10.謎のナイフ
久々に更新。
新作のほうばかり書いていたせいで中々『めん弓』の更新が出来ず申し訳ないです。
「これは……凄い……」
コノエ村中心部に構える『道具屋』。そこへと足を運んだ俺とニーナであったが俺はまず驚かされることとなった。
古い建物の中には小さな村には見合わない程、多くの品物が並べられていた。見たところ生活用品から武器の類いまで、取り扱われている商品は多岐にわたっている。
「ニーナちゃん、いらっしゃい。はて? あんたは見かけない顔だねぇ」
店の奥から白髪の老婆が出てきた。おそらく道具屋の店主だろう。
「俺は昨日からこの村に泊めてもらっているカリュウ・ブラットだ」
「ああ~あんたかい、噂の冒険者っていうのは」
「そうだ。それで、クエストに行くための装備とか必要な道具を揃えたいんだが……」
「それなら奥の方に鎧とかがあったはずだね。自由に見ていくといいよ」
奥に棚に並べられているのは剣から盾、防具といった装備品の数々だ。鉄や鋼、または魔物の素材を用いて作られたと思われる物まで様々な種類があるようだ。
俺はニーナに声をかけてから奥の棚を物色し始める。 と言っても、俺の知識では装備品の能力はわからない。
なので、これを使う。
「|《真眼》(ヴェルター)発動」
視界にある武具を一つ一つ繋ぎ、解析してゆく。以前は一度に多くの情報を捉えることは無理だったが、今は違う。俺も幾らか練習したのだ。イメージするのは回路の接続、対象物を糸で紡ぐように脳内で描く。決して焦ってはいけない。心を静めて魔力をゆっくりと体内で循環させつつ両目に流れ込ませる。
――読み取り完了。解析開始。
解析された情報が文字列となって視界に表示されていく。
それを見て、俺は小さく唸る。
どの防具も個性はあるが総合して考えると大差がないのだ。この場合は自分の戦い方に合った装備を選ぶのが最適か。
俺の戦い方は機動力を主に立ち回るものだ。重量の大きい防具は移動を阻害してしまうから避けるべきだろう。
俺の持つクロスボウ《ガンスディーヴァ》は近、中、遠距離問わず高い威力を発揮できるが、基本的に一定距離離れた位置から攻撃をしかけるのが定石だ。剣や槍ほど近距離でやり合うことは少ないので、それほど堅牢な防御は必要ない。
……となると致命傷を防げる程度の防御力と軽い装甲を持つ防具、か。
「これとか良さそうだな」
手に取ったのは鉄鋼で出来た銀色のシンプルな防具一式だ。
銘は《メタルライトシリーズ》。
軽く、それでいて必要な防御力も備えている。見た目も派手さはないが、無駄のない洗練されたデザインで好感が持てた。装甲に貼られた紙には4万ディアと書かれている。他の物より多少、値は張るが、所持金は今のところ充分にある。問題ないだろう。
買う物は決まった。代金を支払うため、店の入り口に向かおうとする。
――が。
積んであった木箱に膝をぶつけてしまい、床に箱が落ちてしまった。
「おっと…………ん? これは……」
落下した衝撃で箱の蓋が外れていた。そこに入っていた物は、ナイフだ。一見すると何の変哲もないナイフである。ただ、銀に光る刃には文字が刻まれていた。
これはもしや、と俺は気になり、《真眼》を起動させる。
【未完成の宝具】
何らかの力を有している。しかし未だ完成に至っていない。
ナイフとしての能力は十分に備わっており、切れ味は抜群。
やっぱり、宝具だったか。しかし未完成とはどういう事だ。何かのパーツが足りていないのだろうか。
これも品物なら買っておいても損はなさそうだ。店主の婆さんに訊いてみよう。
「欲しいものは見つかったかい? ……おや、珍しいものを持ってきたねぇ」
婆さんはどこか神妙な顔をする。俺の持ってきたナイフを見て、だ。
「そのナイフは宝具ですか……?」
