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12話 勇者ハヤテの衝撃 上

注! 12話~13話は勇者ハヤテ視点の為、腐女子の妄想的なものがあります。

7/12誤字修正。

 オレは泣きそうだった。


 この『太陽の救世主(メシア)』に男として生きてくからには、シキハヤ(シキ様×ハヤテのカップリングの略称の事な)という腐女子イベントを見て楽しむ以外はカッコイイ理想の男になってやろうと思ってたのに。

 元は『(あたらし)千早(ちはや)』という女の子だったから、女の子目線でどうやったらカッコイイかもわかってて、だから上手くいくと思ってたのに。


 けど、実際は自分がシキハヤの片割れであるハヤテだからイベントを眺める事ができないし、泉に落ちてからこっち、ずっと一方的に助けられてて、そーとー格好悪い。



◇ ◇ ◆ ◇ ◇



 泉に落ちた時、オレは咄嗟に手を着こうとした。


 “命の泉”は上から見た感じ、手を着いただけで簡単に水から顔を出せそうな深さだったからだ。

 けど、上体ががくり、と下に傾くだけで手が底に着かない。

 不自然さを感じていたくせに、着水前の視覚からの情報に頼って行動したオレは、元々崩れていた体勢をさらに崩してしまったのだ。


 でも幸いな事に、オレは別に泳げないワケじゃなかった。一瞬ビクリとしたものの、手足が底に着かないならば泳げば良い、と上へ泳いだのだ。

 …正直、聖剣と胸当てが重くて『(あたらし)千早(ちはや)』がプールで泳いだ時よりも進みが悪い。


 それでも水面にたどり着い―――…。


 コツンッ


 全身の血がザッと引いた気がした。


 パンッ


 手の平で叩いてみても変わらない。

 水面が堅くて(・・・・・・)、水から手がだせなかったのだ。

 マズイマズイマズイ!呼吸できなくて、溺死する!!


 ちょっ、オレ主人公なんだろ!?こんな序盤で死んで良いのかよ!


 もう一度水面を叩こうとした時だった。


 不意に自分ではない水の動きを感じる。

 咄嗟に聖剣を抜いて振り返った時には、刃の部分が口を大きく開けた蛇っぽい生き物の鼻頭に当たるところだった。

 この十数年の戦いにおける経験が、そのまま剣を振り切れと言ってくる。

 迷ってたら喰われる。経験を、主人公補正を信じて、オレは剣を振り返った勢いのまま、最後まで振り切った。


 ガッ


 腕に伝わる鈍い衝撃。体にかかる水圧。

 自分が聖剣を振る力を迫り来る巨大な蛇もどきに叩きつける事で、水中を移動する事に成功したのだ。

 未だ息継ぎはできないものの、巨大な蛇もどきの腹の中に収まる事だけは、どうにか回避できた。

 けど、さっきの聖剣による斬撃が効いていないらしいヤツはオレにギロリ、と視線を向けてきた。


 足場が無い状態で硬いヤツ斬るとか、自分が水中を移動するだけじゃね?

 小さい頃から色々鍛えたおかげで、息もあとちょっとなら大丈夫そうだけど、どう考えても詰んでる。

 でも、もしかしたらコイツを倒せば、出れる可能性だってある…って思ったら倒すしか生き延びる選択肢無いよな?


 とにかく、今一番近くの足場になりそうなのは水面だ。

 少しだけ泳いでひっくり返れば足を着けれる。踏ん張れる足場があれば、多少はダメージを与えられる気がする。

 オレは急いで水面に足をつけようとしたが、遅かった。


 目前に迫る巨大な口。

 どう見てもオレを一飲みにできる大きさ。

 歯も鋭利で、噛まれたら絶対体が引き千切られる。


 間に合わないなら、口を閉じられないようにすれば、と身構えた時だった。


 ドボンッ


 目の前に迫っていた鋭利な歯が、一瞬にして沢山の白い泡と黒の服を纏ったシキ様の後ろ姿に変わる。

 シキ様が足元に黒く硬そうな岩を召喚し、周囲を見回して……オレと目が合った。

 僅かに瞠目する漆黒の瞳。

 上へ延ばされた手にぶつかる水面。


 流石シキ様。オレの体勢を見て瞬間的に状況を悟ったと思われる。

 うん。水面に足を着けた状態ってどう見てもおかしいよな。

 普通、もっと足が水から外に出ると思う。


 そしてシキ様はこっちに……あれ?どう見ても泳いでない。ってか、右手以外動かしてない。

 でも謎のスピードでこっちに移動して来る。

 右手を進行方向と逆に伸ばしている辺り、もしかして、魔術?

