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フラグなんて怖くネェ!(前)

「あー食った食った。」

腹をさすりながら歩く京介。

「中世な雰囲気だから薄味かと思ったんだが、スパイスが利いてて上手かったな。」

「ええ、特にあの店は“異世界の歩き方”にも良い口コミが多かった店です。評価も4星でしたよ。」

「へー。」


アプリ”異世界の歩き方“は世界検索と同期しており、そこから地図や施設の情報・その口コミ迄随時収集し自動的に記事にしてくれる便利なアプリだ。またナビ機能も持っており、これを起動させている間モモにも情報が同期しナビゲーターとなる。


「じゃーさっさと迷宮とやらにいきますか。」

「ソレは無理のようですよ。キョウ様。」

「え?なんで?」

「迷宮に入るには冒険者の資格と神殿の許可が必要のようです。」

「そんなん。俺の力で何とかなるだろう?」

「いえ。コレは貨幣の時と同じです。無理に押し通れば迷宮そのものが崩壊する魔術的プロテクトが施されているようです。」

「めんどくさっ」

「しかし、そこまでする価値のあるものが眠っていると言う事です。それにキョウ様に取って冒険者になることは不利益ではありませんよ。」

「そうなの?」

「はい、冒険者は世界中に存在しており、それを統括するギルドには必然的に情報が集まります。」

「帰る為のヒントがあるかもしれないと言う事か・・・。」

「その通りです。」

「よし、冒険者にはどうしたらなれる?」

「ギルドに申請を出せば良いようです。その際登録料として銀セシル5本が必要です。ギルドはここにも出張所があるようですよ。」

「わかった。案内してくれモモ。」

「かしこまりました。」


京介たちはギルドの出張所を目指し飲食の屋台が集まっている場所から露店が並ぶ区画を通り抜けて行く。その先に警備にあたる兵士たち詰め所が見える。


「あれなんだ?」

その詰め所の前に人だかりができている。もめ事のようだ。野次馬で姿は見えないが言い争う男女の声がする。

「痴情のもつれかなんかじゃないですか?私たちには関係ありません。ギルドはこっちですよ。」

もともと秘書アプリであるモモは予定の消化が最優先だ。

「まあ、そうだな。俺もやっかいごとはごめんだ。」

人だかりはほっといてギルドへ向かう。


「キョウ様ここです。」

モモが指し示す先にはターレンス商会の出張所とほとんど変わらない建物だった。唯一違ったのは剣と盾が意匠化された紋章が掲げられているところだ。扉は開け放たれているので京介はそのまま足を踏み入れる。


入ると正面奥にカウンターがあり数人がその奥の従業員と話している。その周りには机や椅子が置かれており、資料を広げる冒険者のパーティーや掲示板で依頼のチェックを行っている冒険者もいる。人間が大多数だが、獣人を始め亜人も少なからずいた。驚いた事に女性や子どもも多い。京介はカウンターに近づき、手のあいていそうなスタッフに話しかけた。


「すいませーん。」

「ん?見ない顔だね?登録かい?」

「そうです。」

京介が話しかけたスタッフは読んでいた書類から顔を上げ京介を見る。初老の男性で穏やかな雰囲気を漂わせている。

「そうか、宜しく頼む。私はターナー。解らない事があれば何でも聞いておくれ。」

握手を求めるターナー。

「キョウスケです。こちらこそ、よろしくお願いします。」

京介は挨拶しながら握手を交わす。握ったターナーの手は不自然なほど固い。京介が違和感を感じていると、京介の頭に直接モモの声が響いた。


「キョウ様。この方強いですね。レベルで言うと限りなく9に近い8と言ったところです。」

「ぬ。強いな。」


「分かるのかい?」


ターナーが驚きの声があがる。京介の声が漏れていたらしい。


「え、ええ。少しは。」

「そうか。期待の新人だな。じゃあ、さっそく登録しようかね。」

マズい事を口走ったかと焦ったが、ターナーは少し驚いただけでおどけてみせた。


「じゃあ、このパレットのこの凹みに親指で拇印を押すようにしてもらっていいかい?」

ターナーはカウンターの下から絵を描く時に使うパレットのようなモノを取り出し、京介の差し出す。言われた通りに凹みに親指を押し付けると、絵を書くパレットで言うところの色を置くところに様々な色が浮び、紫がかったきれいなグラデーションを生み出した。

