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14 第二次選考『筆記』


『それではこれより、冒険者試験『第二次選考』を開始します。各自、指定された席に着いてください』



 第一次選考から1時間後。

 選考を突破した受験者たちは、都庁内の巨大な大講堂へと集められていた。まるで大学の階段教室のような場所だ。


 約450人ほどいた受験者は、一次選考で300人強までその数を減らしていた。

 あまり減っていないだって? そりゃそうだろう。

 そもそもエーテル指数はスマホで測れる。足きりに届く可能性がない者たちは最初から試験に挑んでいないのだ。



『第二次選考は『筆記試験』となります。制限時間は50分。100点満点中、70点以上で合格となります。問題用紙と解答用紙は、机の上の端末から各自アクセスしてください』


 俺は久々のテストに緊張しながら、自分の席の端末を起動した。


 はっきりとここに宣言しよう。俺は勉強が嫌いだ。勉強する時間があれば絵を描きたい。

 高校や大学受験のときもそうだったが、なんとかかんとか、持ち前の「集中力」だけを頼りに乗り切ってきた人生だ。

 しかも、俺はこの世界に来てまだ数週間の異世界人。この世界の歴史も魔法の常識も、完全にゼロからのスタート。

 この2週間、鼻血が出るほど死に物狂いで参考書と過去問を詰め込んだ。



「あゆむよ、うっかりミスは絶対にするなよ。あと時間は50分じゃ、60分ではないから気を付けよ」

「シエル、声がデカい。カンニングを疑われるからリュックで大人しくしてろ」

「受験番号と名前を書き忘れるでないぞ!」


 足元のリュックを、つま先で小突いてシエルを黙らせた。

 こいつは本当に記憶喪失なんだろうか? 正直疑わしい。



『試験開始!』


 合図と共に、一斉に端末の画面が切り替わった。

 俺は深呼吸をし、画面に表示された問題文に目を通す。問題はマークシート形式。

 落ち着いて解けば70点は越えられるはず。


 都庁の大講堂は、静まり返った墓場のような緊張感に包まれた。

 第一次選考の喧騒とは打って変わり、そこにあるのは何百人ものモニターを擦るペンの音だけだ。

 

 チラリと横の列を見ると、あの神丸 龍之介は余裕の表情でペンを走らせていた。

 さらに前方には、制服美少女の後ろ姿が見えた。彼女もまた、迷いのない筆致で問題を片付けている。


(……負けてらんねぇな)





『第24問:『箱舟』の構造と、冒険者の目的について、正しいものを選択せよ』


 ……基本中の基本。これは過去問でやったところだ。


 東京湾に浮かぶ謎の超巨大建築物『箱舟』。

 その内部には、黄道12星座にちなんだ『12のダンジョン』が存在し、それぞれに『白羊宮』『金牛宮』……といった名が付けられている。



 そのダンジョンの奥底に封印されているのは、なんと『地球の死の未来』だ。


 

 冒険者がダンジョンを踏破し、その「死の未来」を破壊しない限り、いつか必ず「死の未来」は現実のものとなり地球を滅ぼす。先日の箱舟バーストは、「獅子宮の死の未来」が外に漏れ出した現象だった。


 だからこそ冒険者は命を懸けて12宮の踏破を目指し、世界中がその一挙手一投足に熱狂しているというわけだ。


 ちなみに、箱舟がこの世界に現れてから過去66年。その間に踏破されたのは5つのみ。未だ7つの「死の未来」が残っている。しかも、ここ10年は一つも踏破されていない。

 それほどまでに箱舟に封印されている『地球の死の未来』は、攻略困難な代物というわけだ。



 脳内で知識を引っ張り出しながら、順調に解答を埋めていく。

 だが、試験が後半に差し掛かるにつれ、俺のペンの動きがピタリと止まった。


 過去問にはなかった応用問題のオンパレードだ。額からタラリと冷や汗が流れる。

 当然だ。この世界の住人たちが生まれつき身につけている常識を、俺はたった2週間の付け焼き刃で挑んでいるのだから。基礎はともかく、重箱の隅をつつくような専門知識にはお手上げだ。


(フッ……こういうときこそ、前世の26年分ぶんの人生経験を活かすとき!)


『①、①、④、⑤』と来たから、そろそろ『③』が来る……はず!


 出題者の心理を読め! 分からない問題は、一番もっともらしい長文の選択肢を選べ!

 俺はメタ推理という名の「勘」を総動員して、執念で解答欄を埋め尽くした。





「ゼェ……ゼェ……終わった……」


 講堂のあちこちからは、魂の抜けたような呻き声が聞こえてくる。

 俺を馬鹿にしていた連中も、白目を剥いて完全に沈黙していた。ざまぁみろ。



 試験終了から1時間後。

 エントランスの巨大な電光掲示板には、合格者の受験番号と点数がズラリと表示されていた。

 群がる受験者たちの間から、歓喜の声と絶望の悲鳴が入り混じって聞こえてくる。



「……えーと、俺の番号は415番。415……415……」


 祈るような気持ちで、掲示板の数字を目で追う。

 この緊張感、心臓に悪すぎる。頼むから合格していてくれ!


『012番 神丸 龍之介  100点』

『398番 桜井 七花   91点』


 ……ん?

 俺の番号を探す途中で、とんでもない点数が目に飛び込んできた。

 91点と100点満点!?


 見ると、あの三つ編みイケメンの神丸が、女の子たちに囲まれて「さすが龍之介様!」とチヤホヤされていた。彼本人は険しい表情で掲示板を凝視している。満点なのに何が不満なんだ? まったく、いけ好かない奴だ。


 そして『桜井 七花』というのは……あの制服美少女か。

 彼女は高得点に特に喜ぶ様子もなく、スマホを確認しながら涼しい顔で歩き去っていくところだった。


(あいつら、エーテル指数がバカ高いだけじゃなくて、頭もいいのかよ……。天は二物を与えすぎだろ)


 格の違いを見せつけられ、少しだけ胃が痛くなった。

 だが、今は他人のことを気にしている余裕はない。俺の番号はどこだ。



「あった……ッ!」


 掲示板の端の方に、俺の受験番号が確かに光っていた。


『415番 六条麦 歩  71点』


「……あ、あっぶねぇぇ!!」


 思わず、腹の底から情けない声が漏れてしまった。

 合格ラインは70点。つまり、あと1問でも間違えていれば不合格という、首の皮一枚のギリギリ突破だった。


「おいシエル、見たか! 俺、受かったぞ!」


 歓喜の報告をすべくリュックの中を覗き込むと、シエルは食べかけのひと口チーズを抱えたまま、口を半開きにして爆睡していた。

 俺が必死に脳細胞をすり減らしている間に、こいつは……。




『それではこれより、二次選考通過の256名は、地下5階の特設アリーナに移動してください。三次選考は『対戦形式・実技試験』となります』


 ゴクリ、と受験生たちの生唾を飲み込む音が聞こえた。



 いよいよだ。

 俺とシエルの本当の力が試される、実戦の時が来たのだ。





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