 確かシキ様は水と土の属性魔術が使えたはずだ。モブ天使ゼーレが何も言わずに明かりを出せた事を考えると、チートなシキ様だって何かできそうだ。


 短い距離を一気に近付いて来たシキ様だったが、彼は止まらなかった。

 そして、彼の左腕に衝突したオレはもちろん、


 グボフッ


 オレの貴重な空気を流失させてしまったのだ。

 腹に腕フックを決められたオレはそのままシキ様に引っ張られ…。


 ドオォン


 背後で巨大蛇もどきが水面に衝突する音を聞いて、シキ様に助けられた事を知った。

 それでも溺死へのカウントダウンは既に始まっている。

 そろそろ苦しい。


 オレの状況に気付いているのか否か、シキ様がちらりと見ただけでも判るレベルで眉をひそめている。

 …くそう。死ぬなら、第三者視点で生のシキハヤ見たかった…。

 何かいつの間にか左手だけで後ろから抱き締められるような体勢になってて、正面からの水圧がキツイ。

 でも、こういうのを第三者で見れたらと何度思った事か、と考えてしまって自分にちょっと嫌悪した。


 って、何か腹のあたりがくすぐったい。


 ちょっ、シキ様オレが死にそうな時に何してんの!?何度も同じようなとこ指でなぞるなよ!

 これが呼吸できるとこなら「まさかのバリ現実な腐女子イベント!?シキ様は二人きりになると襲ってきます!」とか言って、色んな意味で恐れおののくとこだけど、今の状況で腹くすぐるとか、息切れ早く引き起こしてさっさと死ねってコトとかじゃねーよな!?


 オレは呼吸ができない苦しさと迫り来る死の影にヤケッパチになって、無理矢理シキ様の拘束を解き、体を後ろへ捻って、正面から睨み上げた。

 けど、そこにあった顔は、ひどく真剣で。


 ガボッ、ゴボッ


 自分の口から空気が出て行く事を厭う事もせず、口を動かした。


 あ   せ   …?


 何が言いたいのか解らない。首を傾けて意思を伝えようとした、が。

 今度は正面から抱きつかれるようにされ、強烈な水圧を背中に感じた。


ドオォン


 あの巨大蛇もどきが何かにぶつかった音がする。

 そして今度は、背中…腰の辺りからシキ様の指の動きを感じたのだ。


 ふと、死ぬ前だからか、高校生時代のやりとりを思い出した。

 後ろの席に座っていた友人が、ひたすら背中をくすぐってきたアレだ。

 こっちは必死に数学のプリントと格闘しているのに何てヤツ!と思って振り返って睨むと、あっけらかんと笑って聞かれた。「今、何て書いたでしょ~?」―――…そうか。それだ。


 シキ様が、オレの腰の辺りに指を這わす。何かを描き、数拍止まる。また描き、数拍止まる。

 何度も動くそれは、毎回同じ形だった。


 か   ぜ


 そうだ。オレは風の魔術を使える。

 もし、水の中で風を起こせるなら、それと一緒に空気も発生するかもしれない。


 完全な攻撃魔術はダメだ。あれは敵を切り刻むだけ。

 気圧変更で上空からの風をコントロールするのは上級魔術だから無理だし、できてもこの水の中まで届くかわからない。

 “そこ”に発生させる事ができて、風をその場に留める……。


 中級の拘束魔術、『風檻(ヒュル・クーン)』。それが最適だとひらめいた。


 けどこれは、レベル十五前後で覚えた技のはず。

 一周目のゲーム中では、シキ様を仲間にした時のレベルは九程度。

 ……今のオレのレベルは、判らない。


 それでも望みは、もうこれしか無いだろう。

 頼む!聖剣、オレに力を貸してくれ!こんな序盤で死ぬとか、主人公としてダメ過ぎだろ?


 ―――地上を走る風よ、我が敵から自由を奪え。


 オレはギュッと目をつぶり、右手に持つ聖剣を意識しながら心の中で、ゲームで幾度か聞いた詠唱を行った。

 さっきまで腰の辺りに感じていたシキ様の指の動きは、もうなくなっている。

 その代りに背中への水圧が少し、増した。


 ―――風檻ヒュル・クーン


 ぶわり、と水が体から離れたのを感じる。

 そっと目を開けると、オレは風の繭に包まれた状態で。


「息ができる!」


 ただし体は動かせない。

 けど、それはなんとなくわかっていた事だ。

 元々これは風属性の拘束魔術。一定時間拘束し続ける魔術のそれだが、まさか初めて使う相手が自分だなんて思いもしなかった。


 でも、呼吸ができた事で我に返る。


 シキ様は?


 けど探す事は叶わなかった。

 風の繭の外は、風と水が織り成す泡の渦で遠くがほとんど見えない。ただ、あまり離れていないところで鈍い響きを感じる。


 そーだよ。シキ様も呼吸ヤバいんじゃん!


