6.そして少年は戦い、また歩み出す
とりあえず毎日更新できてほっと一息。執筆スピード強化のスキル誰かください
野獣が俺の眼に映るまで、そう時間はかからなかった。
鬱蒼とした木々を越えて躍り出た影。それも一体ではない。すぐに確認できただけで3体、いや5体だ。
差し込んだ陽の光がそれらの獣を照らす。4足歩行で尾がある。灰色の毛並に鋭い眼光を放つ顔。
――狼のように見えた。
見えた――と言うのは、俺の知っている狼と少し形状が異なっているからだ。確かに一見すると狼で間違いないが、それらに獣は2本の前脚に翼のようなものが生えているのである。翼といっても羽毛などはなく、どちらかと言えば「刃」という表現が似合うものだ。
「|《真眼》(ヴェルター)発動」
《真眼》を使ってみる。このスキルは人を解析することは出来ないため生き物の解析に使ったことはなかったのだが、目の前の獣は問題なく解析が出来た。どうやら動物はこのスキルにおいて「物」扱いらしい。酷い気がしないでもないが便利なのでよしとしよう。
【魔物:ウルフラム】
山岳や森林地帯に生息する獣型魔物の一種。小型な部類であるが鍛えられた脚力と馬鹿にできない。前脚にある翼で飛ぶことは出来ないがこれは刃翼と呼ばれ、鋭い切れ味を持っている。集団で狩りを行う習性があり、俊敏な動きで獲物を追い詰める。
別名《刃狼》
魔力使用可能性:3% 部位破壊なし
「ウルフラムですね」
ニーナがそっと声をかけてくる。いや知っている、と返しそうになったが言葉を飲み込む。ニーナには《真眼》のことを話していない。スキル云々の話をするべきか悩んでいるからだ。考えるのはとりあえず後回しにしよう。
「どうやら囲まれちゃったみたいです……」
「これはけっこうマズイのか?」
狼なのに群れるという性質。雑魚ほど群れを作って戦うのはありがちなイメージであるが、現実に対峙してみると厄介なものだ。
「特別強い魔物ではありませんが、5匹もいる状況で逃げるのは厳しいかもです」
それなら問題ない。
「ニーナ、俺の後ろに隠れておいてくれ」
「はい」
俺は《ガンスディーヴァ》を構えなおす。最優先すべき目標はニーナを守ることだ。ウルフラム達はまだジリジリと間合いを詰めてくるだけである。攻撃の機会を窺っているとようだ。
「|《弾薬製造》(エントヴィッケ)発動」
スキル発動。矢を作るための能力であるがその矢は俺の手に握られていない。
《弾薬製造》が完了するのと同時に《ガンスディーヴァ》へ装填したのだ。作った矢を顕現させる場所に決まりはないらしい。先程、盗賊の拠点で試し撃ちを何度かした際に気付いていた。
この《ガンスディーヴァ》はクロスボウとしては特殊なもので、射撃を行えば自動的に弦が再度引かれるという機能があるため、スキルと組み合わせれば人力を必要としない所謂、自動装填の弩となる。そして装填完了とともに時間差なく撃てる通常射撃に加え、一定時間のチャージを行うことで溜め射撃も出来る。溜め射撃は射程と威力が向上するようだ。
片手で撃てるタイプながら威力も十二分にある。流石は神造兵器だな。
「ヴォンッ!」
ウルフラムのうち1匹が吠える。それが合図だったのだろう。一斉にウルフラム達は動き始めた。
茂みから飛び出し俺へと猛進してくるウルフラムに狙いを定め、俺は引き金を引いた。撃ち出された矢はウルフラムの前脚に直撃する。だが刃翼に阻まれたのか、その矢は貫通しきれていない。
「前脚は堅い、ということか」
俺はすぐに《弾薬製造》で矢を装填し直すが、勢いを削げなかったウルフラムが肉迫してきた。奴は前脚を繰り出し、その鋭利な刃翼で俺を斬り裂こうとする。
「くっ……」
俺は《ガンスディーヴァ》を盾にして攻撃を防いだ。衝撃で体が後ろに下がる。弩が壊れないか心配したものの『神様』が言っていた通り、頑丈でびくともしなかった。逆にウルフラムの刃翼が欠ける程である。
ガードをしている間に俺は矢を番え終えていた。何度かスキルを使ううちに上達してきたのか動作を行いながらの装填も問題なく出来るようになっていた。
俺は至近距離からウルフラムの頭部へ矢を撃ちこむ。
接射にも近い形で放たれた攻撃。その威力は相当なものであったのかウルフラムは後方へと吹き飛ぶ。今度は問題なく矢は貫通していた。《刃狼》の弱点は頭か。
休む暇はない。回り込むように襲いかかってきた2匹の狼を同時照準で捉える。
「連続投射ッ‼」
俺は射撃とスキルの発動を同時に行う。
跳躍したウルフラムの予測軌道を頭の中で描き、偏差射撃。2連続で放たれる矢が1匹、2匹、とウルフラムに突き刺さり、宙を血飛沫が舞った。
残りは2匹。ここまでに2分もかかっていない。こうも容易く魔物を狩れるのは《ガンスディーヴァ》の力あってこそだが、俺の腕も腐っていないようだ。少し安堵した。
残りのウルフラムも地を駆け、俺達の周囲を旋回するように動く。彼らは群れの個体が一気に殺されたのを見て怯んだようであったが、獲物を仕留めるという目標を諦める気はないようだ。ただの貪欲さからか。それとも、ウルフラムが有する狩人の精神がそれを許さなかったのかはわからない。
だがそうであればこちらも同じだ。女の子を捨てて逃げる気なんてない。そして退くとい選択肢など初めから俺の内に存在していなかったのである。
