13話 勇者ハヤテの衝撃 下
注! 13話は勇者ハヤテ視点です。前半は腐女子の妄想が暴走しかかってます。
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2019/4/27 誤字修正
「え、なんっ……シキ、様…なの…か?」
オレは愕然と目を見開いた。
「桜色」と一言口にしたら粗方説明が終了してしまうような配色の服と髪、金の目。
人間では耳があるはずの場所には数枚の花弁と、ぱっと見白いツノのように見える何か。
そして彼の背後には、桜色の花の蕾が先端に付いたアレがあった。
…いや、はっきり言わせてもらう。
オレがファンタジー物の二次版権エロで、時々お世話になってた触手がフワフワと揺れていたのだ。
そうか。シキ様は総攻めか。
あまりにも衝撃的すぎて、オレの頭からは『ハヤテ』が抜け落ちかかっていた。
シキ様受けってあんま見ないなーと思ってたらこんな理由があったのか。
二周目からが本番という噂は、きっと二周目からサブイベントとかで皆の本性知る事ができるという意味だったのだ。
確かに、こんな触手背負ってるキャラを女役にするなんて、数少ない腐女子の中でもさらに少数派に違いない。
…いや、でもシキ様、全体的にピンクだ。男性向けで女体化して百合にゃんにゃんとかありそう。
もちろん、オレの中では総攻めが決定したから、いくら女体化しても、シキ様が襲われるとかいう話は絶対認めない。断じて!
女体化して襲う側なら、まあ男相手ではなく百合までは許容できるかもしれないけど。
「ふむ。…やはり勇者にとって、魔族は敵対対象か」
「……え」
オレが脳内でめくるめく成人向け二次版権に関する一人談議を繰り広げていたら、何故かシキ様が無表情なのにどこか寂しげな声音でポツリと呟いた。
「だが、この施設の造りがまだ判らん。“命の泉”の事が終わるまでで良い。停戦を申し込む」
「…え?」
何でオレ、停戦とか申し込まれてんの?
シキ様って仲間キャラじゃね?え、もしかして二周目は裏切りルートとかあんの!?
いやいやいや、ムリ!超ムリ!あんなチートが敵とかなったら絶対勝てねーよ!
そりゃ、シキハヤでラブラブだったのが敵対勢力になって、想い人に会えず…とかのラブロマンスも美味しそうだけど、今のハヤテはオレだ。そんな要素、全くいらない。
オレはあくまで第三者視点から、二人がいちゃつく(腐女子の思い込み)シーンを眺めたいのだ!
「ちょっと待てよ。停戦とかおかしいだろ」
とにもかくにも、地上に出れたら敵対関係になるとでも言っているシキ様をどうにかしないといけない。
くっそ!ハヤテの中身がオレなのがマズイのか!?
ハヤテ本人なら、きっとシキ様を振り回して何だか結局最後まで仲間でした、とかできそうなのに!!
「……今のお前に我が負けるなどありえん。こちらの案を受け入れた方がお前の為だ」
「えええええっ!?何で話が戦う事になってんだよ!?オレは仲間なのに停戦とか、使う言葉がおかしいって言ってんだけどっ!」
裏切りルート回避しようとしてんのに、勝手に危険な方に解釈されてたとか、ヤバい。
そしてシキ様の冷たい声、お初だぜっ☆
……オレ相手じゃなかったら喜べたのに。
ん?でもシキ様、ネムとかいう国の国王様だったよな?一周目のエンドスチルから考えて、もしかしてその国、全員が人間に化けた魔族の国で、人間の言葉の上げ足取っては攻め滅ぼしてますとかない…よ、な?
オレ、シキ様そんなキャラじゃないって信じてるから、んな物騒な事しないで!
慌ててオレが訂正した言葉に、シキ様は軽く瞠目した。
いや、そんなにビックリすることじゃ……あるな。人間と交流がある魔族がいるとはいえ、この世界って魔族とか魔物とかは、基本的に人間の敵ってコトになってたし。
「勇者は魔王を倒さなければと自分で言っていたではないか。魔王は魔族。まさか魔王しか殺さんなどとは言わないだろうな?」
「そんなんオレの国の王様の言葉だし、殲滅しろとも言われてない。けどオレは人間だから人間に攻撃してくるヤツは全部やっつけるぜ?」
「………」
「けどさー、シキ様はオレが命の恩人をブッ殺そうとするヤツだと思ってたワケ?オレが溺死を回避できるようにアドバイスくれたり、あのデカ蛇退けてここまでオレを運んでくれたり………、ホント、助かった」
「…そうか」
シキ様が頷くと同時に、彼の体が白く光った。その光が少し形を変えて…、ゲーム画面で見慣れた黒いシキ様が現れる。泉にオレが落ちる前に見たのと同じ服装だ。
良かった。ちょっと殺気だってたシキ様も静かになった。
危ない危ない。敵味方に関する話をシキ様にするときは、いつもよりも細かくしゃべった方が良いってコトか。
勉強になった。
「では、当初の予定通り、例の魔王を倒すまでは仲間という事だな」
「んじゃ、またしばらくよろしくな」
オレは安心して、シキ様に二カッと笑いかけた。
シキ様も、ふっ、とあのアイが微妙に哀れなスキットでする、ふわっとした笑みを見せてくれる。
…ホントに何でオレはハヤテなんだ。
ここに『新千早』が第三者としていたら、絶対このシーンを激写しまくったのに!