ニーナが言う。見るだけで宝具であることがわかるらしい。この世界の住人は皆、そうなのだろうか。
「そうだよ。でもこのナイフは宝具としての使い方がわからないんだよ」
「そうなのか」
話を合わせておく。未完成ということはわかっていないらしい。だが、宝具としての力が使えないという点は違わない。《真眼》の能力では現状の情報を解析することしか出来ない。
だが、今後何かしらのヒントが見つかる可能性もある。
「そのナイフはあんたにあげるよ」
「いやでも……」
「ずっと売れ残ってるものなんだ。あんたならうまく使ってくれるかもしれん」
「そうか……ありがとう」
俺は4万ディアを支払って、防具と未完成の宝具を手にした。婆さんに礼を言いつつ俺は道具屋を後にしようとする。
「あんた、このまま出かけるんだろう? だったらここで着替えていくといいよ」
お言葉に甘えて俺は店先で《メタルライトシリーズ》に着替える。防具はインナーウェアの上に着るので別に人目を気にすることはなかった。
――が、ニーナは顔を赤くして何処かへ逃げていってしまった。
流石に女の子の前で着替えるのは無神経だったか……?
ともかく、これで装備は揃った。
これなら安心してクエストをこなせそうだ。
すると、ニーナが俺の元に戻ってきた。一応、謝っておこうかと思っていたところ、俺はニーナが何かを持っていることに気付く。
「ニーナ、それは?」
「回復草です。どうぞ貰ってください」
「いいのか?」
「はい。少しは役に立つと思います。…………私もカリュウ様には無事に帰ってきてほしいですから」
礼を言って、ニーナの頭を撫でた。ニーナは顔を赤らめつつもそれを受け入れてくれた。嫌がってはいないようだ。
「私も本当は一緒に行きたいのですが……私の力じゃ足手まといになりますから」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。ちょっと見回りと魔物を狩ってくるだけだから」
そう。何も心配することはない。
俺はあるべき場所に帰って来るだけだ。此処で待っていてくれる人がいるのだから。
俺は覚悟とともに、村の門へと脚を進めた。
小さな門の前でニーナと村長が見送ってくれた。幾らか言葉を交わして、俺は村の外へと歩いていく。日は高く昇っていた。しかしあまり暑くは感じない。
寧ろ、俺は寒いと感じていた。季節は日本でいうならば初夏といったところ。普通なら暑いと思ってもよいというのに。
俺の内の何かが、寒々しい予感のようなものを敏感に感じ取っていた。
しかしこの時、俺はそんな予感を見過ごしていたのである
♰ ♰ ♰
コノエ村は四方を森に囲まれている。
俺がこのクエストで来たのは、この世界に転送された時とは違う方角であった。
村を出て、少し歩くだけで森の入り口に辿りつく。
豊富な動植物が生息するオストルトの森。ここがクエストの舞台だ。
村に行く前に俺はこの森で盗賊と魔物との戦闘を経験している。あの時は特に異変といったことは感じ取れなかった。
しかし、今は素人目にもわかる。
「妙に静かだな……」
森に入って暫く歩き続けているが、魔物の姿は見えない。それどころか小鳥や虫すらいない。そして、異常なまでの静けさ。獣の鳴き声、狼の遠吠え、小鳥のさえずりも全く聞こえない。
何かがおかしいと思うのは当たり前だ。
俺は全身の感覚を研ぎ澄ませつつ、歩く。
弓兵としての、常人離れした聴覚、視覚、その全てを最大限に引き出す。
感覚の糸。それを空間に張り巡らすように注意深く警戒する。
それはまるでレーダーの如く、機能を発揮していく。
僅かな空気の振動すら感じ取り、決して逃がさない。
そして、俺は遠くから気配を感じ取った。
戦いは近い。
それを俺は既に知っていた。
次回――異変の元凶を打ち破れ
3日以内に更新! 多分!