罠には罠を
-屋敷の奥、魔法の全身鏡が鎮座する部屋。重厚な扉が閉ざされ、外界からの干渉を完全に遮る結界が張られた空間――そこは、まさに真実を暴く場であった。
レオンは鏡の前に疑惑の生徒を立たせると、父親に小声で尋ねた。
「……もしこの子が呪具を身に付けていて、しかもリュシェルに監視されているとしたら……逆に、それを利用できないか?」
王国騎士団長である父は、一瞬だけ目を細めたのち、懐から小瓶を取り出す。それは淡い金色に輝く液体――祝福された聖水。
「これを呪具にわずかにかければ、効果は狂う。ただし“完全に破壊”するわけではない。術式の流れをほんの少し変え、偽の映像や嘘の情報を敵へ送り返すようになる」
「つまり、敵を騙す“トリック”に使えるってことか……!」
「ただし、使用するのは一瞬、最小限にしろ。呪具の構造が複雑すぎる場合は、逆に術者に気取られる。お前の判断力が鍵だ、レオン」
頷いたレオンは、静かに裏切り者の背後へと回り込む。鏡はすでに呪具の位置を示しており、耳飾り、帯、靴底……どれも高精度な情報収集具だった。
「……じゃあ、試してみるか」
レオンは聖水を布にほんの少量染み込ませ、耳飾りの裏側にさっと押し当てた。
――その瞬間、耳飾りの魔力の流れが微かに歪んだ。通常ならその異変は術者に察知されるが、この屋敷の外界遮断結界がすべてを封じていた。
「……呪具が“記録”する内容を書き換えた。次に裏切り者が学院へ戻った時、リュシェルが見て取れる情報は“何も問題がなかった”という内容になる。取り調べで余計なことを口走っても、全て歪めて送られる」
「本当に……騙し返せるのね」とエリナが小さく息を飲んだ。
「でも、名前も……念のため確実に知っておきたいわ」
ジークが鏡に魔力を流し込むと、再び波紋のように広がる鏡面に、文字が浮かび上がる。
“ゼイラン=ロア”
「確認完了。じゃあ、予定通り“何も無かった”ことにして、この子は学院に帰そう」
レオンは鏡を見つめながら小さく呟く。
「……これで、逆にリュシェルの反応が見られる。もしこっちが偽情報を掴ませたと知れば、何らかの“動き”を見せるはずだ」
「罠には罠を――か。上等だ」とジークが口角を上げる。
「でも、油断は禁物よ。今度は“誰が本当に裏切っていないのか”を、こっちが試される番だから」