 自分は十分呼吸できたからには、次は彼の番だ。

 水面から上に上がれない今、多分この方法しか呼吸できない。

 オレは慌てて今発動している魔術の解除を試みようとしたときだった。


 ドスドスッ


 白い卵の殻の色をした、オレの膝程度の太さの何か(最初に視界に入った時は桜色に見えたけど、多分気のせい)が二本、オレを包んでいる『風檻(ヒュル・クーン)』の端を突っ切って後ろにある何かに刺さった。

 オレに当たればおそらくオレの体を貫いていただろうそれに、驚愕のあまり思考が真っ白になる寸前、体に揺れを感じ、『風檻(ヒュル・クーン)』の周囲を包む泡に“白”が混じって、白い卵の殻の色をした何かが後ろにある壁から引き抜かれる。


 後ろにある何かが壁だと判ったのは、引き抜かれた白い卵の殻の色の何かの先に付いていた巨大な花の蕾っぽく見えるものに、白い石の欠片が刺さっていたからだ。


 一体何が、と思っても、さっきまで見えていた近場は『風檻(ヒュル・クーン)』の周囲を包む泡に“白”が混ざったせいで全く見えない。

 それでも『風檻(ヒュル・クーン)』の外からは、何かが鋭く壁へ突き刺さる音と、あの巨大蛇もどきが突撃しているような音が続いている。


 ギャアオオォォ!


 そして今度は耳に突き刺さるような恐竜じみた鳴き声と共に、オレを包んだ『風檻(ヒュル・クーン)』ごと、下へ下へと動かされている浮遊感が襲ってきた。


 ドドドッ


 ドンッ


 下へ下へ移動させられていく間も、近くで感じる何かと何かがぶつかる音。

 シキ様、大丈夫だよな?

 岩狼(いわおおかみ)あんな短時間で二十匹前後も倒せたんだから、巨大蛇もどきぐらい…。


 聖剣で傷一つ付かなかった巨大蛇もどきの鱗が脳裏に浮かぶ。

 …岩狼(いわおおかみ)は叩き割れた。けど、足場が無かったとはいえ、傷一つ付かない相手だ。

 シキ様は本当に大丈夫なのか?

 シキ様一人に戦わせている状態に、自分を罵りたくなった時だった。


 グギャアァァォ!


 先程と少しだけ違う恐竜じみた鳴き声と共に、『風檻(ヒュル・クーン)』が外からの干渉で消滅する、とオレの感覚が告げる。

 いつでも聖剣を振れるよう、右手に力を込めて、空気を大きく吸い込んだ。


 プシュッ ボゴゴゴッ


 風の繭の崩壊とともに、僅かに濁った水中へと体が飲み込まれていく。

 そしてオレの視界に映ったのは。


 ―――今、自分がいる水中の狭い通路と、少し先の突き当りにある、上へ向かう梯子。


 助かるかもしれない。


 まだ水中でお礼も言えないのに、思わずオレはシキ様へ振り返ろうとして…。

 どんっ、と“白い誰か”に担がれて梯子の方へ連れて行かれた。


 え、誰!?こんな白いキャラとかいたか?まさかのゼーレみたいなモブ二号!?

 うん。オレ混乱してる。オレのわき腹辺りに白っぽい髪の後頭部があるからオレの目には誰かの背中が見えるはずなのに、ヒラヒラした布の下の背中と思われる辺りから沢山の白い卵の殻の色の何か、オレの膝程度の太さの何かが大量に生えているように見えるからだ。

 しかもちょっと気持ち悪い事に、そのヒラヒラした布の下に生えている何かの辺りから、白い何かが水中に漏れ出て、水の透明度を下げていっている。

 今、オレを担いでる“白い誰か”は狭い空間にある梯子で登っていて、白い卵の殻の色の何かの先を目で辿っても正方形の空間の奥へ消える大量の管のような光景しか見えない。

 ただ、少し違和感を感じた。オレの目から見て右側の管が、少し少ない?


 って、え、シキ様は!?マズイ、あんな水中に置いてったら溺死する!

 い、いや、オレも“白い誰か”に連れてかれてる時点で安全とは言い難いけど。

 しっかりしろ、オレ!今は男だろ、こんくらい逃げてみせろよ!


 ザバァッ


 …残念な事に、オレが体を捻るより“白い誰か”がオレを水から石っぽい床に押し上げる方が速かった。

 自分の力で逃げようとしたのに、呆気なく手を放されて、立ち上がる事もできずに呆然とする。

 オレの目の前では、白い…いや、白に桜色のグラデーションが入った誰かが、ザバリと水から上がって来た。


「……まだ動けるか?」


 聞き覚えのある声が、聞こえた。

 オレの前に、しゃがみこむ事なく佇む“誰か”からだ。

 思わず聖剣を強く握りしめ、けど腕は動かす事なく、“誰か”をオレは見上げた。




 色が全然違うけど、顔はシキ様そっくりだった。


シキ様は地上系植物の為、人間よりは長く水中に留まる事ができても、泳げません(笑)。魔術でウォータージェット的な水流を作って移動してます。

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