連携をとるように互いにタイミングを見計らうウルフラム。対極の位置から回り込む2匹の両眼は俺を捉え続ける。
「グルル……」と野獣は低く唸った。
「…………ッ!」
俺はニーナを抱いて前へと跳んだ。ほぼ直感だ。
俺らのいた場所を2匹のウルフラムが交錯するように斬り裂く。俺は地に着く直前、体を反転させて《ガンスディーヴァ》を構える。動作を交えながらの片手撃ちでは照準は安定しない。精密に弱点を狙うことは無理だ。
だが俺は笑う。
「分裂矢――――二斉射バースト」
《ガンスディーヴァ》の引き金が引かれた回数は2回。連射された矢は勿論、2本だ。
だが、虚空を疾走する矢はその4倍の数。
直後、ウルフラムのしなやかな体躯に何本かの矢が突き刺さった。堅い部位だけでは防ぎきれない量の射撃をその身に受け、2匹の刃狼は絶命した。
「なんとかなったな」
「はい。しかし今の攻撃は一体……?」
「あれは宙で分裂する矢を作って、連射したんだ。数撃ちゃ当たるって言葉があるがその通りだったな」
「やはりカリュウ様は不思議な力を使うんですね」
正直、自分でもこんなことができるとは先程まで考えていなかった。偶然、《真眼》で俺の矢を解析したところ、『分裂するものよりも一発の威力と射程は上』などという表記があったのだ。考えてみたら《弾薬製造》のスキルで特殊な弾薬を作れないことはないんじゃないか――――そう思った。あとは事前に製造しておいた分裂矢を番えるだけ。このそれがこの戦闘のからくりだ。
「カリュウ様、手早く戦利品の回収をいたしましょう」
「ああ」
と言ってもまさか剥ぎ取りとかやらないといけないのか? そう思っているとウルフラムの屍が黒い灰のように分解されていくではないか。そして地面には淡く光を発する石と爪や牙が残った。
「なるほど。倒した魔物は素材だけが残って、あとは消えるというわけだな」
「その通りです。人間によって倒された魔物の亡骸のみ魔力が干渉して分解されます。どういうわけか有効利用できる部位は素材として残るのですが……この謎は未だ解明されておりません」
あ――きっとあの『神様』が設定したんだろうなぁ。そんなことを思いながら俺は素材を回収していく。
「この宝石みたいなのは何なんだ?」
「それは煌石と言って、宝石という解釈でも問題ありません。大きさや状態によって差がありますが換金することが可能なんです」
「へぇ」
換金アイテムってやつか。今回手に入れたのは小さいし大した金にはならないだろうな。
他に手に入った物は『刃狼の爪』『刃狼の牙』『灰色の刃翼』だ。《収納空間拡張》が作用している俺のポーチにそれらを全て入れた。
「それはアイテムポーチですか!? とても高価な装備品だと聞きますが……もしやカリュウ様って元々は一流貴族だったり!」
いえ、平民です。
俺の場合はスキルでこうなっているだけだが、この世界にも同じようなアイテムがあるらしい。
「それにしてもこういった知識を忘れていらっしゃるのにカリュウ様は理解が速い気がします」
「記憶を失う前はこんなことをしていたのかもしれないな」
確かにやっていた。――――ゲームの中でだけど。
森を暫くの間歩き続けた。
今度は途中で魔物に遭遇することもなかった。想像していたより道が険しかったり、と平坦な道程とはいかないものの、怪我なくこの「オストルトの森」を抜けることができた。
俺は途中で自分のステータスが気になった。
口には出さず、己の中で「ステータス・オープン」と唱える。
カリュウ
性別:男
職業:弓兵
体力:5000
筋力:2000
魔力:10000
魔術:300
精神力:6000
【スキル】
《真眼》
《弾薬製造》
《連続投射》
《収納空間拡張》
《直感》
《成長促進》
《ファイア・トーチ》
【技能】
射撃Lv20
格闘Lv12
体術Lv11
短剣Lv10
奪命術Lv10
応用Lv3
【装備品】
《ガンスディーヴァ》
《ナイフ》
《拳銃》
《宝具 ファング・オブ・インフェルノ》
おお。けっこう上がっている。魔力の伸びが凄いな。新しくスキルも幾つか手に入っている。《成長促進》が能力の短期間向上に関わっていそうだ。あとは《連続投射》もスキルだったらしい。俺は単に《弾薬製造》の力だと思っていだが。《ファイア・トーチ》は見ただけで何故か習得していた。初級の魔術なら見るだけでも手に入るのか。
他には【技能】も飛躍的に向上していた。短剣、奪命術は既に前の世界で得ていた力を使ったから技能として開花した、とかだろう。
「カリュウ様! 見えてきましたよ」
ニーナに声をかけられ、俺は我に返った。ついステータス表を眺めて悦に浸ってしまった。
視線を上げてみるとその先にあったのは開けた景色。
幾つかの建物が見える。家だ。ニーナの住んでいる村に着いたのだ。
ようやく腰を下ろせる……俺はただそう思った。
思えば『神様』に燃やされ、空から落とされ、まぁ色々あった。盗賊と戦い、少女を救い、魔物を倒し――――
なぁ『神様』。アンタ見ているか? 俺、ここで生きてみるぜ。そして頼み通り、異世界救ってやる!
俺は、
――異世界救済人なんだから。
次回――少年は弓兵となる。
ニーナ「でもカリュウ様の武器って弓じゃなくて弩……」
カリュウ「細かいことは気にするな」