「ほう。君は魔術師かい?魔力が相当高いようだ。」

「え?その色で分かるんですか?」

「まあ、基本この色彩パターンは個人を識別するもので、強さを測るモノではないのだけどね。統計的に魔力の強い人間は紫系統の色が多く出るんだよ。」


パレットを操作しながら答えるターナー。


「へー。そうなんですか。」

「そうだよ。はいこれ、ギルドカード。登録料に銀セシル5本頂くよ。手持ちがないならギルドに借金という形もとれるけど?」

「あ、いえ。大丈夫です。」

名前値ランク、そして先ほどのグラデーションパターンが刻まれたギルドカードを受け取り、登録料を払う。


「登録は以上だ。続いてギルドの説明を聞くかい?」

「お願いします。」


京介は世界検索をすれば簡単なのだがギルドの人間とはなるべくコミュニケーションを取っていた方がいいだろうと、説明を聞く事にした。


「冒険者はいろんな依頼をこなす事で世の中に貢献し、その対価を得て生きている。依頼の内容は家庭のお使いやお手伝いから魔物討伐迄様々だ。冒険者ギルドなんて言っているけど、元は立場の弱い者同志の互助会だったんだよ。だからギルドには女子供もたくさんいる。」

「なるほど。でも、彼らにできる仕事ってあるんですか?」

「そう思うだろ?だからギルドではランク制を導入しているんだよ。3級から始まり1級の後は初段、2段、3段となっていて、こなせる依頼の難易度が変わっていくんだ。成人男性は特別な事情がない限り2級から始まる。依頼は自分のランクと同じか一つ上のランク迄しか受けられない。下のランクの依頼は受けられないようになっているから気をつけてほしい。これは強い者が仕事を独占しない為の仕組みなんだ。」


さらにターナーの説明はつづく。まとめると、依頼は一回につき一つしか受けられない。だが、依頼を遂行中に別の依頼をこなしてしまった場合は証明できるものがあれば依頼を達成した事にしてもらえる。逆に依頼の失敗や自分都合の破棄などには厳しい罰則が用意されている。罰則は失敗によって受けた被害の弁済はもちろんの事、ギルドへの罰則金として依頼料の2割を納めなければならない。また、失敗や破棄が続くとランクも下げられる事になる。ランクアップについては1級までは自分のランクの依頼10回と一つ上のランクの依頼を3回達成する事で上がるが、初段で一回ギルドによる試験があるらしい。基本この初段合格を持ってギルドでは一人前の冒険者として認められる。その後は依頼の達成度・ギルドや国に対する貢献度など総合的に見てギルドが判断するとのことだった。


「あと、注意点としてギルドは依頼達成の為のサポートやトラブルの解決には力を貸すけど、冒険者同士のトラブルには関与しないので気をつけておいてくれよ。特にキョウスケは気をつけていた方が良い。魔術師は多くは無い。悲しい事だがその力を利用しようと狙ってくる人間もいるかも知らないからね。」


「ぬ。今要らないフラグを立てられたような気がした。」

「ふらぐ?」

「いえ、何でもありません。あと、俺は迷宮に入りたいんですけど、それについて何か知っておく事はありますか?」

「ああ。キョウスケは探索者志望だったのかね。迷宮に入るにはギルドランク初段以上と神殿の許可が必要になるよ。」

「え、冒険者はなれば良いんじゃないんですか?」

「10年くらいまではそうだったね。でもそれだと無謀な若者が後を絶たなくて、初段以上の冒険者に限る事にしたんだ。」

「そうですか。」

「でも、初段を得た時点で希望者にはギルドから神殿への紹介所を交付するからね、手続きは大幅に短縮できるよ。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「うん、分からない事があったら気軽に声をかけておくれ。キョウスケの前途に幸多い事を祈ってるよ。」


最後にターナーと握手を交わしてカウンターを離れる。正直めんどくさい事になった思いながら、依頼が貼付けてある掲示板へ移動する。掲示板はランクごとに別れていてかなりの数の依頼が貼付けてあった。京介のランクで受けられる依頼は中継所という事もあって護衛や荷物運びなどがほとんどだった。どれとなく依頼の内容を呼んでいると「キョウ様。」と、また京介の頭に直接モモの声が響いた。

「なんだ?」

「さっきからキョウ様を見ている二人組の冒険者がいます。」

「え?まさか・・・」


「オイ、お前!」


モモの警告と同時にやたらと野太い男の大声が響いた。おそるおそる振り返る京介の前には、予想通りの悪人面をしたマッチョな男とニヤケ顔を張り付かせたやけにひょろ長い男の二人組がいた。


「・・・フラグ恐るべし。」

「ええ。」


そして余りのテンプレに京介とモモの二人は言葉を失うのであった。

テンプレを壊す為にテンプレを描くこの矛盾w。


感想や評価、誤字脱語の指摘は年中無休で受け付けてます。

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