木で雷の守護神をしている者です。“雷の”とでもお呼びください」
「シキと言う。高木の雷殿に合わせて氏は伏せさせてもらおう。今現在、天津神系神族は陸津神系神族に誘拐の疑いを持たれている。教都で流れている噂からしても疑いは深まるばかりだ。おかげでゼーレが一度陸津神に捕らえられ、消滅させられるところだった」
「シキさんの言葉に出て来ました、天士ゼーレ・サンハです。月の御方の下で働いています」
「………サンハ?」
「? どうしましたか?」
「いいえ、話を折ってしまいましたね。続けてください」
彼の微妙な疑問形の言葉に首を傾げながらも、私達は自己紹介をし、伊耶那岐の宮まで来た目的を伝えました。
…今のところは襲ってくる感じも無いですね。
「大体の内容はエクレールから聞いていました。私としても、星の部下達が規律から外れた事をしているのであれば、罰しなければなりません。ですが………」
「別に代理とはいえ今はこの宮の責任者は雷の守護神様だし、ズバっと命令すればいいんじゃね?」
「こら、ハヤテ! 相手はお偉いさんなんだから、もう少し丁寧に話しなさいよ!…あの、雷の守護神様、うちの者が生意気な口をきいてすみません」
「気にしないでください。勇者ともなれば、地位など気にせず突っ走れなければなりませんからね。…わかりました。私の部下の付き添いと、書籍や書類は一切読まない事を了承して頂けるのであれば、宮での捜索を許可しましょう」
! まさかの許可が下りましたよ!!
下手したら一度退却して忍び込まないと、と思っていましたが、こそこそしないで良さそうです。
「承知した」
「あ、ありがとうございます!」
「え、マジで!? 助かる!」
「…書籍…。あ、いえ。読みません。ありがとうございます」
どうやらアイさんは天津神の書籍という物に興味があるようですが、今回は仕方ないですよね。
確かな証拠が無い私達としては、お願いする立場なので、そこまで譲歩は求められません。
「それでは許可します。アーベント、彼女を呼んで来てください」
「かしこまりました」
そして雷の御方の隣に立っていた彼は、部屋を出て行ったのでした。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「ところでエル、技司ってゼーレより上っぽいけど、どんくらいなんだ?」
場所は伊耶那岐の宮のとある会議室らしき部屋。
そこでハヤテさんの声が響き渡ります。会議室って不思議ですよね。他の部屋と違って、何だか声が響いて聞こえる気がするんですから。
「二つだね。天士の一つ上な束衛の条件と、どれか一つの属性で下級神術の全てが術名無しで発動できたらなれるんよ」
実は雷の御方が付けてくれた部下は、私の幼馴染、技司エクレール・ナハト、ことエルちゃんでした。
彼女は捜索の手伝いはせず、部屋の中をあちこち探る私達の傍に書類があればささっと裏替えして読まれないようにする、という事を担っているようです。この部屋に来るまでに、片手で数えられる数以上はその行為を見た気がします。
「あれ? ゼーレちゃんって何も言わずにいきなり光を出したりしてなかったっけ?」
「そっ、それ!ゼーちゃん術名無しできるんよ!しかも光属性は中級全部無詠唱いけるから、束衛の条件、属性二つ以上で下級神術の全てが無詠唱できるんなら、ウチの一コ上の産祇だっていけるのに!……そんなのに光と剣特化って…」
ハヤテさんとメイさんに力説してくれたエルちゃんは、説明が終わるとしんなりしてしまいました。
…そんなに気にしてくれてたんですね。当の私は、神術は光しか無理と言われたのを信じて、ほんの数日前まで天士枠での最強目指してましたよ。
でも気にしてくれてたのなら、ちゃんと報告しないとですね。
「エルちゃん、エルちゃん。実はこの間、とある理由で陸津神に私の神術適正を確認してもらったんです。そしたらなんと!私、火の適正が大だったみたいなので、現在は特訓してるんですよ!」
「え!火!?」
エルちゃんが、がばりと私の両肩を掴んできます。
「光の上に火の適正が大って事は、ゼーちゃん体内神力の量さえ間に合うんなら、天帝も狙えるん!?」
「…え? 天帝、ですか…? 流石に天士の私が天照の地位に就くというのは、夢を見過ぎな気がしますが」
「うぅ、むむむ……」
これってまずくない? と天士の耳でやっと聞こえるほどの小さな声が聞こえた気がしたのですが、一体どうしたのでしょう?