「にしてもホントびしゃびしゃで気持ち悪いな。…ん?」
「どうした」
どうしたもこうしたもない。
水から上がったままびしょ濡れのオレ達の状態を改めて見てみたら、シキ様の足元の白い液体の水たまりが出来ていたコトが目に付いただけだ。
そんなに泉の水って白かったっけ?と思ったところでシキ様に担がれていた時に見た、彼の背中と思わしき所から漏れ出る白い何かを思い出す。
…あんな綺麗な桜色の花弁で、白い液体を垂れ流しにする花とかってあったっけ?
RPG『太陽の救世主』の魔物とか魔族は、結構わかり易い作りをしていた記憶がある。
有名な化け物か、実在の動植物を魔物っぽくしたタイプかのどっちかだ。
現にラスボスは吸血鬼だったし、岩狼なんて見たまんま岩+狼な魔物だ。
どう見ても杉の木にしか見えないトレントだっていた。
「シキ様、その白いのって何」
よくよく考えたら、ちょっとおかしかった。
だってわざわざリスクおかしてまで、オレに自分が魔族だって教える必要なんて無い。
オレが弱いからリスクにはならないってコトかもしんないけど、ゲームの一周目みたいに最後まで秘密でも問題無いハズだ。
それに、例え全力を出すために慣れた体に戻ったってコトだったとしても、オレを包んでいた『風檻』が解ける前にいつもの姿に戻る事だって。
オレの質問に、シキ様は少々眉を顰めて一言答えただけだった。
「ハヤテが気にするものではない」
すっごくオレが関係してるように聞こえるんですケド!!
「それよりも魔術で服を乾かしたらどうだ。このままでは人間であるお前は風邪をひく」
あまつさえオレの心配をしてきた!
ヤ、最初から動けるかとか聞かれてた気はするけど。
だが、はっきり言わせてもらう。
「シキ様、魔術ってそんな便利なモノじゃねーよ?」
「なに…?」
え、シキ様、そこ驚くとこ?
シキ様が僅かに目を見開いてオレの顔をまじまじと見つめてくる。
…まさか魔族では、超バリエーション豊かな使い方があって、魔族の人達は魔術は便利なものって認識があるのか?
「お前、風の魔術が使えただろう」
「使えるけど、攻撃魔術とか補助魔術でどーやって服乾かすんだよ」
「補助魔術の拘束を自分に使ったではないか。あれと同じだ」
え、また拘束魔術使えって?いやいや、あれ、まだレベルが足りなくてできないと思う。
あん時できたのは、多分火事場の馬鹿力とか、聖剣のおかげとかいう類じゃね?
えーと、えーと。とりあえず攻撃魔術は危険だから却下。
補助とかは…あ。
『風枷!』
ゴオオオォッ
………風圧がヤバくて、息が止まるかと思った。
岩狼に使ってたオレの足止め魔術、こんな凄かったのか。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「今度は何だった?」
「…これも気圧に関する魔法陣だな」
あの後、結局そのまま白い液体の事をはぐらかされたオレは、この謎の施設?の扉を、片っ端から開けて、中にいたガーディアンをブッ倒して、魔法陣を調べて…という作業を続けていた。
もちろん、魔法陣を調べるのはシキ様の担当な。オレはガーディアンをブッ倒すの担当。
服は、オレの魔術でシキ様まで乾かし済みだ。オレだけスッキリ乾いてんのに隣にいるヤツは濡れネズミとか心情的にムリだし。
ってか、こんなどんどん地下に下ってく施設の最奥っていったら、ファンタジーではボス系の魔物とかが封印されてるのがセオリーじゃね?
