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5.少年と少女

ヒロイン登場?

 一人、『神様』は独立空間(自室)にて欠伸をしていた。

 案外、神性機関としての仕事は暇だったりする。世界の安定と均衡を保つため、時に慈悲を与え、時に武を振るうことが神の役目ではある。

 しかし、常に国家規模の騒乱や災厄が起こるわけでもないのだ。

 同じ時を歩む10余りの平行世界を管理する神性機関。

彼女の一日はまず、惰眠を貪ることから始まる。


「ねむ……はぁ~奴はうまくやっておるかなぁ」


『神様』はベッドの上で寝言のように呟く。


「どうでもいいか……あの男に任せるとしよう……だが奴に似た子供を前にも転送したような……ん――いや、女だったか。まぁ、勘違いだろう」


『神様』は心地よさそうに夢の中へと意識を落とした。



 ――神造兵器。

『神様』が内包する要素の一つである兵器群の総称。それらは、神話や伝承の数だけ存在すると言われる。

人智を超越した力であるそれを人間に授けたのは、あの少年が初めてではない。

以前にも『神様』は、とある少女に与えたことがあった。


|《***(イクスカ)****リバー・ヴィ|**》(ンテル)


 その剣は何処で振るわれただろうか。



 

♰ ♰ ♰




 オーケー。状況を一旦整理しよう。

 この場にいるのは俺と、少女。盗賊は全員殺してしまったのでもう関係ない。

 問題は目の前の少女だ。


「獣耳っ娘……ってホントにいたのかよ……」


俺は思わず見惚れた。フードを取り払った彼女の顔は美少女と呼ぶに相応しい、そう感じた。髪染めなんかじゃない綺麗な茶髪を二つに結い、肩の下辺りまでその尾を垂らす。大きくパッチリとした瞳は澄み切った蒼の色を持っていた。そして頭からは二つの耳……人間のものではなく、猫などに似た獣耳がぴょこんと生えている。


俺は無意識のうちに彼女の耳を撫でてしまった。


「ひゃっ……く、くすぐったいですよぉ」


少女が声を上げる。その頬は少し赤らみ、上気していた。やはり感覚器官として神経が集中しているとかの事情があるのだろうか。感触から察するに人工物ではないようだった。日本にも秋葉原にいけば猫耳メイドなんて普通にいるし、コスプレでもよく見かけるジャンルではあるが、この少女は天然ものらしい。


「あ、あの……」


 俺が珍しそうに眺めていることを不審に思ったのか、少女はおずおずと話しかけてきた。忘れていたが俺達はまだ互いに名乗ってすらいない。


「ああ、すまない……俺は――」


 思い出す。ステータス一覧に表記されていた俺の名前は「カリュウ」だった。鎌ヶ谷狩流なんて日本名を言っても不思議がられるに違いない。しかしカリュウだけって……姓は自分で考えろということなのか?


「カリュウ・ブラットだ」


 適当に姓はでっち上げたがこれでいいのだろうか。


「カリュウ様ですか……私はニーナ・シュトラテーゼと申します」


 そう言ってからニーナは微笑む。問題なかったようである。


「カリュウ様はどういったお方なのですか? あっという間に盗賊を倒すなんて、凄腕の狩人とか?」

「あ――いや……」


 俺は困った。自分のことをどう説明すればいいのものか。神に転生させられた、なんて言っても信じてもらえそうにないしなぁ。


「なんていうか……弓兵の端くれっていうか……」

「兵士様なのですか?」

「い、いや違う! そう、確か冒険者……だったはずなんだが、事故か何かで記憶が曖昧になっててるみたいなんだ。気が付いたらこの森で倒れててさ」


 記憶喪失ということで誤魔化してみる。自分でも正直、無理があると思った。


「それは大変です……そんな時でもわざわざ私を助けてくださるなんて本当にありがとうございます」


 意外にあっさりと信じてくれた。純粋無垢な女の子で助かった。


「別に礼を言われる程のことはしてないよ。それより、此処は何処なんだ?」

「『オストルトの森』です。地図とかも持っていないのですか?」

「ああ。自分が何処で何をしていた人間なのかも思い出せなくて……名前と、とりあえず戦闘技術は体が覚えていてくれていたからさっきはうまくいったけど」

「なるほどです……見慣れない服を着てらっしゃいますし、他国のご出身かもしれませんね」


 そう捉えられてもおかしくはない。こっちで生活する以上、この体操服から早く着替えたほうが良さそうだ。さっきの戦闘で返り血を浴びて白い布地の多くは赤く染まっている。どうするにせよ服は新しいものにしたい。