とりあえず、会議室と思わしき部屋は隠し部屋への入口らしきものは無いと確認したので、次に行きましょう。
…本当は、メイさんを起こして姫巫女さんの神力を探ってもらうのが一番早そうな気がするのですが、私達四人の意見が一致した事により、未だに気絶させられたままシキさんに担がれています。
一応、姫巫女さんが宮の中で発見されたら起こして、発見されなかったら宮を出てから起こす、とみんなで決めました。
本当に誘拐していたのならメイさんが暴れたところで攫った側の自業自得ですが、攫っていない場合は一方的に迷惑をかけてしまいます。
せっかく便宜を図ってもらったので、雷の御方にはあまり迷惑を掛けられません。
ガチャリ、と次の部屋への扉を開きます。…ここは資料室のようです。書籍も書類も沢山ありますが…。
「あ~…。ごめん、この部屋に入るんはゼーちゃんだけでよろしく。書類が多すぎてウチじゃ対応しきれんわ」
薄暗いのですが、星の御方の部下はみんな光か火の属性持ちの為、この宮では賓客用の燭台以外、明かりをとる為の物が存在しません。もちろん私は神術の明光で部屋を照らしました。
「はー元から戦闘力はゼーちゃんのが上と思ってたんけど、神力さえ条件に達すれば雲の上もいけるんて、ホンント思わんかったわ」
「もう、エルちゃん言い過ぎです! まだ火の属性は火壁一つを無詠唱でできただけなんです。そんなに夢を見られても…」
「ゼーちゃん。ウチ、火属性得意だから言うけど、火壁は中級神術だからね? 下級すっ飛ばして中級からってゼーちゃんどんな訓練しちょるん?」
え、スライム地獄で必要に駆られたから無詠唱でやってみただけですが。…という事は流石に言えません。
メイさんが「使い慣れない」と言っていたので中級か上級だとは、一応想像していましたが。
ちゃんとイグヌス街の特訓では、ひたすら色んな火属性の下級神術を叩きこまれましたよ!
「火壁はたまたま…そう! たまたまなんです。後はちゃんと下級から教えてもらってますよ?」
「ふーん」
声が棒読みですよ、エルちゃん。私は部屋の探索中で彼女の方は向いていませんが、エルちゃんの目が半眼になっているだろう事は簡単に想像がつきます。
…と、少しだけ不思議な部分を発見しました。書籍や書類を部屋から持ち出さずに読めるよう、作業台として机が四か所に置いてあるのですが、三か所は脚元に何か荷物が置いてあるのに対し、一か所の机だけ脚元が片付いているのです。
気になってその机の脚元の床を押してみましたが、何の変化もありません。
…他の三か所の脚元の荷物に何か手がかりがあるかもしれません。
とりあえず荷物の中身を確かめてみましょう。
「ん? ゼーちゃん何しちょん?」
「それがですね、あの机だけ他の三か所の机と違って脚元に何も無いので、地下への隠し部屋とか無いかと思いまして」
「隠し部屋?」
そうです。ここに来るまで、二か所で地下の隠し部屋を見て来た身としては、隠し部屋は地下にある、という公式ができつつあるので、足元に不自然な箇所があると、どうしても気になってしまうんです。
…それぞれの脚元にあった荷物には、今まで罪人として伊耶那岐の宮の捕らえられた人々の尋問記録が入っていました。書類は見ない、と約束した為、表紙をみただけで中に戻します。
もしかしたら、私の思い過ごしだったのかもと、諦めかけた時でした。
「うわっ!?」
がこん、と二か所から音が響きます。
片方はハヤテさんの声がした入口の方から。もう片方は………、あの机の脚元からです。
見て見ると、人一人が簡単に入れそうな正方形の穴がぽっかりと口を開き、中には梯子も設置してあります。
「っ、出ました!隠し部屋です!!」
「えっ、じゃ、ゼーちゃんの連れ全員この部屋通さんとって流れ!?」
そうですね。雷の御方から渡された、伊耶那岐の宮の、部屋の配置図には全く記載されていない部屋なんです。
先に何があるかわからないところに、私だけで行くのは無理がありますから。