急な下り坂と両側にドアがある踊り場を交互にどんどん地下へ潜ってく施設とか、普通に考えて怖いんだけど。二周目以降用の隠しイベントだろうか。
壁と天井の継ぎ目に、白い光を放つネオンっぽい形の管が敷き詰められてるのも気持ち悪い。
オレがこの世界で暮らしてきた限り、今までこんな現代日本的な物が付いてる建物とか見た事が無い。
…ここの施設だけ、まさかの剣と魔法のファンタジー超えて、宇宙系SFなっちゃてる?
宇宙人とかの要塞?
でも魔法陣は『太陽の救世主』で出てきたしなぁ。
あ、あと、新事実が明かされた。
オレ、聖剣をその辺に置いて魔術使ったら、聖剣持ってるときよりも威力上がるっぽい。
シキ様に教えてもらったんだけど、この聖剣自分に触れるもの全てから魔力奪ってるとかで、何と!オレが斬った魔物からだけはなく、オレの魔力もずっと吸い取ってたらしいのだ。
え、何その仕様!どう考えても聖剣というより、呪いの魔剣だよな!?と思ったオレは正常のハズだ。
けどシキ様曰く、魔力は魔物と魔族の生命の源らしいから、魔力を全て奪い取る事ができる剣であるならば、対魔の剣…つまり聖剣と言われてもおかしくないとかなんとか。
メリット面で言うと、ちょっと納得したことに、この聖剣は吸い取った魔力でパワーアップしてるらしい。
剣なのに空気も読むらしく、さっきの水中でオレが魔術を使う時、一時的に魔力を吸ってなかったとか。
そうか。流石相棒。オレの魔力まで吸ってると聞いた時には捨ててやろうと思ったけど、聖剣は聖剣でオレのサポートをしようとしてたってコトだな?
「…これで扉全部見ちゃったな…」
「―――ゼーレが追って来たようだ。ハヤテはここにいろ。水の中へ迎えに行って来る」
…ん?そいや、何でオレが落ちて、シキ様が泉に飛び込んで、それから今まで誰も来なかったんだ?
アイは泳げないからともかく、追って来たって言うくらいだからゼーレは大丈夫なハズだ。
アイに引きとめられてたのかな。
多少疑問に思いつつも、オレはシキ様と一緒に最後の部屋の扉を出た。
さて、シキ様がゼーレを迎えに行ってる間に、この通路の壁だけでも観察してみるか。
ちなみに一番怪しいのは、右手にある、この下り坂の通路最奥となる壁だ。見た感じスイッチとか不自然な継ぎ目とか、まったく無い。
「はあ…。これが忍者屋敷だったら、こんな壁とかこう、っあ!」
壁がぐるんと回るところを想像して押した手は、壁を回さず壁を押していた。しかも壁は新品のトランプカードが他のカードの上をつるりと滑るかのごとく、全く手ごたえ無しに軽い。
もちろんオレは、新発見を伝える為に、出発点へ戻ろうとしているシキ様に声を掛けた。
「シキ様!ここ、この壁動くぜ!っぅひゃっ!?」
「ハヤテ!!」
…お約束だ。壁が動くという事は、何か仕掛けがあるという事で。
もっと周りに注意しながら動かさないといけなかったのだ。
で、足元を見ず、シキ様の方を見ながら壁を押していたオレは思いっきり足元に出現していた穴に落ち―――。
パシッ
ギリギリのところでシキ様と手が繋がる。
が、それも指先辺りだ。まずい。落ちる!
ってか、穴の外は明るいのに、穴の中は真っ暗とかおかしいだろ!?
しかも足は宙ぶらりんで高さがわからない。
落ちて大丈夫な高さなのか、アウトな高さなのか。
…と。
「…ハヤテ、奥の方に魔法陣が見えないか?」
「ど…、………見えるな」
体を捻るような向きで見ると、奥の方にあの黄色っぽくぼんやり光る魔法陣が見える。
今まで見てきた魔法陣とあれが同じ大きさだとしたら、多分、ここから下に落ちても二階建ての建物の窓から飛び降りる程度の衝撃で済みそうだ。
「確認するか」
「え、ゼーレはって!?」
…落ちた。
手を繋いだまま落ちたよ、シキ様思い切り良過ぎだよ!シキ様魔族、オレ人間!シキ様は大丈夫でも、人間なオレはちゃんと確かめずに進むのと危険かもって察してくれ!
ってアレ?まだ足に衝撃が無い!え、これって床に激突して死亡ルート!?
シキ様の用意した水で死亡は免れたものの、魔法陣を調べに行こうとしたオレ達は、急に両足が床にくっつき、シキ様はともかくオレは盛大にこけた。
ゼーレが穴から降って来る僅か十分前の事である。