「ここから南に2km程の場所に私の住んでいる村があります。良ければそこで一度、休息されてはどうですか? 小さな村ですが食事と寝るところぐらいならお役に立てると思います」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 俺は安堵する。そう遠くないところに集落があって良かった。まずはこの世界の情報を仕入れたいので人がいる場所に行けるのは好都合だ。食事も用意してもらえるなんて願ったり叶ったりである。

 だが、村へ行く前に片付けるべき問題があった。

 盗賊達の死体のことだ。

 このまま放置するには4つの屍は少々多い気がする。この森はそんなに気温が高くはないものの、野晒しの死体なんてすぐに腐ってしまう。衛生的によくない上に、村人や狩人が森に入った時、4つも死体があったら困るだろう。


「ニーナ。こいつらを火葬したいんだが魔術とかって使える?」

「魔術ですか……簡単なものでしたら出来ますが、火葬に使える程のものでは――」


 そう言ってニーナは右手を突き出し、唱える。


「《ファイア・トーチ》」


 すると、彼女の手に紅い魔力のオーラが宿る。そこから現れたのは火の玉だ。ボウッ、と光り輝きながら火の玉は宙を漂い始めた。


「私は攻撃魔術の類いは不得意で……出来るのはこのような一般人程度の魔術ぐらいです。これは照明として夜道などで使う炎系魔術で、一応触れれば火傷するので攻撃魔法に分類されています」


 この世界の人間は皆、魔力を持っているという認識でよいらしい。今、ニーナが発動させた《ファイア・トーチ》は初級の魔法か。一般人なら誰もが扱うそうだ。

 しかし困ったな。俺は何か火を放つものがないか、と洞穴の中を探す。此処は盗賊が普段から拠点にしていたみたいで、寝食をした形跡があった。当然、盗んできた金品や武具も置かれてある。

 俺は小さな木箱を掴み、中を確認する。そこには研磨され、表面に文字の刻まれている何かの牙が一つ入っていた。

 何だこれ? そう思い、俺は小さく呟く。


「|《真眼》(ヴェルター)発動ブーフ


 視界の中で文字列が綴られていく。


 【宝具:ファング・オブ・インフェルノ】

 現在の魔力チャージ量0%

 対象を焼き尽くす炎を放つ。一度のチャージで2回まで使用可能。


 宝具? 今まで聞きなれなかった単語に俺は首を傾げた。


「それはもしかして、宝具でしょうか」


 その様子を見ていたイレーナが横からその牙を覗き込む。


「宝具って何なんだ?」

「はい、魔力をこめることで特殊な効果を発揮する道具のことを宝具、と呼んでいます。その牙に刻まれている文字が魔術回路のはず…多分、それは炎系の魔術が封じ込められた宝具だと思います」


 この牙に刻まれた文字が魔術回路で、同時に効果が記載されている文なのか。


 ということはこの宝具ってこの状況にもってこいじゃね?


 俺は盗賊の屍を洞穴の一角に固めて寝かせた。

 それに向けて俺は宝具を構える。


「《ファング・オブ・インフェルノ》」


 魔力を宝具へと注ぐイメージ。それを続けると牙が紅い光を帯び、次の瞬間にはその先端より炎が噴き出した。

 物凄い爆炎が出たらどうしようかと思っていたが、俺の意思が伝わったのか火葬に適した勢いの炎が発射されていく。洞穴の中なので山火事になることもないだろう。

ニーナは俺が難なく宝具を使ったことに驚いていた。どうやら宝具を発動させるための魔力は少なくないらしいのだが、まぁ魔力関係のことはやはりよくわからない。

 死体の処理を済ました俺達はそそくさと洞穴を後にする。

 盗賊が盗んだ金貨や宝具を含めた武器の幾つかは持って帰ることにした。持ち主に返そうにも持ち主がわからないし、放置するにはもったいない。討伐報酬として頂くのが一番であった。というかこれを提案したのはニーナで……ちゃっかりしているところもあるだと思った。




 森を抜け、村を目指すため出発した俺達を歓迎するものはすぐ現れた。

 いや、まだ見えてはいない。俺の聴覚が獣の唸り声を、直感が捕食者の気配を感じ取ったのである。


「まぁ、こんな森にいたら獣の一匹や二匹出てくるのは当然か」


 俺はニーナを守るように立ち、黒き連弩――《ガンスディーヴァ》を構えた。

 

 


次回――モンスターを狩る。

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